2013
06.10

2013年6月10日 お待たせ!

らかす日誌

私、戻って参りました!
留守中、ご迷惑をおかけしました!!
私、戻って参りました!!!
お待たせしました!!!!

と1人でハイになっていたところで、同調してハイになってくれる人は見あたらない。所詮人間砂漠は広漠たるもの、と見抜き、今日も1人Macに向かい、人生のよしなしごとと哲理を書き付ける私である。

 

昨夕、無事に四日市から戻ってきた。
啓樹の

「ボス、ずるい」

から始まった2泊3日の旅は、それなりに楽しくも疲れるものであった。

7日金曜日、朝10時16分の東武鉄道に乗り込んだ私は、東京駅で駅弁を買い込むことそのまま新幹線に飛び乗り、午後2時を少し回ったころ、名古屋に到着した。
車中は、もちろん読書の時間である。出がけにひっつかんだ、ということはずいぶん前から積ん読状態になっていた

これが物理学だ!」(ウォルター・ルーイン著、文藝春秋)

を東武鉄道の座席に座るなり貪り読んだ。
マサチューセッツ工科大学で教鞭を執り、学生に物理学の面白さを伝授するとの使命感の元、重さ15kgの鉄球をぶら下げた振り子を自分の顎まで引き上げて放し、反対の極まで振れた鉄球がものすごいスピードで自分の顎めがけて戻ってくるのを待つ。鉄球がホンのちょいとばかり心得違いを起こして物理学の法則に逆らえば顎は粉々だ。だが、教授は微動だにしない。

「物理学の法則は絶対だ!」

次はその振り子にまたがって自分も振り子の一部になり、10回往復するのにどれだけの時間がかかるのか計測させる。

「私が振り子に乗ったときと乗らなかったときで、計測結果は違ったか?」

振り子の重さと振り子の周期には関係がないことを学生に体験させて振り子運動の原理をしみ込ませる。
体当たりの授業で高い人気を誇る傑物である。その本が面白くないわけがない。

「それ、理解したから面白かったの?」

などと野暮な質問はしないようにお願いする。理解しようとしまいと、面白いものは面白いのである。女性が美しいかどうかは勉学を積まなくても瞬時に分かる。同じ事なのだ。

ユダヤ人の父を持つ。ナチスの弾圧に抗して父が家を出てレジスタンスに入ると、残された母はドアの隙間に毛布やカーテンを詰め込み、ガス栓を開こうとした体験もある。
そんなルーイン教授に触れたい方は、是非目を通していただきたい好著だ。

ビッグ・バンの瞬間、どんな音がしたのだろう?
虹は何故見えるのか?
電気って、何?

そんなことがわかりやすく解説してある。ほらほら、読みたくなったでしょ?
もっとも私は、著者の専門分野であるX線天文学は、読み進みにつれて己の非才を思い知らされるばかりだったが……。

名古屋到着時、読み終えたのは約150ページ。全体は400ページである。

「そうか、桐生に戻るまでには読み終えることができないか」

そう思いながら、私は名古屋人の雑踏に紛れ込んだ。

啓樹たちは20分ほどでやってきた。その足で駅ビル内の東急ハンズ。ここで、啓樹のものづくりの材料を仕込むのである。
が、そういう目で見ると、この東急ハンズ、品揃えが今一だ。結局買ったのは、「大人の科学」のロボット掃除機、ゴム動力の飛行機、そして嵩悟用にマグネットを利用したコマ。コマの軸が磁石になっており、ために2本の金属レールの上でコマがクルクル回るものである。
終えて、書店に足を運び、啓樹、嵩悟に本を買う。そのまま四日市へ。

外で夕食を済ませて帰宅すると、啓樹は私が土産とした電子工作キットに取り組み始めた。組み合わせ次第で10数種類のものをつくることができるとの触れ込みで、

「啓樹、何をつくるんだ?」

と聴くと、

「うん、ベル」

エナメル線でコイルをつくり、その中に金属の棒を入れて電磁石をつくる。そこまではいいのだが、それから先がなかなか進まない。

「難しいのか?」

 「うん、ちょっと」

代わって私がやってみた。
確かに難しいはずだ。セットになっている部品の精度がでたらめなのだ。

電磁石を使ったベルは、バネが電磁石に惹きつけられてベルを叩くと接点が離れて電流が流れなくなり、バネは元に戻る。すると電流が通じるから再び電磁石に引き寄せられ、という運動が繰り返されてベル音が出る。だから、バネと電気の接点の間、バネと電磁石の間の調節がすべてなのに、このキット、土台がグラグラしているから土台のぐらつき次第でバネが接点から離れなくなったり、電磁石から離れて元に戻っても接点に届かなかったり。これではベルの音が出せるはずがない。

「啓樹、これ、だめだ。このキット、せっかくボスが持ってきたけどボロだよ。捨てよう」

嵩悟、啓樹が寝たあと、その両親と12時近くまで懇談、就寝。

 

8日土曜日は、午後から鈴鹿サーキットに行くことになっていた。
啓樹は6時半に目を覚まし、母親に言われてそのまま勉強。む、む。
俺、小学3年生の時、自宅で勉強した記憶ないぞ。それに、これ、母親よ、お前は確か私の長女だが、お前、朝6時半から勉強したことあったっけ?
頑張れ、啓樹!

朝食後、啓樹は1人、ロボット掃除機の製作に取り組む。これ、「大人の科学」の付録、というか、本体というか、とにかく大人向きにつくられたものだ。さて、小学3年生に何処までできるか? と眺めていたが、結局、私が手伝ったのはギヤをかみ合わせる1カ所と、そのギヤにグリスを塗るところだけ。あとは自力で組み立ててしまった。

「できたか。動くか?」

啓樹が電池を入れてスイッチをオンにした。

ガーッ!

けたたましい音を上げてロボット掃除機が動き始めた。

「動いた!」

目を輝かせた啓樹は、まあ、多分大多数の大人も同じ事をすると思うが、掃除機の動く方向にクッキーのクズを置いた。

「吸い込むかなあ……」

所詮キットである。小さなプロベラでつくる吸引力には限りがある。少し重たいゴミは吸い込めない。が、このロボット掃除機、障害物にぶつかると見事に方向転換するし、テーブルから落ちようとすると巧みに方向転換してテーブルの上に止まり続ける。優れものである。

何度も試験運転していた啓樹は、自力で組み上げた満足感も手伝ってすっかり気に入ったらしい。直径10cmほどのスケルトンの円形ロボットは、いまや啓樹の宝物となった。

午後は啓樹、嵩悟、そのパパと4人で鈴鹿サーキット。
……、疲れた。

帰宅して入浴、夕食。時を置かず、啓樹は飛行機の組み立てに取り組み始めた。
が、竹籤(ひご)とニューム管で組み上げるゴム飛行機は、啓樹にはちと難しい。ほとんど私が、

「啓樹、見てろ」

といいながら作業する。
日曜日の朝も同じフォーメイションである。流石に啓樹は焦れたらしい。

「僕がつくりたい!」

そこで私は諭した。

「啓樹、今回は見てろ。これはまだ啓樹がやったことのないことだ。だから、見て、作り方を覚えろ。啓樹が自分でやるのは夏休み。ボスの家で、今度は啓樹が1人でつくってみろ。その時1人でできるように、今日はしっかり見てるんだ」

4人は、私を車で名古屋まで送ってくれた。昼食まで時間があったので、再び本屋へ。今度は本屋で電子工作キットを探す。
啓樹はトランジスタラジオのキットを買う。が、四日市には半田ごてがないという。

「だったら、啓樹、これも夏休みにしよう。ボスの家でつくろう」

というわけで、このトランジスタラジオキットは私の鞄に入り、桐生まで運ばれた。

うん、余り登場する機会がなかった嵩悟である。
嵩悟はやっと私に馴染んでくれた。
私がベランダに出てタバコを吸っていると、ガラスに顔を押しつけてニーッと笑う。

「嵩悟もベランダ、出る」

とガラス戸を開けて私に近づき、

「嵩悟も見る」

私に抱かれて何度外の景色を見たか。
そうそう、怖ず怖ずと

「ボス」

と私に直接呼びかけたのも、電話を除けば今回が初めてである。

四日市に啓樹と嵩悟、横浜に瑛汰と璃子。金食い虫が4人になった。むしられるゾクゾクする快感に我を忘れそうな私である。

昨夕、桐生の自宅に到着したのは午後5時半過ぎ。妻女殿によると、私の第一声は

「疲れた!」

であったそうな。
64歳の青春とは、息も絶え絶えに楽しむことであるか。