2013
03.26

2013年3月26日 涙の別れ

らかす日誌

しかし。
子供がいると、予定は予定として成り立たぬことが多い。

23日、次女と瑛汰、璃子が我が家にやってくることはすでにお伝えした。その通り、3人は23日、東武鉄道で足利市駅まで来た。私がお迎えに参上したのは言うまでもない。

久々(といっても、たいしたことはないが)の再会に、瑛汰も璃子もはしゃぎにはしゃいだ。腰が悪いにもかかわらず、私は2人を抱いて歩くことを強いられたのである。

その日、璃子はすこぶる元気であった。我が家についても歌い、踊り、しなだれかかる。そして、食う。その生き様は見事である。

その夕、瑛汰と3人で風呂に入り、食卓に座った。

「あーっ、肉、肉、璃子たん、肉!」

璃子、まだ2歳。驚くべき健啖家である。

「まだ食うの?!」

といいたくなるほど、食う。食べ終わっても元気さは変わらず、

「ボス、璃子たん、明日はドラえもんだからね」

そういって、8時過ぎに2階に上がり、次女と一緒に寝についた。そう、24日日曜日は、瑛汰と璃子と3人で、

ドラえもん のび太のひみつ道具博物館(ミュージアム)

を見に行くことは、ずいぶん前からのお約束だった。

「よし、明日はドラえもん、見に行こうな!」

それから2時間余り。瑛汰を寝かしつけていた私のもとに次女が来た。

「お父さん、体温計ある?」

体温計? 子供を2人も産んでおきながら、いまさら基礎体温でもないだろう?

「璃子が熱があるみたいで」

測った。39℃
えっ、あれほど元気だったのに? あれほど食ったのに?
横浜では、璃子と瑛汰の父が、咳き込んでいたという。風邪? インフルエンザ? どちらかはわからないが、それが璃子に感染した? ありえないことではない。

「夜間救急に連れて行くか?」

たいして酒は飲んでいない。緊急事態である。私が運転することも覚悟した。

「インフルエンザだったら、まだ検査しても出ない時期だし。今晩は様子を見るわ」

氷枕で冷やすだけで翌朝を迎えた。

「どうだ?」

 「夜中、39.6℃まで上がって、あとは測るのが怖くてやめちゃったけど、今朝は37℃ぐらいまで下がったわ」

とりあえず、危地は脱したらしい。それに、目覚めた璃子は、見るかぎりすこぶる元気である。朝食も、

「それ、璃子たんの!」

と兄である瑛汰を牽制しながら、ししゃもの3匹目にかぶりついた。

「おい、こいつ、本当に熱が出たのか?」

思わず、そういってしまうほどの健啖ぶりだ。

「うーん、熱が下がったからじゃない? 37度ぐらいは、この子にとっては平熱だから」

 「だったら、映画、連れて行くか?」

 「うーん、念のため、もう一度測ってみるわ」

再検査の結果、璃子の体温は37.5℃であった。これでは、外出は無理だろう。

「というわけで、瑛汰。ドラえもんは明日にしよう。璃子ちゃんも見たいんだから、瑛汰だけ見に行ったら、璃子ちゃん、可愛そうだろう?」

 「えーっ、だって、瑛汰見たいよ」

 「見たいのはわかる。だけど、瑛汰はお兄ちゃんで、璃子ちゃんは病気なんだから、我慢しなきゃいけないだろ?」

 「だって、見に行きたいんだもん」

ま、子供とはそういうものだ。ここは、我慢するにたる交換条件を出すしかない。

「瑛汰、だったら、今日は瑛汰とボスの2人で、瑛汰の本を買いに行こう。そして、映画は明日、璃子ちゃんが元気になったら行こう」

 「璃子ちゃんが元気にならなかったら?」

 「うーん、そしたら、璃子ちゃんは可愛そうだけど、瑛汰と2人でドラえもんを見に行こう。瑛汰、今日は我慢だぞ」

 「わかった」

かくして24日、朝から瑛汰と2人で、伊勢崎のスマークに向かった。

「ボス、ドラえもんじゃない映画だったら見ていい?」

 「ママに聞いてみるか?」

ママの許可を得たとはいえ、選択肢はそれほど多くない。上映中の子供向け映画は、

ジャックと天空の巨人

 「オズ はじまりの戦い

の2本だけ。結局、ディズニー作品であることを決めに、オズを見ることにした。

意外や意外。なかなかに楽しい映画であった。
ドサ回りで、どうしようもなく女が好きなインチキマジシャン・オズが、ひょんなことからファンタジーの世界、オズの国に紛れ込む。そこでは魔女が2派に別れて闘っていた。その「正しい」魔女に行き着いたマジシャンは、

「オズは偉大な魔法使い。その魔法で悪い魔女をやっつけ、平和な国にして欲しい」

と、いい魔女だけでなく、その下で暮らす人々の期待を集めてしまう。しかし、元々がインチキマジシャン。魔法なんか、逆立ちしたって使えるわけがない。魔法使いとして崇められ、いい気になっていたオズは逃げだそうとするが、しかし、ある事実に気がつく。

「魔法使いの魔法だけが魔法か? この国には存在しない科学技術も、この国から見たら魔法ではないのか?」

オズは、あのエジソンを尊敬していた。エジソンの知恵を借りれば、俺もこの国で魔法が使える!

子供向けの映画であるとはいえ、実にいいポイントを押さえている。そう、近代の科学技術っていうのは、それを知らない人々から見たら魔法そのものである。

こうしてオズは、悪い魔女との闘いに立ち上がる……。

「面白かった!」

映画が終わると、開口一番、瑛汰がそういった。自分が見るのはアニメのみ、と決めつけていた瑛汰には、実写の世界でも、面白い映画があるのだという最初の体験になったかもしれない。
ま、映画を楽しんだことと、本を買うことは別である。この日、瑛汰君は本を6冊お買い上げ。映画を見て昼食にラーメン屋に入ると、

 「ボス、もう1冊読んじゃった」

瑛汰、その本、1000円じゃ買えないんだけど……。

 

帰宅すると、璃子はすくすくと回復していた。昼食もバカスカという感じで平らげたらしい。夕食は、鰻を食べに行く予定を取りやめて自宅にしたが、

「肉、肉、璃子たん、お肉が食べたいの」

これが病み上がりかと疑うほどの元気さであった。

というわけで、25日は朝からドラえもん。妻女殿、次女も同行し、しかし、映画館には私と瑛汰と璃子だけで入り、残りの2人はショッピングという趣向である。
璃子は、ドラえもんを見ながらポップコーンを食べる。手に取ったポップコーンを半分に割り、一つを私の口に押し込む。残りの半分を自分で食べる。ま、確かに可愛い。愛らしい。そんなことしてくれる女、これまでいたかなあ……。

で、ドラえもんが終わると、スマーク内のイタリアンで、スパゲティとピザの昼食。夜は鰻。
璃子、本当に病気だったの?

今朝は、

「ボスの仕事についていく」

と言う瑛汰と璃子を連れて、まず、市内の機屋さんを訪問。

「ごめん。ガキ2人に仕事の現場を見せて」

終えて、元桐生市有力者 O氏を訪問。6月に、長女に第一子誕生予定の彼に、産まれた後の現実を見せてやろうとの趣旨だったが、

「畑に行ってんの」

やむなく、畑まで追いかける。が、まだ作業前で、子供2人にとっては面白くもおかしくもない。

「そうだ、瑛汰、璃子。動物園行くか? 遊園地がいいか?」

桐生には、入場無料の動物園、遊園地がある。それが、 O氏の畑から近い。

「遊園地!」

異口同音に2人がいった。
カート、新幹線、ヘリコプター、メリーゴーランド、コーヒーカップ、観覧車……。ま、ここは1回100円だからいいが……。
終えて、 O氏の畑で2人はネギを収穫、帰宅した。

ん? 平日の私の仕事?
昨日は、事情を説明してお昼過ぎまで時間をもらった。今日? 市内にいるのだもの。機屋さんも訪問したし、元有力者 O氏にも会ったし、遊園地の視察もしたし、これだって、立派な仕事ではないか?

自宅での昼食はラーメン。2人の大好物である。食べ終えて2人は庭に出、サッカーボールを蹴り始めた。次女も一緒である。

「お父さん、大変!!」

突然、次女の悲鳴が聞こえた。大変、って、庭でボールを蹴っていて、たいしたことが起きるはずはない。大げさな。

「璃子がウンチだって。連れてって」

そういうことかと、玄関に駆けつけた。璃子はすでにパンツを脱ぎ、下半身丸出しで座っている。

「おお、璃子ちゃん、ウンチか」

と抱え上げた……。

「おい、もうやってるぞ!!」

璃子のお尻の下になっていたところは、一面ウンチまみれ……。
急いでトイレまで運び、便座に座らせたが、時すでに遅し、ではある。

「璃子たん、ウンチ出ちゃったの。ハハハハハ」

午後2時16分発で桐生を去る3人を、新桐生駅まで送った。別れである。いつものごとく、瑛汰の表情は暗い。

「瑛汰、またゴールデンウイークに来ればいいじゃないか」

 「だって、まだ3ヶ月もあるじゃん」

 「何いってんの。ゴールデンウイークは4月に始まるんだよ。もうすぐじゃないか」

 「えっ、……、そうか、あと1ヶ月だね。でも、ボスと一緒にいたい」

 「ボスが迎えに行ってやるから、なにして遊びたいか考えておけ」

 「えーっと、将棋、サッカー、ボスから逃げるごっこ、それから……」

あとは、涙に暮れて、母にハンカチを手渡される瑛汰であった。
一方の璃子は、

「ボシュ、じゃあね、 See You!」

とにこやかに手を振って電車に乗り込んだ。

何ともならないことを何とかしたいと思い、焦り、苦しみ、届かぬ思いに涙する男に比べ、何ともならないことは何ともならないと割り切る女は冷静である。

かくして、桐生3月の乱は終演した。
予定通りだとすると、1ヶ月ほどで次の幕が開くのだが……。

そういえば、四日市の啓樹にはしばらく会っていない。嵩悟とも、時折電話で話す程度である。
ゴールデンウイークには来るのかね?