2016
01.29

2016年1月29日 転けちゃった!

らかす日誌

ねえ、甘利元大臣。週刊文春に首を取られてしまった。 

最初は抵抗するのかなあ、と思った。 
だって、いかにもおかしな話ではないか。政治献金か裏金か知らないが、そんなものを直接手渡すなんてのは 

「ねえ、仲間になって一緒に美味い汁を吸おうよ」 

という誘いだろ? 
そんなときに、録音したり写真を撮ったりするか? だって、お互いに隠しておきたいことは物証を残さない、というのが最低限の知恵であるはず。録音や写真なんてのは、物証中の物証で、これが表に出たら逃げられなくなる。 
まあ、政治家が首を取られるのは他人事だとしても、渡した自分だって贈賄罪、政治資金規正法違反、なんてことになるはずだ。自分は守りたいと思うのが普通ではないか。 
それなのに、 

「私が渡した」 

という変な男が、週刊誌に物証付きで話を持ち込んだ。 
これ、甘利抹殺を狙った自爆テロとでも考えないことには、どうにもつじつまが合わない。 

だから陰謀説が出る。出るのはいいが、では、誰が、何故にこの陰謀を企み、実行犯となった男は何故にその役割を引き受けたのか。 
甘利に対する恨み辛みか? 政治的な捨て駒になる覚悟を固めたのか? 
わからないことばかりである。こうなったら、週刊新潮でもポストでも現代でもいいから、この陰謀の内幕を暴いてほしいものだ。 

にしても、だ。甘利君、脇が甘かった。 
確かに、選挙で通るためには、きちんとした支持者とだけ会っていれば済むというきれい事の世界ではなかろう。きちんとしている人間であろうがいい加減な人間であろうが、1票は1票である。善人だけの支持では選挙をくぐり抜けられないとすれば、支持層はあらゆるところに広げなければならぬ。うさんくさい相手であっても、にこやかに応対し、手土産を受け取る程度の度量の広さは見せなければなるまい。 
だが、だ。 
表面上はにこやかにしながらも、相手の素性を見抜いて己のキャリアに傷をつけないよう注意するのは、政治の世界の鉄則ではないか。 
政治家として生き抜こうと思うのなら、女性の下着を沢山盗んで頬ずりしたいという欲求や、女子大生の愛人を持ちたいという切実や願いに打ち勝つことはもちろん、相手を見抜く眼力を養わねばならぬ。 

「こいつはともに犯罪を犯すにたる人物であるか、それとも表面的な付き合いにとどめねばならないヤツなのか」 

は、甘利君の年齢になれば身につけていただきたい能力である。 

あ、そういえば下着泥はいまだに国会議員を続けているし、そもそも我が群馬県には、女子大生とチョメチョメしながら衆議院議員を続けているヤツがいたなあ。こんなヤツしか選出できない群馬県民、それに下着泥は何処だっけ? の有権者もいま少し成長していただきたいものである。 

それはそれとして、 後任はいい加減男の典型のような石原だとか。 
ひょっとしたら、甘利が転けたらみな転ける安倍内閣になるのか?

 

と、転けてしまった元大臣の話を書いてきたが、お恥ずかしながら、実は私も転けてしまった。昨日のことである。 

仕事で池袋に出かけた。久しぶりの華の東京である。東武鉄道で北千住まで出て、JRで池袋へ。そこまでは何事もなかった。 
到着が早すぎたので、近くで喫茶店を探し、読書をしながらコーヒーを飲んだ。ところが、暑い、店の中は暖房が効きすぎていて、座っているだけで汗が出る。 

「これはいかん」 

とほうほうのていで店を出た私は、とあるビルの入り口付近の花壇に腰をかけ、 

「ああ、涼しくていいわ」 

と読書を継続した。15分もたったろうか、そろそろ時間なので立ち上がった。が、何だか身が軽い。いつも身につけているものの一部が欠けているような気がする……。 

「!」

私は先ほどの喫茶店に飛んで返った。身軽なはずである。商売道具がいっぱい入った鞄がないではないか! そういえば、コーヒーを飲むときにテーブルの下に置いた。それを置き去りにしたか……。

「あんさんもそろそろいけまへんな。惚け一歩手前やないですかいな」

それを否定する気はない。起こしてしまったことは起こしてしまったことである。いくら笑われようと、黙って耐えるしかない。
が、ご注意願いたい。この時点では、私はまだ転けていない。転ける話はこれから出るのである。

鞄は無事、私が置いた場所にあった。一安心した私は、仕事前の一服を楽しんだ。といっても、いまの東京は無闇矢鱈なところでは煙草は楽しめない。ゆえに、コンビニの前、吸い殻入れが用意してある一角に足を向け、ガードレールに腰をかけて煙草をくわえた。

それも吸い終わり、さていよいよ仕事である。ガードレールから腰を上げた私は、目的地に向かって足を踏み出した、、、、、、、はずだった。
はずだったのに、次の瞬間、私の口から異様な音が飛びだした。

「おっ、おっ?」

気がついたとき、私は歩道の上に膝をついて倒れていた。

何が起きた? 振り返ると、踏み出した足を着地させるはずだったあたりに、ゴミ袋が置かれていた。コンビニの清掃の一環らしい。どうやら、私の踏み出した足はこのゴミ袋にひっかかり、目的地まで到達しなかったようなのだ。目的地に到着しておれば、そこに体重を移すはずで、そのつもりで体重移行し続けていたのが当時の私の身体である。それなのに、足が着地したのはずっと手前の地点であった。身体の重心はそれよりずっと先まで進んでいたからたまらない。私はもんどり打って転けちゃっていたのである。

鞄からは携行している文庫本が2冊飛び出していた。先ほど東武デパートで買った湯飲みは、どうやら無事だったらしい。

「痛てっ!」

ズボンの左膝あたりがすり切れている。このズボン、もう仕事には使えないわ。それに、ひょっとしたら膝に擦り傷でもつくってしまったか?

「このズボンで、この痛みを抱えて仕事?」

が、起きたことは起きたことである。そのような不意の出来事への備えはない。このズボンで、この傷で仕事を進めるしかないのであった。


桐生に戻ったのは午後8時近かった。まず入浴。着衣を脱ぐと、左膝に立派な擦り傷ができていた。湯船でキリキリと痛んだのはいうまでもない。

「しっかりしてよ。もう若くはないんだから」

妻という肩書きを持つ女どもは、同居人のかような失態に際し、何故に鬼の首を取ったような顔でこぼれ落ちそうな笑いをこらえつつ、わかりきったことを、さも深遠な真理のように語るのであろうか?
と思いつつも、

「わかっとるわい!」

と言い返せない己を可愛く思った昨夜の私であった。