2010
02.18

2010年2月18日 忙しい?

らかす日誌

「どうしたんですか、最近? お仕事、忙しいんですか?」

眼鏡屋さんに言われた。

 「いや、そんなことはないけど。第一、忙しいのは嫌いだし、たとえ忙しくても、忙しいとはいいたくないし。仕事に追われたって、せめて外向きだけでも悠然と構えていたい、というのが僕のポリシーで、忙しい、忙しい、なんてわめき回っている男を見ると、その人間の貧相さが表に出ているみたいで哀れになってしまうんだけど。それに、最近は私を追ってくる仕事なんて無視するし。でもどうして?」

我が人生哲学を交えながら答えると、

「最近、日誌の更新頻度が落ちましたね」

グサッとナイフを差し込まれた。そうなのだ。この眼鏡屋さん、仲良くなってこのホームページのアドレスを教えたら、店員さんと一緒になって欠かさず読んでいてくれる。

「プライバシーの奥の奥まで見せて頂いているようで、何かもう、一緒に暮らしているような気がして」

そんな言い方をされたこともある。いやいや、これでも隠していることはたくさんありまっせ。ここに書いていることが私のすべてだと思われたらはなはだ迷惑。私はそんなに小さな男ではございません。

とはいうものの、昨年末から継続してきた

日々更新

方針にゆるみが出てきたのは確かである。まあ、私も仕事を持つ身である。それに、ギターもできるだけ早くマスターしたい。一日も早く他人様の前でTears in Heavenを 弾きながら歌い、若く、見目麗しい女性の心を揺さぶりたい。おまけに、読みたい本がたまっている。たまには映画も見たい。車も洗わねば泥だらけだし、健康を維持しようと思えば、毎日の散歩も欠かせない。

というわけで、なかなか日々更新というのは難しいことに気がついたのである。

あえていえば、書かねばならぬという義務感に追われて書いた文章は、自分で読んでも味がない。やはり文章は、内面での熟成がないと輝かない。くすんだ文章を量産してどうする?

いろいろ書いたが、詰まるところ、ネタが切れてきたのだ。一市民として平々凡々たる暮らしをする身、毎日毎日、文章として残したい、伝えたい出来事、思いがあるわけではない。公開できないプライバシーがあることで、さらにネタの範囲が狭まる……。

いや、これからもできるだけ頻繁に更新することはお約束する。空白日があっても、武士の情けでお許しいただきたい。お読み頂いている方すべてが武士道に通じていらっしゃるわけでもないだろうが。

にしても、だ。昨日は計算外だった。
昨日、風呂に入ってビール2本をアピタイザーとしながら夕食をすませ、パソコンの前に座ったのは8時半頃だった。日誌を2日間書いてない。今日は書かねば。そんな思いを抱えてディスプレーに向かい、ソフトを立ち上げた。

ネタはあった。前日の16日は、5週間に1回、妻を前橋の日赤病院に連れて行く日である。9時頃家を出て、

「尿タンパクが減っていなかった」

という妻の嘆きを聞きつつ桐生に戻り、ヤオコーで買い物をして帰宅した。
一休みして、お隣のみどり市に出かけた。「赤城山」という酒を造っている近藤酒造の利き酒会に来ないかと誘ってくれる人があり、午後3時過ぎから降り始めた雪の中、愛車をかけって出かけたのだ。
この2つを上手くまとめれば文章になる。

なのに、パソコンに向かっても文章が出てこない。

2010年2月17日

と書いただけで、あとは空白のディスプレーを、さてどれぐらい見つめていたろうか。

「だめだ、こりゃあ。何も書けないわ」

断念したのは午後10時頃。

「俺、何か心に深い悩みを抱え込んじゃったのか?」

仕方なく、映画を見た。「アルマゲドン2009」。何ということはない、罪のないSFである。見終わったのは12時近く。そのまま布団に入って寝た。

でも、昨日はどうしたんだ?
今朝から、あれこれ考えた。

「ああ、そうか」

思い当たることがあった。一昨日の利き酒会である。

始まったのは午後6時前。樽から絞ったばかりの生酒が飲める。市販の日本酒と違い、アルコール度数は20度近い。これを水で薄めて売るのである。薄められる前の酒を味わおうと思ったら利き酒会に出るしかない。さ、飲もう!

と腰を上げかけたときだった。電話が来た。仕事を1つ片づけてほしいという。泣きたくなるほど少ないとはいえ、俸給をいただく身である。仕事とあればこなすしかない。

「ごめんなさい。ちょっと仕事を片づけるから、先にやっててください」

仕事は、電話とパソコンでこなせるものだった。電話をする。持参のパソコンをネットにつなぎ、文章を入力する。急げ、急げ、酒が待ってる……。

「まだ仕事してんの?」

私を誘ってくれたおじさん、といっても私の数歳上だが、が事務所に顔を出した。

「利き酒会、もう終わったよ」

えっ、そんな!

「だって、樽のそばは寒いし、立って飲んでるから腰が痛くなるし」

外では雪が降りしきっていた。

「美味かったなあ」

ああ、そうですか、そうですか。私を置いてきぼりしちゃったのね!

仕事を終えて、その彼と飲み直しにいった。そうでもしないと、私の中のマグマが静まりそうにない。

「桐生は、少しは元気になりましたか?」

—いえ、まったく。リーダー不在です。

「みどり市との合併話ですけどね」

—いまさら合併する意味、ないでしょう。

そんな話をしながらひたすら飲んだ。2合徳利が、確か5、6本横になった。私を誘ってくれたおじさんは、私ほどピッチが早くなかった。
ということは、俺が飲んだのは6合? 7合?

そこまで思い出して、合点した。

「そうか、昨日文章が出てこなかったのは二日酔いのせいか!」

ひとまず納得した。だが、納得しきれないものも残った。
そうかなあ。心のどこかに傷を負っていたのではないか? 傷の痛みで心が萎えていたのではないか?

二日酔いで文章を書けない男と、心の痛みで文章を書けない男。
あなたは、どちらが格好いいと思いますか?

ん? どちらも格好悪いって?
…………。