2014
02.17

2014年2月17日 さらに、雪

らかす日誌

妻女殿救出大作戦

とでも名付けたい活動が、昨日、いや、発端は一昨日から続いている。
続いているということは、いまだに作戦が効を見ていないということである。まあ、007だって、ミッション・インポッシブルのトム・クルーズだって、一度で作戦の目的を達することは稀である。
違うのは、あちらは映画の上映時間を稼ぐため、こちらは雪に阻まれたため、というところにしか存しない。

で、昨日まで結実しなかった作戦を成功に導くべく、朝から空模様をうかがう今日の私であった。
寒い。日差しはあまりない。ということは、急速に雪解けが進むことはありえない。

「おい、そっちでタクシー、呼べるか?」

朝から、妻女殿に電話を入れた。しばらくして返事が来た。

「少なくとも午前中は動かないんだって」

となれば、使える交通機関は1つしかない。間引きながら運転を再開したJR両毛線である。いまやJRは、この作戦に欠かせない重要なコマとなった。

しかし、JRだけでは作戦の成功はおぼつかない。
何しろ、足の悪い妻女殿である。前橋日赤病院からJR前橋駅まで歩け、と告げた瞬間に、脳卒中を起こしかねない。

「ということなんだけど、俺が前橋に着いた時にタクシーが動き始めていれば迷惑をかけることはないんだが、もし動いてない場合、申し訳ないが、会社の車で俺を拾い、前橋日赤で妻女殿を積み込み、JR前橋駅で降ろしてもらえないだろうか?」

電話の先は、我が社の群馬県責任者である。かつては私の後輩だったのに、いまや私の上司として群馬県に君臨する不届き者だ。が、この際、そんな個人的感情はどうでもいい。使える者は親でも使わなければ、この作戦、遂行できないのである。

「あ、いいですよ。ただ、午前中は会社を離れられないので、午後1時半ぐらいからになりますが、それでいいですか?」

いいも悪いもない。それしか手立てはない。

「それで十分だ。俺が前橋についてタクシーが動いていればご迷惑はかけないが、そうでない場合は頼む」

という話し合いをまとめて午前11時頃自宅を出、JR桐生駅に向かった。
有料駐車場に車を入れようとしたら営業停止中。見れば雪かきの最中である。やむなく、

「30分限定」

「送り迎えの車のみ」

と大書してある無料駐車場に車を止める。これから前橋まで行き、妻女殿を連れ戻す。少なくとも3~4時間はかかる大作戦だ。30分以内に車を動かすのは不可能である。だが、そのような事を強いたのは、有料駐車場を閉鎖したJRである。私に問題はない。はずである。

11時44分発の電車で前橋へ。
しかし、である。30万人近くの人が住む県庁所在地、前橋の駅前は寂しい。実に寂しい。心から寂しい。昼飯を食うところが何処にもない。盛岡の駅前には、名物わんこそばを出す店があったのに……。

と思いつつ、駅前の商業ビルに入った。こいつも、寂しさを倍加させる存在である。入居店舗が少なく、やたらと空間ばかりがある。数少ない入居店舗は、何だか怪しげな店が多い。いくつか昼飯を出す店もあったが、こんなところで昼飯を食えば、胃袋が凍り付きそうである。

と私は判断してすぐにビルを出たが、そういえば、このビルの中で食事をしている男女も多数いた。人の感性は様々である。

しかし。である。
なるほど、前橋の雪の被害は桐生に倍するものがあったようである。何しろ、いまだに舗道が雪で覆われている。時々雪のない路面を踏みしめることが出来るが、10mも歩くと再び雪の上を歩く。

「なんだ、これ! 長ぐつをはいてくれば良かった」

と思いながら車道を見ると、2車線の道路で使えるのは1車線だけ。3車線の道は、何とか2車線が使えるのみ。それほど路上に雪が山積みになっている。
過去118年の記録にはない大雪に見舞われた前橋は、だから雪への備えが皆無だったことがうかがえる。

やたらと滑る道を、昼飯を求めて歩く。転けたら、腰が心配である。転けぬよう、慎重に一歩一歩足を運ぶ。
10分ほど歩いて、大きめのホテルが見えた。ここなら昼飯ぐらいあるだろう、と入ってみたが、営業中の飲食店は1店のみ。メニューを見てもろくなものはなく、天ぷらそばといくらの親子丼セットを注文。よくぞ、こんなまずいそばを客に出すものだと感心しながら食べ、お代は1000円。

やがて、群馬県責任者が、社有のスタッドレスタイヤ装着車で私を拾い、前橋日赤へ。妻女殿を後部座席に押し込み、JR前橋駅へ。
桐生に着いたのは夕刻だった。


というわけで、3日がかりとなった大作戦もようやく終結、私に日常が戻った。日常とは、何かとわけのわからぬ不平不満を訴える女性との共同生活のことである。


昨日書き漏らしたこと。

キヤノンのプリンター、MG6330が突然お釈迦になった。
昨日の作戦に失敗して自宅に戻り、作戦に費やすはずであった時間が大量に余った私は、ブルーレイディスクのレーベルプリントに取りかかった。横浜の瑛汰に送らねばならぬサッカーのディスクだけでも、すでに7枚たまっている。

で、プリントに取りかかった。
ん? ディスクトレイを飲み込まない。どうした? と見ていると、ディスクのレーベル面にプリントされるはずの画像が、紙に印刷されて排出される。

「そんな馬鹿な!」

と何度か繰り返すと、

「重大な事故が発生しました。プリンターの電源を一度落とし、もう一度試みてください。それでも症状が治らない場合は、修理受付に連絡してください」(文面は正確ではないが、そのような趣旨であった)

と表示された。
一度電源を落としてもう一度プリントを試みると、

ガ・ガ・ガ・ガ・ガーッ

と不愉快な機械音が中から聞こえた。

「キヤノンのプリンターって、こんなにもろかったっけ?」

と訝りながらも、私は迷わず、新しいプリンターをamazonに注文した。直すより買う方が安いのが、最近の不思議な現実である。
明日届くはずだ。


もうひとつ。
土曜日に、雪を押して東京に帰還したSさんに、アートのシルクエッセンス入りクリームを1個、託した。
なんでもSさん、自主的に私の広報マンを引き受け、交友関係のある人々、中でも女性たちに、この「らかす」を紹介していただいているらしい。
その紹介先の一人に、

「あのクリーム、気になってるんだけど」

という女性がいたという。私が、左手には市販の保湿クリームを、右手にはシルクエッセンス入りクリームを塗る実験を続け、確かな効果を実感しているという記事がいたく心をうったとかで、

「3gとか5gとか入った試供品があったらいいのに」

とおっしゃったそうなのである。桐生をしょって立つ私としては、無視できないではないか?

「いや、それは困ります」

と遠慮するSさんに、新品のシルクエッセンス入りクリームを一瓶、押しつけた。

「これ、その彼女にあげて」

いま使っているのがそろそろなくなりそうなため、買っておいたものである。

その彼女、「らかす」を読んでいただいているはずだ。そう、貴女に贈るクリームをSさんに託したから、必ず受け取ってね。使ってみてね。
ついでに、当然、下心が沢山あってのプレゼントであることを理解してね。

1人でも多く、桐生のファンを増やす。
私は、誰にも託されたことのないミッションをコツコツと遂行するお人好しなのである。
でも、貴女、人間は多面性を持って生きておるのです。お人好しにも下心はあるのですよ!