2014
07.20

2014年7月20日 誰が悪い?

らかす日誌

ウクライナ軍と国内の親ロシア派が戦闘を繰り返している地域の上空1万mを飛んでいたマレーシア航空機が撃墜された。
どうやら、親ロシア派がロシアから仕入れたミサイルを使ってしでかしたらしいが、それを巡って欧米とロシアが角を突き合わせているのは御存知の通りである。

私がこのニュースを知ったのは、確か国営放送NHKの午後7時のニュースであった。数日前のことだ。
紛争地帯の上空ではあるが、無論、紛争に全く関係がないマレーシアの民間航空機が攻撃のターゲットになっていいはずはない。だから、欧米諸国がウクライナの親ロシア派を非難し、その後ろ盾であるロシア政府を追いつめるのは理解できないでもない。
だが、である。そのニュースを見ながら私は思ったのだ。

「暴力団同士がドンパチやっている地域を、乗客を乗せたバスが通行するか?」

そう、少なくとも乗客乗員の安全を最優先しなければならない航空会社である以上、危ない橋は渡らないという、ごく普通の判断が必要なはずだ。たったそれだけのことも思いつかなかったマレーシア航空って、いったい何なのだ? あんたらも責任を問われなくてはいけないんじゃないの?

ところが、である。さすがは天下のNHKである。私の瞬発的な疑問に、そのニュースの中で直ちに答えて下さった。

「アムステルダムからクアラルンプールへ。その飛行機がどうしてウクライナの上空を飛んだのでしょうか?」

こう語った我らが武田アナウンサーは、やおら地球儀を引っ張り出した。そして、地球議上で、ロープのようなものを使ってアムステルダムとクアラルンプールをつないだのである。

「ご覧いただけたように、この2都市を結ぶ最短コースは、ウクライナを通るのです」

おいおい、その程度のことは、少なくとも中学を卒業した日本国民なら知ってるはずだぞ。それ、大圏航路、って呼ぶんだよな。球状の地球で、2地点間の最短コースは、平面の地図で見る最短コースと違う。そんなことは常識で、私は思わず

「武田君、それで、何か画期的な説明の仕方をしたと思ってるの? 大阪の橋下にやり込められたときから、ちっとも向上しない己の知性度を恥じる気は全くないのかね」

と嘆息した。
いや、これ、説明の仕方が無様だっただけではない。
確かに、ウクライナ上空を飛ぶコースが、2都市を結ぶ最短コースである。武田君はこれをもって、マレーシア航空機がそのコースを取ったのは当たり前であると説明した。航空会社は、2都市間を最短コースで結ぶ。なぜなら、それが最も燃料を節約できるからである、ということを、理の当然であると、武田君と、武田君にこの原稿を読ませた我らがNHKは考えたわけである。

おいおい、ちょっと待てよ。
桐生市の本町通はほぼ一直線の道路である。北から順に1丁目~6丁目と名付けられている。

例えばある日、その3丁目で暴力団同士が派手な銃撃戦を展開したとする。その時、1丁目を出て6丁目に行くバスは、

「最短コースがもっとも燃料が節約できる」

と、本町通を走るか?

「乗客の皆さん、間もなく銃撃戦のど真ん中を通りますので、姿勢を低くして窓から顔を出さないようにしてください」

と説明して突っ走るか?

「NHKさんよ、武田君よ、それはないだろ?」

とバカにしていたら、彼らもさるものである。さらなる追撃を仕組んでいたのだ。
登場したのは、元民間航空のパイロットであった。

「ええ、地上で紛争が起きていても、僕らは大圏航路を飛びますね」

と宣うたのだ。

これには驚いた。だとすれば、我々は海外旅行をする際、必ず世界の紛争地域をネットで調べ、地球儀を引きずり出して、出発地と目的地の大圏航路を調べ、それが紛争地帯にかかっていないかどうかを調べなければ己の身の安全を確保できないことになるではないか。

が、その日は私の知恵もそこまでだった。
元、とはいえ、旅客機の操縦席に座っていた人物が、そんな地域の上空を飛ぶのは常識であるといっているのだ。それ以上の突っ込みはできないではないか。


突然だが、朝日新聞の主張に沿った投稿しか採用されないのではないかと思われる「声」の欄も、ごく稀に素晴らしい原稿が採用されることがある。
今朝、「声」に、元国際線機長という方の投稿が掲載された。それを読んで驚いた。この方の原稿が正しければ、我らがHNKの報道は全くの誤報である。

この方は書いておられる。

「誰が撃墜したか」の究明は最重要だが、再発防止には「なぜ紛争空域を飛行したのか、させたのか」も厳しく調査されるべきだ。

おお、私が生煮えのまま抱えていた疑問を、この方はずばりと書いてくださった。その上で、こう書かれた。

紛争の歴史の中で民間航空は紛争地域で安全をどう確保するかに苦慮し、達した結論は「少しでも懸念がある空域は回避する」だ。今回の航路に禁止や制限はなかったが、多くの航空会社は回避していた。

やっぱ、そうだよね。多くの命を預かる航空会社が、

「人名より燃費」

と、ウクライナの上を飛ぶことはないよね。
とすると、

「安全より燃費」

を重視するのが当然という報道をしたNHKは、これ、許し難いバカだよね。
視聴者に間違った情報を与えただけではなく、いろいろな問題を抱えながらも

「安全はすべてに優先する」

を実戦していらっしゃる航空関係者に、これ以上失礼なことはないよね。

つまり、今回の結論はこうである。

命が惜しければマレーシア航空には乗るな。

バカになりたくなければ、NHKの午後7時のニュースは見るな。

皆さん、この2点は忠実に守られた方がよろしい。ま、私は監視役としてニュースは見続けようと思っているが。

なお、NHKの報道内容を「」で紹介したが、これ、私の記憶に残っている限りの報道内容であって、言葉の端々まで正確なものではないことをお断りしておく。
それでも、本質ははずしていないと確信していることを付け加えておく。