2010
06.24

2010年6月24日 菅直人

らかす日誌

「菅ををどう思う?」

ここ数日、そんな質問を何人から受けた。

菅とは、総理大臣の菅直人さんのことである。首相が交代して民主党の支持率が跳ね上がり、その勢いを借りようと参議院選挙になだれ込んだ。その真ん中にいる菅をどう評価したらいいのか?
鳩山から菅に首相が替わっても、民主党が変わったわけではないだろう。なのに、なぜ民主党の支持率が跳ね上がる?
そんな戸惑いがあるのだろう。

脳天気な人たちである。菅直人に一面識もない私に問うたところで、的確な答えが出てくるはずがないではないか。あんたら、相手をよく見て話しいや。

とは思いつつも、それでも私に問いかけた人たちに、私の感想を申し上げた。

「首相としての適格性については分からない。しかし、政治家としては、言葉について天才的な閃きを持っているのではないか」

私としては最大級の褒め言葉である。

首相になる前だったら違った答えがあった。

「不用心なちんぽこ野郎じゃないの」

人前に顔をさらすのも仕事である政治家として、あまりにも不用心な不倫疑惑が、彼の印象のすべてであった。
女に惹かれるのはいい。惚れてしまうのもあり得ることだ。だが、自分の立場、相手の立場を考えたか? 俺とは違って、あんたら2人とも有名人だぜ。なのに、こともあろうにプリウスなんかのハンドルを持って横浜のベイブリッジにドライブするなんてあり得ないだろ? あの車、目立つし、乗り心地がいいはずないし。いいことないじゃないか。
あんたには、人に知られてもいい、いや人に知られた方がいいという思いもあったかも知れない。が、相手のことを配慮したか?
多少の、いや大いなるうらやましさを感じながらも、でも、こんなに脇が甘くては政治家としては大成しないだろう、と冷ややかにながめていた。
で、女房に

「バカタレ」

と叱られて一件落着。あの女、あんたのなんだったのさ?

評価が変わったのは、首相になってからの消費税発言である。記者会見で、今年度内に消費税増税も視野に置いた税制の抜本改革をとりまとめたいと述べた中で、彼はいった。

「自民党が提案している10%という数字を1つの参考にしたい」

あの発言を聞いたとたん、菅とは言葉の魔術師、政治的言語操作の天才であると直感した。

90兆円以上の国家予算を組むのに、税収は40兆円に満たない。残りは国債という名の借金をせざるを得ない。年間900万円なければ暮らせない家族の年収が400万円未満しかないのと同じである。無駄遣いも多少はあるだろう。だが、無駄遣いをゼロにしたって、400万円では暮らしが立たない。もっと収入の多い仕事を考えざるを得ない。そうしなければ、いずれは破綻する。
それが国家財政の現状である。国の収入は税金しかない。誰がどう見ても、増税は避けられない。

だが、増税が好きな国民はいない。特に、国民の懐に手を突っ込む所得税増税や消費税増税は有権者の叛乱を招く。内閣の1つや2つ、つぶれてしまうのが普通である。だが、いま政権の座にある首相としては、それは避けたい。では、どうする?

そんなジレンマの中で菅直人は首相になった。そして、絶妙のタイミングで首相になった。

野党時代は、自民党政権が出してくる消費増税に反対していればよかった。有権者の多くは増税には反対である。政権の座にないから財政運営に責任を持つ必要もない。

「無駄遣いばかりしていて、その付けを国民に回すつもりか」

と自民党を責めていればよかった。
が、政権を持ったらそうはいかない。財政の健全化に責任を持たねばならない。自分たちが消費増税を言い出し、実現せねばならない。

菅にとって幸いなことに、これまで政権政党の立場にあって、消費増税が必要であると唱え続けた自民党が野党になった。しかも、自分たちが借金の山を作ってばらまき政策を続けてきたことは忘れ去ったかのように、民主党の財政規律のなさを責め続けた。財源の裏付けのないばらまき政策。実は自民党が長い間、財源の裏付けのないばらまきを続けてきたから借金の山ができたのだが、野に下った自民党は、まるで民主党の責任であるかの如くに批判を強めた。

そして、参議院選挙。無責任な民主党政権に変わって、我々が責任ある政権を作る。自民党は、論理が導くのに従って、消費増税をマニフェストに入れ、責任を明示するため、10%という数字を示した。これが、責任ある政党のマニフェストだ!

菅直人は、それを待っていた。待っていて、パクリと食った。

自民党が提案している10%という数字を1つの参考にしたい」

とは、そういう発言である。

いや、これでもわかりにくいかも知れない。
もっと分かりやすくいえば、菅直人はこの発言で、消費増税の責任を自民党に転嫁した。

だって、10%に引き上げる必要があると言い出しのは自民党さんでしょ? あなた方がそうおっしゃるから、我々民主党は、それも参考にしながら税制の抜本改革案を練るのですよ。

菅直人の発言で、間もなく実施されるであろう消費増税の責任を取るべきは、自民党になってしまった。消費増税は、民主・自民間の対立軸ではなくなった。

さらに、である。菅直人とは頭のいい人である。彼の元で進む税制改革で、消費税は10%にまで増税されることはない、と私は予測する。8%なのか9%なのかは分からない。だが、10%にまで引き上げられることは絶対にない。

 「ほら、自民党は10%っていってたけど、我々が政権を持って慎重に考えた結果、そこまで引き上げなくてもいいことがわかったのです。民主党を選んでよかったでしょ? 根拠もなく、過剰な増税を国民に押しつけようとした自民党なんてダメでしょ!」

「自民党が提案している10%という数字を1つの参考にしたい」

という発言には、恐らくそこまでの計算が含まれている。

恐るべし、菅直人。
というのは、評価のしすぎだろうか?

と書きながら、なんだ、国民って、結局のところ朝三暮四の猿にすぎないのか、と思えてきた。政治家と自称しているあいつらの目には、私たちは

トチの実を朝に3個、暮れに4個やるといわれたら激怒し、それほど怒るのなら朝に4個、暮れに3個にしようといわれて喜んだ猿、

にしか見えていないのか、とも思う。

猿は、いずれにしても1日に得るトチの実の数に変わりはなかった。だが我々は、消費増税で実質的な可処分所得が減る。
何だ、俺たちは猿以下の存在か?