2012
03.22

2012年3月22日 憂さ

らかす日誌

桐生は世間の憂さの捨て所なのか?
昨夜、予定通り前橋から3人がやってきて飲み会を開いた。
桐生駅まで車でお迎えにあがり、予約しておいた寿司屋に伴った。ほかに客はいない。我々は、すでに用意が調っていた座敷に誘(いざな)われた。席に着く。すると、

「いやあ、大道さん、酷いと思いません? 今のボス」

開口一番、前橋に鎮座する群馬県エリアのボスへの批判が始まった。仕方なく、じっと耳を傾ける。このようなときにはあれこれ口を挟むのではなく、黙って聞くに限る。下手に口を挟むと、火に油を注ぎかねない。

仕事をしない。ケチである。部下とつきあわない。夕方になると、一人さっさと職場を離れる。会社の金を使わせてくれない。

「今日だってね、夕方、一人テレビの前に座って相撲見てるんですよ。時々、一人で『おーっ』なんて声を出して。相撲が終わったら、もう姿が見えない」

そのボス、4月1日付けで東京に転勤する。

「一緒に転勤する連中は、連日送別会が続いて、だから今日は転勤組は誰も来られなかったんですけど、でも、相撲が終わったら事務所からいなくなったあいつは、きっと1つも送別会はないんだと思いますよ。今日だって、自宅に直帰のはずです。だって、前橋で誰ともつきあっていませんもの。送別会を開いてくれる人なんかいるはずがない」

さんざんな言われようである。が、火のないところに煙は立たぬとも言う。

「ねえ、大道さん、あいつ、どんな奴だと思います?」

まあ、私にしたところで、今のボスにはいい感情を持ったことがない。いや、前橋に来た当初は、その前のボスがあまりに酷かったので期待した。酒の席で、

「ぼくの前任者、あいつは無責任です。若手を育ててない。今の若手、ちっとも育っていませんもの。私の最初の仕事は若手の育成です」

などというものだから。こちらもすっかりその気になって

「その通りだ。できる応援はする。頑張ってくれ」

などと行ったこともあるが、その後の姿を見ているとねえ……。
そうそう、彼はどんな奴か。

 「うん、俺は桐生にいて、あいつの顔を見るのがいやで前橋にほとんど行かないが、数少ない接触から判断すするに、自分以外にたいする関心が全くない人だね。常に自分の負担を最小限にしようとする。部下の不満や不安をちっとも見ようとしない。会社の馬鹿な制度のために俺たちが困って、『何とかならんか』と相談しても、『だって決まってるんだからしょうがないじゃないですか』といって、それに代わる抜け道を教えてくれるのが関の山だ。一度そんなことがあって、あれ以来、俺は奴と口をきくのがばかばかしくなった」

「なるほど、自分以外に興味が持てないタイプね。うん、それはぴったりの表現だなあ。そう、そんな奴ですよ」

そのボスと同じ日付で転勤する仲間は5人。明日は、その送別会が前橋で開かれる。参加するのも億劫なのに、挨拶まで頼まれた。ふむ。

そうそう、前橋で体いっぱいに堪った憂さを桐生まで捨てに来たらしい3人は、日付変更線をまたぐかまたがないかという時間に、ご機嫌でタクシーに乗り込んだ。

うち一人から、今朝メールが来た。

「昨日は楽しかったです。新しいボスが来られたらまたやりましょうね」

そうか、楽しかったか。ま、あれだけ悪態をつけばなあ。
新しいボスは、かつて私の同僚、部下として一緒に仕事をした男である。曲がったことが大嫌いで、お上に楯突くことも辞さないタイプであった。だから、

「あの頃と人柄が変わってなければ、次のボスは期待できる」

と彼らに話したことがある。そのニューボスと一緒に桐生で飲もうってか。そんなに桐生が気に入ったか?

まてよ。ひょっとしたら彼ら、私と新しいボスの昔の関係を聞いて、

「大道は新しいボスのボス」

とでも勘違いしたのではないか? 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、という。大道を抱き込めば、新しいボスに影響力を行使できる? 俺は馬か? 確かに、顔は長いが……。

彼らが何を考えて桐生で飲みたいというのか。しばらく距離を置いて観察しなければならないのかも知れない。