2016
06.25

2016年6月25日 わからん

らかす日誌

イギリスがEUからの脱退を決めた。国民投票の結果が出た昨日から今日にかけて、ニュースはこの話題一色である。いや、それほどでもないか?

私は不熱心な新聞読者だから、イギリスが何故にこのような決断に至ったのかはよくわからない。いや、新聞を隅から隅まで読んでいたら、果たして理解できただろうか? 最近の新聞の体たらくからすると、それも不確かである。が、まあ、他国のことだ。知らなきゃ知らないで何とかなる、と開き直るしかない。

では、なぜ「日誌」で取り上げる?

誠に当を得た質問である。であれば、お答えしよう。

日本のメディアは、何で経済面の影響にしか目を向けないのかね。
何故に、これで景気が悪くなると言いふらすのかね。

どうにも、それを腹に据えかねたのである。どっちみち、あんたたちだってよくわかっていないのだから、怖ず怖ずと報じればいいものを、と怒るのである。

EUはすでに各国の桎梏になっていると主張しているのは、私の記憶によるとエマニュエル・トッドである。フランスの人口学者。人口動態からソ連の崩壊を予測したことで一躍名を知られた。世界でも有数の頭脳であると私は思う。

ここから先も私の記憶に基づく話だから、あまり信用せずにお読みいただきたい。正確に理解したいと思われる方は、彼の

『ドイツ帝国』が世界を破滅させる」(文春新書)

をお読みいただきたい。

とお断りした上で。

EUの盟主はドイツである。その牽制役を果たさねばならないフランスがすでにドイツの軍門に下り、勢いのあるドイツ経済のおこぼれに預かりたいと動くようになった。いま、EUはドイツ帝国とも見ることが出来る。EUのあらゆる施策はドイツの利益のために構築され、他の国にはそのおこぼれが行くだけだ。ドイツに利用されるだけの各国は、なぜEUに留まり続けるのか? すでに、このドイツ帝国の経済力はアメリカに匹敵する。力の均衡は危険を高めるのも懸念される。

いやいや、書きながら記憶の曖昧さを実感する。だからかなりの間違いがあると思うが、しかし、ドットさんはEUという統合体を困りものだと見なしていることだけは確かだ。

そのEUから英国が離れる。
EUに留まれば中東からの移民の受け入れを強いられ、下層労働者の暮らしを圧迫するようになったこと、イギリスは暮らしやすい国(医療費も学校もただ)で、EU内の貧しい国から大量に人が移り住んでバスも電車も病院も混むようになったこと、人の出入りを自由にしすぎるとテロリストが入り込む危険が増すこと、など、いろいろな解説がある。

だが、なのだ。人間とは本来保守的なものである。

「存在するものは合理的である」

とばかり、現状の変更には本能的に拒絶反応を示す。いまがどれほど辛かろうと、それを変えることには本能的に恐怖を感じるものである。
それなのに、国民の過半数が現状を変えることを選んだ。それを、上に書いたような理由で説明しきれるだろうか? 私には無理に思える。

きっと、もっと政治、経済、地政学、文化、そんなものを綜合した違う流れがあるのだ。
そして、イギリス国民がそうであれば、ほかの加盟国だって同じ流れにあるのではないか? それぞれの国で国民投票を実施すれば、ひょっとしたら離脱する国が半分ぐらいにのぼるのではないか?

EUとは何であったのか。いまは何になったのか。メリットは。デメリットは。イギリス国民が何故離脱を選んだか、ではなく、もっと全体を見渡した分析が必要だと思う。

と考えてくると、経済問題だけでイギリス離脱を評価しようという日本という国の身勝手さが際立つ。

やれ世界同時株安だの、円が急騰しただの、経済面での影響をトップニュースにしたのは日本のほとんどのメディアである。

「100以上の日本企業がイギリスでものを作り、相互に関税がないEUの制度を利用して他のEU諸国に輸出している。だから、イギリスが離脱することを懸念している」

てなことをコメントしていたのは経団連会長だった。

これで景気が悪くなる、というコメントもあった。

もう少し冷静に見られないものか?

株や為替に関わる連中は、いってみれば銭ゲバである。奴らはマーケットが安定するのを好まない。安く買って高く売ることで利益を貪っている奴らだから、マーケットが安定すると儲けが出しにくい。だから、あらゆる出来事を捉えて市場価格が大きく動くように働きかける。
株価が大幅に下がり、為替市場が大きく動いたイギリスのEU離脱は、実は奴らにとって千載一遇のバクチ場なのだ。そんなものに、どうして我々が一喜一憂せねばならん?

動いたマーケットは、やがて落ち着く。リーマンショックもやがて落ち着いた。バブル崩壊で騒いだのももう過去の話である。あれほどのことがあっても株価が下がり続け、円が上がり続けることはなかった。イギリスのEU離脱はリーマンを超えるショックを世界経済に及ぼすとでもいうつもりか?

さて、景気は冷え込むのだろうか?
世界を通じて、経済の6割は消費が支える。消費さえ落ち込まなければ企業は生産を続け、投資を続ける。さて、イギリスのEU離脱で消費は落ち込むだろうか? イギリスで落ち込む? ドイツやフランスで落ち込む? アメリカで落ち込む? 日本でも落ち込む?
そんなことはあるまい。

まあ、EU諸国がイギリスからの輸入に関税をかけ始めるとしよう。たしかに、イギリスからEU向けの輸出は減るに違いない。しかし、EU諸国は自分たちが使うためにイギリスから輸入していたのだから、その輸入が減れば減った分をどこからか調達しなければならなくなる。とすればイギリスの輸出が減った分はEU内のどこかで作られることになる。イギリスの景気は多少影響を受けるかも知れないが、EUでは生産が増えて景気が良くなるはずだ。全体から見れば同じになるはずである。

例えば、イギリスで作っている日産自動車の車はEU向けの輸出が減るかも知れない。しかし、EU内で売れる車の台数は変わらないはずだから、日産車が減った分はどこかのメーカーの車が売れる。日産車をやめてベンツ、BMWという選択はありそうにないから、恩恵をうけるのはオペルか、ルノーか。

それに、だ。EU諸国がイギリスから輸入しているものがEU諸国の企業にとってほかでは手に入らない必須のものであり、しかも関税がないことがそれらの企業の価格競争力になっているとしたら、EU内から

「輸入関税はいまのままゼロにしてくれ」

という大きな声が出て来るのではないか?

いずれにしても、だ。メディアの方々、ちょっと騒ぎすぎではないか?

考えてみれば、一昔前にはEUなんて存在しなかった。だから、イギリスの離脱がEU崩壊の引き金になったところで、昔に戻るだけのことである。そのどこに問題があるのか?

ま、さんざん悪態をついてきたけど、私だってこれからどうなるかはよくわからない。だから、あらゆる側面からイギリス離脱を分析、考察した論考が早くでないかと待つのみである。特に、エマニュエル・ドットの分析を読んでみたい。

日頃の不勉強を横に置き、じっくり考えるのはそれからでも遅くはあるまい、とバカ騒ぎに水をかけたい気分の私である。