2013
11.04

2013年11月4日 英語教育

らかす日誌

1987年秋のことである。
私は出張で世界を一周した。
まず香港に入り、ロンドンに飛ぶ。アイルランドを訪れてロンドンに戻り、そこからサンディエゴ、メキシコシティ、ケイマン、ワシントン、ニューヨークと経巡って、日本に戻った。
お手元に世界地図か地球儀があれば、ちょっと見ていただきたい。地球を西へ西へと回る41日間の旅だった。バブル最盛期ならではの、なんともいい旅であった。

その旅で、その土産を何処で買ったのか。恐らく、ワシントンかニューヨークであろう。

「そういえば、息子にも何か土産がいるな」

いや、ひょっとしたらすでに息子用の土産は買ってあったのかも知れない。それだけでは足りないのではないか、と考えたことも大いにあり得る。
自称、子供に甘い父である。

多分、空港の免税店だったと思う。
並んでいる品を見ていたら、ふとビデオテープが目にとまった。

Star Wars

であった。
日本で初めて上映されたのは1978年。息子が4歳の時である。当時、私は岐阜市にいた。4歳の息子を連れて映画館に行った。4歳の児童がこの映画を何処まで理解できたかは不明である。
そして1980年に第2作が、83年に第3作が公開され、とりあえずシリーズは終了した。すべて映画館に足を運んだ記憶がある。「エピソード1、2,3」なる、その前の話が映画になったのはずっと後のことだ。

私はSF映画が好きだ。映像が見せてくれる未来の世界、遠い宇宙の姿に胸が躍るたちである。ストーリーの完成度は別として、この映画が見せてくれた宇宙、広大な宇宙空間に浮かぶ巨大な宇宙船、機敏に動き回る飛行艇には魅入られた。

「よし、これ、買っていこう」

Star Wars3部作のビデオが、息子への土産となった。米国で売られているビデオだから、当然日本語字幕は入っていない。当時息子は中学生。英才教育など施さぬ我が家だから、英語は学び始めたばかりである。

「ま、Star Warsだもんな。話していることは理解できなくても、見てればわかるよ」

その程度のノリだった。

「お父さん、この人、今なんていったの?」

一緒に見る時間なんてあるはずがないから、そのような、取り扱いに困る質問は来ないと高をくくった。そして、実際に質問は来なかった。


その息子が年明けにサンフランシスコに赴任する。
そういえばこいつ、ずいぶん前から、アジア、欧州、米国と、世界中に出張していた。そして今度は、サンフランシスコに定住。

「ということは、あれか? お前、英語、出来るの?」

しばらく前に遊びに来たときに問いただしてみた。親が出来ぬ英語なるものを、子供のお前がよくする、ってか?

「ああ、まあね。でも、俺が英語ができるようになったのはお父さんのおかげだよ」

俺のおかげ? お前、親をおちょくるのもいい加減にせい! 俺が何をしたってか!!

「お父さん、アメリカからStar Warsのビデオ、買ってきたくれたろ。俺、Star Warsが大好きでさ。でも、あれ、英語版で日本語字幕がないから、見ても何ていってるのか分からない。それが悔しくてさ、『よし、いつかこれ、分かるようになってやる』って決意したんだ」

それでどうした?

「俺、1本を100回ぐらい見たよ。3本だから300回か。そしたら、何となく分かるようになってさ。それで英語ができるようになったんだ」

おおそうか、なるほど。親の恩とは大きいものだな。

「だけど、お父さん、俺がStar Wars見てるところに帰ってくると、『お前、こんなものを見る暇があったら勉強しろ!』って怒ってたけどね」

……。
親がいない方が子は育つ、ってか。


小学生から英語に親しませる教育が間もなく始まるのだそうだ。でも、英語って、いや、言葉って、親しんだぐらいでマスターできるものではない。それがなければ暮らしていけないほどの緊張感があって初めて身につくものである。
そもそも、日本語の能力すら発展途上にある小学生に、英語を身につける必要があるのか?
人は、基軸となる言葉でしか思考できない。きちんと思考するには、基軸となる言葉をきちんと身につけなければならない。その途中で、中途半端に外国語を交える弊害はないのか。

官僚の、その場しのぎの政策に翻弄される子供たちが心配だ。


東北楽天、おめでとう。
オーナーの三木谷は、英語を社内公用語にするアホウで、ネットショッピングの使い勝手もAmazonに遥かに劣り、いずれ淘汰されるのではないかと期待しているが、しかし、東北楽天イーグルスの活躍は欣快至極である。

何より、憎っくき巨人を打ち倒した。

それだけでも素晴らしいのに、

楽天イーグルスは東北のチームである。

加えて、読売のナベツネが仕掛けたプロ野球再編にアンチテーゼを突きつけて生まれた球団だ。当初は、他の球団の在庫品を寄せ集めて発足したが、きちんと仙台の地に根付き、チーム力を強化して見事日本一に輝いた。
権力に酔いしれて再編成を仕掛けたナベツネの球団、巨人を打倒しての日本一は、ナベツネの顔にションベンをひっかけたも同様である。
気持ちがいいったら、ありゃしない。

私の野球の神様である鉄腕稲尾投手が持っていた連勝記録をあっさり破っただけでなく、なんと勝率10割という空前絶後の記録を打ち立てた田中投手が東北楽天のピッチャーで良かった。新記録を心から喜ぶことが出来る。
もし巨人の投手だったら、殺したくなっていたに違いない。

来シーズンは大リーグで野球をするそうだ。活躍を祈る。


忘れていた。
デジタルビデオテープのコピー作業が、本日を以て終わった。
まずは、この間奮闘努力した私を褒めてやりたい。