2012
12.28

2012年12月28日 落ち穂拾い

らかす日誌

書こうと思って書かなかったことが残っている。すべて、本に関することである。というか、紹介したくてできなかった本が、たまっちゃったというだけのことではあるのだが。
今日は、目の前に積んである本を紹介する。

長曽我部」(長曽我部友親著、文春文庫)

長曽我部、って、なんて読むか知ってました? 歴史の本では必ず出てくる固有名詞だから、この4文字による姓は知っていたが、ずーっと「ちょうそかべ」と読んできた。ところが、違うのですね。これ、「ちょうそがべ」と読むのだそうです。末裔で、いまでも長曽我部を名乗っている友親さんがそうお書きになっているのだから、これほど確かなことはありません、私は半世紀にわたって間違って読んでおりました。御免なさい。

というのは、私の個人的なエラーである。が、ここから先は、ほとんどの人が知らないのではないか。

長曽我部氏は、なんと、あの秦の始皇帝の末裔だというのである。
この本によると、秦の始皇帝から十数代を隔てて功満王という人がいた。この人が朝鮮半島を経て日本に来た。第14代天皇・仲哀帝の時代という。
そこから数代下って、秦河勝(はたのかわかつ)が現れる。聖徳太子のブレーンとして活躍した人物だという。その末裔が長曽我部氏なのである。

読んだとき、はーっ、へーっ、と思った。長曽我部を知ったのは、確か、司馬遼太郎の「夏草の賦」である。四国をほぼ統一し、全国に覇を唱える意欲に満ちていた。しかし、時、利あらず。すでに天下の形勢は決まり、関ヶ原の戦いでは徳川側に参じようとしながら叶わず、西軍に加わる。
そんな経緯もあって、大阪冬の陣では豊臣方につくが、司馬の小説では、その時の長曽我部軍の出で立ちに、味方も失笑したとあったような気がする。
四国で手に入る馬は、背が低かった。ために、鞍をつけた馬にまたがりながら、長曽我部の軍勢は、足を地に引きずっていた。まあ、大人がロバにまたがって足を地に付けているようなものである。鎧甲に身を固めた兵の姿としては、確かに奇妙ではある。

で、歴史を知る我々からすれば当然のことなのだが、豊臣は敗れ去り、長曽我部も落ちぶれる。かつて長曽我部が支配した地には、女房の指図通りに振る舞ったら偉くなっちゃったという意外性の男、山内一豊が入る。こうして、かつての長曽我部の面々は、侍ではあるものの、山内家の家臣より一段低い郷士として差別を受ける。幕末、その郷士の中から坂本龍馬、武市半平太などの俊才が出て、近代日本の礎を築いた(そうではない、あれは司馬遼太郎のでっち上げとの説もあるが)のは、広く知られたことである。

へーっ。日本の歴史に、秦の始皇帝の末裔が絡んでいた? 新鮮な驚きであった。

いや、この本ではもっと驚かされることがあった。
かつて総理大臣であった羽田孜氏も、秦河勝につながる秦氏、つまり秦の始皇帝の末裔なのだというのだ。まあ、羽田と秦、確かに音は似ている。
だけど、あの半袖スーツを着て省エネを訴えていた首相が、秦の始皇帝の末裔? ということは、あのドジョウに

「2世候補は公認しない」

と脅されて周銀線への立候補を断念した民主党の羽田雄一郎も秦の始皇帝の末裔?

ま、遠いご先祖に偉人がいるかどうかなんて、実は何の意味もないんだなあ、と思い知らせる事実ではある。ねえ、あの麻生太郎は吉田茂の孫だし。

というような、歴史好きを喜ばせるデータが沢山はいった本であります。歴史が嫌いでなかったら、一読の価値あり。

もう1冊歴史の本を。

幕末史」(半藤一利著、新潮文庫)

と、ここまで書いて、さて、なんでこの本を紹介したかったのかが、思い出せない。
いや、面白かったのです。それは確かなのだが……。

著者は東京・向島に生まれたちゃきちゃきの江戸っ子。だから、薩摩と長州が作った明治政府になじめず、

「薩摩も長州もろくなもんではなかったのよ」

ということを面々と、事実を挙げながら書いた本である。江戸っ子を自認する方は目を通されてはいかがか。
前書きによると、

「西郷隆盛は偉人である」

 「坂本龍馬は最高の日本人である」

との日本人の常識に向かって、 著者は

「西郷は毛沢東と同じ」

 「龍馬に独創的なものはない」

というのが自分の見方である、といってはばからない。潔さもこの本の魅力である。
だから、何かにつけて、坂本龍馬気取りの大阪の橋本に

「あんた、浅薄やな」

といってみたくてこの本を積んでおいたのかな?

中でも、坂本龍馬の天才を表す逸話となっている船中八策の原案は、実は幕府側であった勝海舟と大久保一翁であった、という指摘は、世の物知りの顔を明かすためにも、記憶しておいて損ではないと思います。

ということで、本日は2冊紹介しました。
まだまだあるのです、紹介したい本が。

ま、それは明日以降ということにしましょう。