2010
05.11

2010年5月11日 天下の

らかす日誌

NHKの、今朝7時のニュース、見た?
私は見た。何しろ、自慢ではないが朝5時半には目が覚める。どうやら、外の光を遮るものが障子のみ、という部屋に寝ているのが原因らしい。朝の光が障子越しに差し込み、優しく目を覚ましてくれる。

「いや、ひょっとしたらそれは、歳をとったということではないですか? 年寄りは早く目が覚めるというし」

という、至極まっとうに聞こえる指摘に貸す耳を、私は持ち合わせていない。あくまで、朝の陽光が私を眠りの世界から引き出すのである。

血圧を測り(下が89で、やや高かった)、着替えをして散歩に出た。約1時間、春先の桐生の朝を呼吸しながら歩く。自宅にたどり着いても、まだ7時前である。
こうして、私はリクライニングチェアに座り、胸から上を包んだ汗が乾燥するのに体温を奪われて

「寒い!」

とひとりごちながら新聞を開き、テレビをつけた。やがて7時のニュースが始まった。

わが目と耳を疑った。
トップニュースが、ワールドカップの代表23人決まる、というヤツだったからだ。

えっ、そんなもんが今朝を代表するニュース?
私はそう思った。だって、たまたま玉蹴りの技術がほかの人間よりすぐれた人間にお墨付きがでたっていうだけじゃない。いや、そりゃあ玉蹴りの世界でも、日本で23本の指(困った。両手両足を合わせても、私はそれほど多数の指を持ち合わせていない)に入れば、そこそこ、たいしたものだ。
だけど、トップニュースか、それが?

まあ、それだけなら見逃してやってもよかった。クオリティペーパーを自称する全国紙も、単なる見せ物に過ぎないと私は考えているオリンピックやワールドカップともなると、1面トップで日本選手、日本チームの勝敗を報じることが日常的に起きている国の、テレビである。

「国営放送よ、お前もか」

と憮然としてればすんだ。
ところが、さすがにNHKだ。それだけではすませてくれなかった。
なんと、15分間もワールドカップ日本代表決まる関連のニュースを続けたのだ。

・背番号をつけたユニフォームが売り出された。
 ・代表に選ばれた○○さんの実家では……。
 ・「ベスト4,狙いたいですよねえ」という街の声。
 ・「△△選手が選ばれて嬉しい」という街の声
 ・治安が不安な南アフリカでの開催で、ワールドカップ応援ツアーへの客の集まりが悪いと対策を考える旅行代理店。

そんなつまらないことを、延々と15分間も垂れ流した。

どうでもいいじゃん、そんなこと!

と思わずつぶやいてしまったのは、私だけなのか?

しかも、だ。トップで放送して、15分もの時間を費やしたのに、肝心の事にはまったく触れない。
日本、勝てるのか? 事前の練習試合(でよかったっけ)ではさんざんな成績しか上げられなかったと記憶するが。

この15分は、ニュースではない。これは、

「NHK、実況中継するから見てね!」

という番組宣伝である。日本チームの実力を問うこともせず、岡田監督を巡る様々な問題、指摘に触れることもなく、ただただアホな国民の期待を煽り、視聴率につなげようとする。これを宣伝と呼ばずして、何を宣伝と呼ぶのか?

きわめて不愉快な気分になりながら、新聞を目切り続けた。思わず、

「あんた、偉い!」

と叫びたくなる記事に出会った。東京新聞の3面である。

「オシム前監督『1勝でもサプライズ』」

岡田監督は過去最高の4強入りを目指すと言い続けている。まあ、目標を掲げるのは勝手だが、しかし、専門家はまったくあてにしていない。
オシムは

「夢を見すぎるのはどうか。1勝でもサプライズ」

と語ったといい、ドイツサッカー協会公認コーチの鈴木良平さんは

「一次リーグの3位争いが現実的」

と言い放ったという。
データも付け加えられている。日本の世界ランキングは現在45位。1時リーグで対戦するカメルーン、オランダ、デンマークの下にいるのだ。
ということは、1次リーグであたるのは、すべて実力が格上のチームばかり。つまり、前頭の相撲取りが小結、関脇、大関、横綱に胸を借りるような組み合わせなのだ。
1次リーグ全敗でも不思議はないのである。

いつもながらであるが、大手メディアがアホな国民を煽り立てるやり方にはゾッとする。アホな国民を、玉蹴りゲームの熱狂に誘い込んでどうするというのだ? あんたら、ファシズムの熱狂をもう一度再現したいのか?

メディアとは、アホな国民が騒げば騒ぐほど冷静に事実を示して

「そんなに騒いでどうするの?」

といさめなければならない。
日露戦争の終結に際し、

「こんな屈辱的な条件で矛を収めるのか!」

と騒いだのは朝日新聞をはじめとするメディアである。煽られた戦勝気分に酔いたい民衆が起こしたのが日比谷焼き討ち事件である。

「日本の実力では、どれほど屈辱的な条件であっても、ここで矛を収めるしかない」

冷静な判断をしたのは政府、軍部だった。

いまの大手メディアは、熱狂の尻馬に乗る、というより、先頭に立って熱狂を煽り立てている。日比谷焼き討ち事件の反省は忘れ去っている。
恐ろしい。

そんな中で、今朝の東京新聞は一服の清涼剤だった。

もっとも、社会面では代表に選ばれた1選手をピックアップ、この男がベスト4進出の鍵を握っていると臆面もなく書いている。
東京新聞だって、まあ、立派な記者もいれば、尻馬に乗って騒ぐ阿呆もいるということらしい。

ああ。