2015
11.02

2015年11月2日 本番前

らかす日誌

明日はいよいよ、パエリアの本番である。緊張感が……、まったく高まらない。
うまくできればそれでよし。どこかで事故が起きたり失敗したりしたら、舌先三寸で対処する。何せ、ただで配るパエリアだ。うまくいっても得るものはない。せいぜい、自己満足程度だ。これで緊張してどうする?

とはいえ、作らないことには話は始まらない。だから、今日は朝から、材料の買い出しに追われた。

まず、伊勢崎のスマークまで車を走らせる。サフランを入手するためである。1g=1150円。
こいつを2瓶買って、次は農協の直売所だ。トマトを一箱、ピーマン、それに玉ねぎ、ニンニク。レモンも買おうと思ったが、2個で150円と高いのでやめた。あとでスーパーに行こう。
なかなかに世知辛い私である。

ムール貝を頼んでおいた鮮魚店から

「入りました!」

と電話をもらったのは、昨夜のことだ。農協での買い物を終えた私は、この鮮魚店に向かった。

「はい、10kg仕入れました。この箱で3000円です」

おいおい、俺、仕入れを頼んだけど、量まではいってないぜ。

「ああ、そうですか。どれほど必要ですか?」

うーん、ムール貝って、どれくらい重さがあるのかね。欲しいのは40個ほどだから、とりあえず2kgばかり出してみて。

「これで2kgですが」

目でざっと見ると、おお、これで40個内外はあるわ。それでいい。

「はい、では600円です」

あ、そ。10kgで3000円だから、少量買うんならもっと高くなるかと思ったけど、意外に良心的な商売してるんだね。
クーラーボックス持ってきたから、氷も入れておいて。

次は、質のいい物しか扱わない鮮魚商、水戸匠である。ここでアサリを買う。
ムール貝を買った鮮魚店にも、アサリはある。だが、粒が小さい。食べるのが面倒だし、見た目が貧弱だ。だから、アサリだけは水戸匠にする。

「とりあえず、500g量ってみて」

「はい、これが500g」

うーん、何となく少ないなあ。あと200g足して。

100gで150円。700gだと、あれ、いくら?
ついでに、イカも買うか。えっ、1パイ250円? 高いなあ。いいよ、イカはスーパーで買ってくる。どうせ鳥肉とレモンを買いに行かなきゃならないし。

スーパーに着いて。さて、レモンと鳥肉は買い物籠に入れた。イカは……、あれ?

「イカはないの?」

「はい、今日は入荷がないのでイカはありません」

入荷がない? このスーパー、イカなしで商売するの? いかがなモノかなあ。

仕方ない。もう1件スーパーを回るか。
おお、あるじゃない、イカが。さっきのスーパー、入荷がないって、どういうことだ? それとも、このスーパーのイカは売れ残りか?
げっ、高い! 1パイ278円! 高級鮮魚商水戸匠のイカより高い! やめた、やめた。だったら、水戸匠にもういちど行くぞ!

戻るついでに、業務用食品の専門店に立ち寄り、冷凍の有頭エビを買った。2480円。これで40尾だから1尾60円強。

これで午前中の買い物を終えた。自宅に戻り、昼食。終えて、まずムール貝の下ごしらえ。

「あれはさあ、貝殻の外側に色々くっついているから、網籠にこすりつけて取るんだわ。スチールたわしでこすってもいいけどね。あ、それから、ひげを抜いてね」

彼のカルロスのアドバイスである。でも、ひげ?

「ほら、いろんなところにくっつくのに、ビヤーって出てるのよ、ひげみたいなヤツが。それを取っておかないと食べにくくなるんだわ」

「へーっ、ムール貝って、下準備が大変なんだな」

「俺なんか、フランスにいたときは、1日200kg処理してたからね」

そうか、カルロスにも下積みの暮らしがあったか。

ということで、昼食後にムール貝の下ごしらえを済ませ、冷凍エビを流水で解凍した。終えて再び買い物に出る。水戸匠でイカ、である。4ハイ買った。まあ、これで間に合うだろう。


というわけで、準備だけはすべて整った。すべての材料をO氏宅に運び込み、生鮮物は冷蔵庫にしまったことは言うまでもない。明日は手ぶらで実演会場に向かう!
と、己の準備の完璧さに陶酔しかかったとき、

「いかん。明日使うパエリア鍋が我が家に置きっぱなしだわ」

上手の手からも水は漏る。

というわけで、明日はいよいよ本番である。

待ってろよ、桐生人。本物のパエリアを食べさせてやるからな! あまりの美味に卒倒するんじゃないぞ!

頼むから

「これ、お米が生煮えなんだけど」

とか、

「これ、黄色いけど辛いの?」

とか言わないでね!