2015
09.30

2015年9月30日 選択

らかす日誌

目の前に、2台の車がある。
私がこよなく愛する女性が車が欲しいというので、とりあえずこの2台に絞り込んだ。1台は日本製、もう1台は中国製である。
さて、この2台から、貴男ならどちらを選びます?

価格が同じなら、99%の人は日本製を選ぶ。中国人だって、恐らく日本製を選ぶ。
日本製の方が価格が高かったら? 大多数の日本人なら日本製を選ぶ。物事の分かった中国人なら、これも日本車を選ぶに違いない。

だって、いまの中国製とは、安かろう、危なかろうの代名詞のようなものだ。金持ちの中国人は国内産の食品を避け、安心して食べられる日本産の食品に飛びつく。日本にやってきては抱えきれないほどの化粧品、家電を爆買いして帰国する。

少なくともいまはそれが常識である。
なのに、常識に背を向ける政府があった。インドネシアである。
日本と中国が応札していた高速鉄道で、インドネシア政府は中国製を選んだ。
ニュースを見て、我が目を疑ったのは私だけではなかろう。

おいおい、中国製の高速鉄道?
中国で、日本の技術を勝手に盗んだ高速鉄道が大事故を起こしたのはわずか4年間だぜ。中国は色々苦しい言い訳をしていたがどう考えてもつじつまが合わず、運行の制御システムに欠陥があったのではないかといわれた事故だぞ。40人が死んで、しかも、事故を起こした車両の一部は事故現場近くに勝手に埋められて、原因解明はとうとうなされないまま。記憶力がかなり減退してきた私だって、その程度のことは覚えている。インドネシア政府にいらっしゃる頭脳明晰であるに違いない方々は、当然、もっと詳細に御存知のはずである。
対する日本の新幹線は、これまで無事故である。新幹線が大爆破されたのは映画の中だけの話である。
そんな中国製の鉄道に、自国民を乗せたいか?

新聞では、政府資金を一切使わない方式を望んだインドネシア政府に対し、日本は、事業への融資にインドネシア政府の債務保証をつけるように求めた。しかし、中国はそれもいらないといったことで中国に決まったと解説していた。

なるほど。中国の方がいい条件を出してきたのね。
それは分かる。だが、高速鉄道とは沢山の国民が、時には政府の要人だって利用するに違いない交通の大動脈になる。であれば、対象条件は厳しくても、安全を最優先にするのは当然であろうと、私は思う。その上で条件交渉をするのが当たり前であると、私は考える。
インドネシア政府には、その「当然」も「当たり前」も通用しないらしい。金のためなら、多少の国民の生命はリスクに曝してもいいということか。

いや、それだけなら

「可愛そうねえ、インドネシアの皆さん」

といっておけば済む。

イヤーな気持ちになったのは、今回の中国の受注は、中国の外交戦略が絡んでいるに違いないからだ。
中国は尖閣諸島だけでなく、南シナ海にも手を延ばしつつある。ならず者国家と呼びたくなる中国外交に、周辺諸国が警戒感を高めているのは当然のことだ。世界の警察官を自認する米国も中国の動きには神経を尖らせているのは、先日の米中首脳会談を待つまでもなく明らかだ。
その中での外交戦略。これで中国はインドネシアの恩を売り、傘下に収めたのではないか?
フィリピンもベトナムも中国の野心に恐れを抱き、周辺諸国と手を取り合って中国の野望に待ったをかけようというときに、インドネシアは中国の領土欲を見て見ぬふりをする国になるのではないか? 
それがイヤーな気持ちの中身である。大国中国に対抗するには、小さな国はみんなで団結するしかない。中国は、その東南アジア諸国の団結にくさびを打ち込み、各国をバラバラにする。

13億人とも15億人ともいわれる人口を抱える中国が、自国民が満足な暮らしをするため、エネルギーを中心とする海洋資源を手に入れるのに躍起になる事情は理解できないではない。だが、それはあくまで関係諸国の理解を求めながら、平和の内に進めるべきものである。なのにいまの中国は

「文句ある? だったら表に出る?」

といわんばかり。軍事力を背景にした脅しの外交で資源を手に入れようと懸命だ。そうした中国外交戦略の一端が出たのが、インドネシアの高速鉄道の落札であるような気がして仕方がない。

誰が見ても、

「そりゃあそうだよな。日本は品質の良さに安住しすぎて、とうていのめない条件を出したのだから、競争入札に負けても仕方ない。何とかしろよ」

と思えるのなら何の問題もない。
今回はそう思えなくて、何となく背筋が薄ら寒くなってしまった私である。
私の疑いが的外れであることを祈るしかない。