2008
07.03

2008年7月3日 西鉄ライオンズ

らかす日誌

「大道さん、1年間に何冊ぐらい本を読みます?」

知人に聞かれた。深く考えもせず答えた。

「そうねえ、少なくとも100冊ぐらいは読んでいると思うけど」

知人は驚いた顔をした。

「年100冊って、週に直すと2冊ですよ。そんなに読んでるんですか?」

なるほど、計算をすれば確かにそうなる。1週間に2冊……。

「うん、もっと読んでるかも知れないなあ」

今週は文庫1冊、新書2冊をすでに読んだ。いまは4冊目の文庫を持ち運んでいる。587ページの本をまだ106ページしか読んでいないが、週末までには読み終えるのではないか? この勢いで行くと、年間の読書は200冊になる。これに雑誌や漫画を加えたら……。
やっぱり活字中毒かな?

というほど読んでいても、これという本にぶつかることは少ない。無論、それなりに面白そうな本を選び、それなりに楽しみながら次から次に読むのだが、

「あなたも読んでみませんか?」

と他人様に勧めたくなる本はそれほど多くない。エンターテインメントばかり読んでいるからか?

幸いなことに、今週は、これ、という本にぶつかった。

西鉄ライオンズ 最強の哲学」(ベースボール・マガジン社新書)

日本のプロ野球史上で最も魅力に溢れる最強のチームだった西鉄ライオンズを率いた三原脩監督の野球への取り組みを書いた本だ。著者は、当時の西鉄ライオンズ中軸打者、中西太さん。三塁手の頭上を襲ったライナーがスタンド入りした、170mの超特大ホームランを打った、という伝説の打者である。それに中西さんは三原さんの女婿でもある。
この著者にこのテーマ。私にとっては買うほかない、読むほかない本だった。そして、期待を裏切らなかった。

三原監督は名将、知将と称えられた。西鉄では日本シリーズで巨人を相手に3連覇したり、万年最下位の大洋に転じて突然日本一にしたりと、監督としての実績があるからだ。だが、三原監督を最もよく表現するのは魔術師という呼び方だ。

奇策、としか見えない采配が目立った。

それまでマウンドに立っていた稲尾投手をライトに下げ、リリーフピッチャーを送る。リリーフが1人を討ち取ると、再び稲尾投手をマウンドに上げる。

満塁のケースで、打者に全球待ての指令を出す。

巨人と初めてぶつかった1956年の日本シリーズ。西鉄ライオンズの先発は、シーズン中わずか2勝しかあげていない川崎投手だった。そして、西鉄は初戦を失う。

代打に代打を出す。

「そんな常識破りな」

観客も相手チームも驚く。度肝を抜かれる。ところが、それが、ことごとくいい結果に結びつく。常識無視の采配で好結果を残す。常識とは、それまでの経験に基づくノウハウの集大成である。それを無視して勝つ。魔術である。

いや、三原監督は魔術を使ったのではない。勝つためにはどうすればいいのか。人間の心理、生理までを深く考え、合理的に、徹底的に勝つ方法を追求して得た結論が、考えぬ輩どもが常識と信じていたことにそぐわなかっただけである。三原マジックとは、考えに考え抜かれた野球理論なのである。
中西さんはそれを伝えるため、この本を書いた。快著である。

そして、知将が徹底的に考え抜いた野球理論がつまった三原語録は、学ぶものが多い。例えば。

「ファイトとは何でもかんでも猪突猛進することではない。血気にはやって投げるな、打つな、走るな」

本体760円の安い本である。2、3時間もあれば読了できる。ご一読をお薦めしたい。