2013
08.24

2013年8月24日 言ってはみるもの

らかす日誌

困ったことになった。
明日。私はステージに立つ。市内の公民館のお祭りで、ギターを弾いて歌う。

 「いまさあ、ステージをやっと作り終えたところなの」

桐生市の元有力者O氏から電話を受けたのは、朝11時半頃だった。

「でさあ、大道さんの出番は12時半頃だから。そうねえ、12時頃に来てもらえばいいかな」

はっ? ステージ? 出番?

「いやだね、言ってたでしょ、公民館のお祭り。明日なのよ。で、何人かがギターを持って歌うわけ。もちろん、大道さんもギターを持って歌うわけ」

俺が? また? 恥をかくために? 人前に出る?

 「そうだね、リハーサルしたいんなら11時頃来たら?」

待て、ちょっと待て。
言われて思いだした。そういえばこのところ、会うたびに

「今度の公民館祭り、出てもらうから」

と彼は言葉を重ねていた。そのたびに

「その気は全くない。何が嬉しくて、ジジババの前で恥をかかねばならない?」

と吐き捨てるように言い続けたはずだ。
しかも、である。その公民館祭りが8月25日に開かれるなんて、俺、聞いてないぞ!

「じゃ、よろしくね」

あっ、あっ! あーっ!!

あの押しの強さからは逃げられぬ。あー、また恥をかく。
で、何を歌う?

 

その電話を受ける前、私は買い物に出ていた。行き先は家電量販店。目的は、テレビの音声を手元で出してくれるワイヤレス・スピーカーの購入。数日前からの夫婦げんかの元を断つためである。

私は夕食のあと、テーマがあればパソコンに向かって日誌を書き、書き終えて時間があれば居間にいって映画を見る。見始めるのは早くて9時半。終了は深夜になる。
これに、妻女殿が文句をつけた。

「テレビの音がうるさくて眠れないのよね。おかげで毎日寝不足よ」

妻女殿が2階の己の寝室に引き上げるのは10時前後である。映画を見ていても、妻女殿が寝室に引き込めば音量を落としていた。しかし、時に、会話がかろうじて聞き取れるほどに音量を絞っても、大きな音で演奏が流れるものがある。これは、私の力では何ともしがたい。

それが耳について眠れない? 人間、眠気に襲われれば、多少の雑音があっても眠る。それが眠れない? それって、お前が神経過敏だからだろう。どうしてそのつけが俺の生活リズムに入り込んでくる?

それに、だ。私が眠るのは映画を見終えたあとである。ということは、私が映画を見ている間は音が耳障りで眠れないというお前と、寝に着く時間はそれほど違わない。しかも、俺は布団に入って本を読む。つまり、就寝時間はお前より遅いということだ。朝起きる時間に、それほどの違いはない。なのに、どうしてお前だけが寝不足になる?

持病持ちの妻女殿である。その分は多少斟酌せざるを得まい。だから、これまで反論はしなかった。できるだけテレビに近づき、音量を絞って映画を見ていたはずである。

 「どうして、もっと早い時間に映画を見ないのよ! 寝不足だっていってるでしょう!!」

4日ほど前、突然まなじりを決して詰め寄られた。
理不尽に詰め寄られて、こっちも切れた。

「見なきゃいいんだろ!」

以来、事務所の小さなテレビで映画を見た。
が、これは辛い。画面の小ささは我慢する。が、椅子がいけない。映画館だって、シートの座り心地の良さを競う時代である。事務用の椅子は、長時間の映画鑑賞には向いていない。

というわけで、今日、買い物に出向いた。音源を手元に引きつければ、小さな音でも映画を鑑賞できるはずである。

回り回って、3軒目はヤマダ電機であった。ビクターの製品に1万9800円の値札がついている。むむ、高い。通りかかった店員を呼んだ。

「ほら、ここにネット価格と勝負、って書いてあるけど、これ、ネットじゃ確か1万4800円程度で売ってる。引いてくれる?」

価格差5000円である。

「いや、その、ネット価格っていうのは、商品によって、でして。すべての商品がそういうわけではないのです。当店の仕入れ価格もありますし」

おお、そう来たか。

「そうなの。でも、ほら、この商品が並んでいるこの棚に、ネット価格、って書いてあるよね。それでも、この商品は対象外なんだ。それって、詐欺商法じゃない?」

こうした理詰めのいじめは、私の得意技である。
まあ、それでも引かなかったら、戻ってネットで買おう。もしも引いて、2000~3000円程度の価格差になったらここで買っていこう。それが私の戦略である。

「済みません。少しお待ちいただけますか?」

ああ、いいよ。私は焦らないから。
5分ほどして、店員は戻ってきた。

「はい、では、1万3800円ということでいかがでしょう? これがギリギリでして」

ん? 俺が例に挙げた価格は、確か1万4800円。それより1000円安い?

「いただきましょう」

なるほど、言ってはみるものである。一声で6000円も安くなっちゃったよ!

なお、自宅に戻ってネットで最安値を調べたら、1万2000円強であった。ふっかけ方がまずかったか? それでもネットと2000円~3000円の差だったら買おうと思っていたから、まあいいか。

 

問題は、持ち帰ってから起きた。
充電を済ませ、テレビに接続。さて、どの程度の音が出るか? とスイッチを入れても、出ない、音が。
接続が悪い? どう接続しても、出ない、音が。

「あのさあ、買ってきて音を出そうと思ったら出ないのよね。どうしたらいいの?」

メーカーの相談窓口に電話をした。相手の指示通り、別のテレビにもつないでみたが、出ない、音が。

「お客様、申し訳ありませんが、お買い上げいただいた店舗にお持ちいただいて交換していただきたいのですが」

おいおい、理不尽なことをいうんじゃないよ。

「待ちなさい。私は、おたくの会社の製品を買って持って帰ってきたものです。それが、製品としての機能を出してくれない。このようなとき、私が私の負担で再び店まで出向き、交換を求めなければならないのか? だとすれば、メーカーとは極めて気楽なものではないか。新しい完動品を送るから、その宅配便業者に不良品を渡してくれ、ぐらいの対応はできないの?」

極めてまっとうな主張のはずである。しかし、電話口の女性は対応に詰まってしまった。

「申し訳ありません。上司と相談の上、こちらからお電話を差し上げます」

 

30分ほどして電話が来た。今度は男性であった。

「申し訳ありません。機械の現状を知りたいので、まず、機器をテレビのイヤホンジャックに差し込んでいただけますか?」

メーカーとしては、不具合の状態を知らねば対応はできまい。このような指示には素直に従う私である。

 「ほら、さっきもそうだったけど、何の音も出てないでしょ」

受話器を、買ってきたワイヤレススピーカーのそばに近づけた。

「はい、次に、申し訳ありませんが、テレビの音量を上げていただけますか?」

はい、いいですよ……。

「あれっ、音が出たよ!」

 「はい、イヤホンの音量もテレビのボリュームに連動しているものがありますので、多分、ボリュームが絞られていたのでしょう。であれば、当社の製品には問題はないと思われます」

それはそうである。しかし、このスピーカーをつなぎたいのは、居間にあるテレビである。

「電話長くなるけど、そのテレビにつなぐから待っててくれる?」

 「はい、お待ちします」

テレビのモニター出力につなぐ。やはり音は出ない。

 「出ないよ」

 「そうですね、確かに出ていないようです。テレビによっては、音声をモニター出力をするかどうか設定するものもありますので、そちらのメーカーさんにお尋ねになったらいかがでしょう」

問題がここまで煮詰まれば、確かに、次の手はそうだ。
電話を切って、テレビのメーカー、具体的にはパナソニックに電話をした。
指示に従ってテレビの設定を変更し、やっと正常に作動するようになった。

ま、これで所期の目的は達成された。しかし、最近の機器は様々な設定があり、ただ接続しただけではうまく作動しないこともあるのか。

これまで私は、電気器具の接続には絶大な自信を持ってきた。テレビ、レコーダー、プレーヤー、オーディオ。ラックの後ろには、配線ケーブルがゴチャゴチャになってつながっている。この配線を、何がどうなっているのか分からない配線を、私が一人でやったのだ、というのは、我が誇りであった。

なのに。
私の知見の範囲内で配線しても、作動しない機器があった。正直、ショックだ。
私も、時代に置いてきぼりにされつつあるのか?

 

と落ち込みながら、さて、明日は何を歌おうかと考える。
人生、一筋縄ではない。