2010
04.07

2010年4月7日 溶ける

らかす日誌

自民党が溶ける。離党者は、沈みかかった船から逃げ出す鼠である。だが、海に浮かぶ船から逃げる先はないのだが。

政界では坂本龍馬がブームらしい。自民党を離れた方々は、平成の龍馬を気取っていらっしゃるのかもしれない。明日の日本のために、脱藩する。狭い藩の中では改革などできない。暗愚な領主の元では戦えない。
新党名は「たちあがれ日本」とか。
あ~ぁ。

たちあがれ日本、とかけ声をかけるより、俺、いつまで自分で立ち上がれるかな、って心配しなければならない年頃である。
そんな人たちに、たちあがれ、っていわれなきゃいけないほど、俺たち老け込んじゃったのか? そういえば、新党の命名者、石原慎太郎はもう77歳。喜寿だぜ!

あのねえ、脱藩したとき、龍馬くんは28歳だったんですよ。だけど、平沼赳夫さん、あなたは既に70歳、与謝野馨さんに至っては71歳。都に行き着く前に野垂れ死んでも知らないから。

これじゃあ、たちあがれ日本、というより、老人党だろうが。この党名はWOWOWのドラマからのパクリだけど。

いまの私が暮らす群馬県は、保守王国と呼ばれてきた。1区から5区までの選挙区で選ばれる衆議院議員は自民党ばかり。安定した選挙区に支えられ、福田赳夫、中曽根康弘、小渕恵三、福田康男と4人もの首相を輩出してきた。

だから、昨年の衆議院選挙の結果を事前に見通していた人はほとんどいなかったのではないか。いくら民主党に風が吹いているといっても、ここは群馬だぜ。群馬に吹くのは空っ風だけ。民主の風なんて吹かない、って。
ところが蓋を開けみてみると、1区から3区まで民主党に負けた。4区の福田康男元首相も危なかった。空っ風以上の威力を持った民主の風が吹き荒れた。

自民党嫌いの私でも、当初は何が起きたのか理解できなかった。自民党が大敗したのは喜ばしいが、でも、この保守王国で何が起きたんだ?

だが、いまは明瞭に見える。無論、民主の追い風もあった。選挙を前にしての自民党の失策も数多かった。だが、それだけなら、こんな大敗には至っていなかった、と思う。
自民党を大敗させたのは、自民党の老化だった、と私は見る。去年の衆議院選挙で大敗しなくても、群馬県の自民党は、人であればいずれは死を迎えるのとまったく同じ理由で、近々崩壊する運命にあった。

1区:尾身幸次 77歳
2区:笹川堯 74歳
3区:谷津義男 75歳
4区:福田康夫 73歳

いずれもご高齢である。働けなくなる日までのカウントダウンは、とうに始まっている年齢である。この方々が、次の4年の国政を担おうと立候補された。
いや、高齢であることが悪いというのではない。問題は、彼らが選挙に強かったことだ。選挙に勝つには、選挙に強い候補者を立てねばならない。彼らは、前回までの選挙で勝ち続けたが故に、昨年も候補になった。
立てば勝つ。おそらく、関係者はそれを疑わなかった。何しろ、実績があるのだ。立てば勝つのだから、関係者は楽である。前回も楽に勝った。今回も楽に勝てるはずだ。
それが油断を招いた。

油断は2つの現れ方をした。
立てば勝つから、支持組織の拡大がおろそかになった。とにかく強いのだから、新しい支持者を探す努力をする必要は薄い。とにかく、この先生を担いでおけば勝てるのだ。何もどぶ板を分で支持者を広げなくてもいい。そっちの方が楽だし。
気がついてみたら、支持者たちは候補者と同じ速度で齢を重ねていた。いつの間にか、選挙に駆けつけるのはじっちゃん、ばっちゃんばかりとなった。

「あれ、五作さんはどうした?」

 「それが2年前の冬、ぽっくり逝ってなあ」

選挙事務所で、そんな会話が多数交わされたのではないか。盤石だったはずの支持組織から、票が溶けて流れ出た。

もう一つは、現職が強すぎ、選挙をやれば勝ってしまうものだから、後継者の育成が遅れた。

「ま、先生もずいぶん歳とんなさったが、元気だし、まだまだいけるべ。後継者はもう少し先で考えればいい」

そんな会話も繰り返されたはずだ。
群馬の自民党は、次の衆議院選挙では、1区から3区までの候補者を公募するのだという。昨年の選挙で負けた3人には、後継者がいなかったのである。

2つの油断で、群馬の自民党は世間に先駆ける勢いで老化が進んでいた。昨夏の選挙をしのいでいたとしても、近い将来に崩壊していたはずである。

 

さて、「たちあがれ日本」も、ずいぶん高齢の方々が寄り集まられる政党になりそうである。そんな老人党に未来はあるのだろうか?
WOWOWのドラマでは、確か老人党党首は首相に上り詰めたと記憶する。だが、新しくできた老人党はドラマの中の存在ではない。現実の世の中は、ドラマほど甘くはない。
老人党に、未来はあるのだろうか?

でも、困ったなぁ。自民党がこれほど溶けちゃうと、民主党がおかしくなったとき、まあ、現実には少しおかしくなりつつあるが、民主党に変わって政権を担える政党がない。それって、自民党の天下が続いた55年体制を裏返しただけじゃないのか? 1党独裁を作り出すのは民主主義だが、それは民主主義の自殺でもある。おいおい、まだ自殺してもらっては困るんだけどね。
もう少し強い自民党でいてほしいと願うのは、無い物ねだりか?

そういえば、先日、群馬2区から出た民主党の石関貴史衆議院議員と立ち話する機会があった。

「民主党には期待してたんだけど、最近、何だか昔の自民党と同じになってきてない?」

私は誰にでもズケズケとものを聞く。定年も過ぎたんだもん。世の中に怖いものはそんなに残ってないぞ!

「分かってます。夏の参議院選挙が終わったら動き出します。もう少し待ってください」

だそうだ。
自民党がこんな状態では、当面は石関さんの言葉に期待するしかないか……。