2012
01.12

2012年1月12日 赤信号

らかす日誌

黄色を示した信号機は、やがて赤に変わる。黄信号が灯った我が家も、今日は赤信号となった。

2日前、我が妻女殿は風邪が酷くなったことを訴え、

 「明日、医者に行く」

と宣言した。たずねるはずの医者は我が家からほど近い内科医であった。だから、私が午前8時に診察券を投入箱に入れに行き、診察が始まる9時に妻女殿を送り届ける手はずであった。ここまでは、前回ご報告した。
ところが。

当日朝、

「耳鼻咽喉科に行くから」

妻女殿は、突然、そう宣言された。

「だって、お前、あの内科医に行くといってたじゃないか」

 「あそこに行ってもちっともよくならなかったことが多いから、耳鼻科に行く」

一度言い出したら聞かない女子である。昔は、アホかちょんかと罵っていたが、最近の私は逆らわない。無駄なことにエネルギーは使いたくない。

という次第で、昨日は耳鼻咽喉科に送り迎えした。
医者に診てもらうというのは、プラシーボ効果がある。自宅にお連れした妻女殿は落ち着き、ソファに横たわって映画鑑賞に勤しまれておった。それを見て、私は新年の飲み会に出かけ、夜10時半頃帰宅。妻女殿の寝室を訪れ、様子をたずねた。経過はいいとのことで、私はそのまま自分の寝室で寝についた。

 

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」

そんな騒音で目が覚めたのは今朝である。枕元のiPhoneで時間を確かめる。午前6時50分。まだ起き出すには早いが、目覚めた以上仕方がない。寝室を出ると、突然声が襲いかかった。出所は、2階にある妻女殿の寝室であった。

「だめ。昨日眠られなかった。熱がある、医者に行く」

どうやら、耳鼻咽喉科医が処方した薬は効果がなかったらしい。我が妻女殿はもうボロボロだ。とうとう赤信号が灯ってしまった。

「だって、お前、あの病院では治らないから、耳鼻科に行ったんじゃなかったのか?」

このようなまっとうな論理を受け止める妻女殿ではない。

「だって、あの先生、私の病気を判ってくれてるから」

それは前日だって同じだと思うのだが、病人をこれ以上刺激しても意味はない。

「判った。が、とりあえず朝飯だ。俺が作る」

煮干しで出しを取って、豆腐とネギのみそ汁。キャベツとピーマンを細切りにして油で炒める。味付けは塩とたっぷりの胡椒と最後に少量の醤油。おっと、、ニンニクも欠かせない。ん? 妻女殿は医者に行く? 構うものか。ニンニクは体にいいのである。臭いがどうした? そして、塩鮭を焼く。

という手順を踏んで午前8時過ぎに診察券を置きに行き、9時に妻女殿を送った。あとは自宅待機である。

「あんた? 仕事は?」

もっともな問いである。

「仕事より健康でしょ」

ともっともな答えを返しておく。

電話を受けて10時頃迎えに行った。自宅に戻って髭を剃り、着替えて仕事。
昼食は、寿司を買ってきて2人で食べた。夕食は妻女殿がこしらえ、後始末も自分でされた。赤信号がそろそろ青信号に変わってくれればよいのだが。

 

というわけで、今日は待機時間が多かった。それを使って、なかなかできなかったことをやった。
ブルーレイディスクからハードディスクへのコピーである。

といっても、何のことか判るまい。これから詳しく説明する。

私はお宝映像を持っている。といっても、女子トイレの盗撮映像でもなければ、テレビアナウンサーのパンチラ映像でもない。
エリック・クラプトンが2001年に来日したときのコンサート映像である。これを、かのNHKがハイビジョンで放送した。この映像を記録に留めようと、デジタルハイビジョンデッキを買ったいきさつはどこかに書いた記憶がある。

その後、その映像をブルーレイに移した。ありがたいことに、2001年12月(だったと思う)に放映された番組にはコピー制限がついていなかった。ために、テープからブルーレイレコーダーのハードディスクにコピーし、いまはブルーレイディスクになっている。
それを、ブルーレイレコーダーのハードディスクにコピーした。コピー制限がかかっていない時期の映像だからできることである。

なぜ、そんなことをしたのかって?

お宝映像だからである。この日本公演の映像は、市販されていない。だから、私のような形で記録していない人は、喉から手を出してほしがっても手に入らないのである。
であれば、少なくとも私の周囲にいてほしがっている人には、その映像を所有する幸せを分けてあげたいではないか?
特に、ギターが好きな人には見逃せない映像なのだ。私の見るところ、この映像を撮ったカメラマンはギターが相当に好きである。弦を押さえるクラプトンの左手に焦点を合わせることが極めて多いからである。
なるほど、クラプトンとは、左手の指をそのように動かして音を紡ぎ出すのか。

クラプトンの映像は、沢山市販されている。私もかなり持っているが、このような視点で、クラプトンの左手に注意を集中して撮られた映像はない。この、NHKの映像だけである。
だとすれば、できるだけ多くのクラプトンファンに、見せてあげたいではないか。繰り返し鑑賞してもらいたいではないか。

というわけで、今日は午前中から、ハードディスクに蓄積されたこの映像をブルーれーディスクに落とす作業を始めた。現在夜の9時半だが、仕事の合間を縫って作業を進めたにもかかわらず、11枚できた。
ま、それはよろしい。

で、一方でその作業を進めながら、私は仕事に出てセールスに汗を流した。

 「ねえ、君、ブルーレイを再生できる環境持ってる? あ、ある。だったら、クラプトン好き? あ、そう。2001年に日本に来たときのコンサート映像がブルーレイであるんだけど、欲しい? これ、絶品だよ」

これは、まちがいなくセールストークである。一つだけ違うのは、私はお金を払ってくれる客を捜したのではなく、私と志を同じくして、クラプトンのブルーレイ映像を楽しんでくれる人を探したのである。お金をもらう気など、端からない。私の金で買ったブルーレイディスクに、私が作業してクラプトンの映像を入れたものを、無料で、喜んでもらってくれる友を探したのである。
結果、1日だけで10人ほどが集まった。明日、遅くても週明けには全員に手渡すことができる。欣快至極である。

だけど、赤信号が灯る中で、陰々滅々と、一文にもならない、むしろ持ち出しにしかならないブルーレイのコピーに取り組む私って何?
変わり者であることだけは間違いないようだ。私を偉くしなかった私の会社は、やっぱり見識があるのかも知れない。

だけど、考える。
お金を出しても手に入らないクラプトンの最上の演奏である。このブルーレイディスク、1万円で売り出しても、買いたいという客が殺到するに違いない。1万枚売れたら1億円。
やるか?

両手が後ろに回っても仕方がないというほど食い詰めたら、きっと手を染めるんだろうなあ。それまでは我慢の人を続けるはずである。

かくして、本日も平穏であった。