2016
12.01

2016年12月1日 継続

らかす日誌

私は日誌を書くために生きているのではない。生きているついでに日誌を書くのである。
それは当たり前のことで、当たり前だから続けるのがなかなか難しい。日誌のネタを見つけるために生きているのではないので、そうなってしまう。
それに、公開している日誌だから、私や家族のことを書くのはいいとして、新聞やテレビをこき下ろすのは当然として、身近な人たちのことを書くのははばかられる。
だから、

「しばらく書いてないな。そろそろ書かないと」

と思っても、何を書くかで困る。困ると

「えーい、今日はいいや。今晩も映画を見よう」

ということになる。最近、そんな日々が続いた。ご無沙汰しております。

日月の歩みは早いもので、カレンダーが最後の1枚になってしまいました。12月。先生も駆け足になるという慌ただしい時期であります。今年もあとわずかに1ヶ月。皆様、いかがお過ごしでしょうか。


桐生への残留を決めて3ヶ月がたった。そして先日、私を桐生に留めおくための組織が発足した。何でも、私を使って桐生の再生に取り組むのだという。

俺にそんなことができるか? と空恐ろしい感じを持っているのは、どうやら私だけらしい。発足総会には20人近い人たちが集まり、会の規約や役員、会費などが全会一致で決まった。みんな本気のようだ。集まる会費は私の残留費用と活動費用に充てられるとのことだ。
えらいことになったものだ。

やむなく、私は大筋、次のような挨拶をした。

私の会社員人生は今年の8月いっぱいで終わりになりました。会社の規定で、年限に達したためです。となると、サラリーマンしかやったことがない私は、横浜の我が家に戻り、

「ちょっと早いかな」

と感じながらも、余生という暮らしに入るしかないと思っていました。
ところが、ここ1,2年ほど前から、

「桐生に残れ」

という人たちが現れ始めました。私について何を勘違いしているのか分かりませんが、まあ、私としては悪い気がするものではありません。でも、1つだけ問題がありました。お金です。

今年9月以降、私の収入は年金だけです。横浜に家があるので、老妻と2人で暮らしていくことはできると思います。しかし、桐生に残るとなると、そして何らかの活動をするとなると、当然家賃、通信費、移動費などの費用がかかります。それは年金から捻出するのは難しい。だから、横浜に戻らざるを得ない。
私に声をかけていただいた方々には、表現は違ったかも知れませんが、そのような趣旨の返事をしてきました。そうしたら

「それは何とかするから」

という人が現れた。何をするのかと思ったら、この会の発足です。

ここまでしていただく。本当にありがとうございます。ありがたく、嬉しく、私にとってはこれ以上の名誉はありません。

さて、このようなことになって、桐生でただ無駄飯を食って遊び回っているわけにはいかなくなりました。いま、3つのプランを考えています。

1つは、桐生をネットで発信することです。桐生の素晴らしい企業、製品、つまり皆様を全国に発信したい。ビジネスのお手伝いになれば、と思います。

そこで、御願いがあります。皆様の会社の「No.1」を探していただきたいのです。私は、その「No.1」を発信したい。これからの時代は、「No.1」が成長するのだと思います。

かつて、朝日ホールの支配人を任されたことがあります。着任してみると、年間の赤字が11億円以上もある問題事業でした。累積赤字ではなく、単年度の赤字額です。
思わず、前任者に聞きました。

「俺の仕事は、この赤字を消すことか?」

すると、彼は答えました。

「バカか。消えるわけないじゃないか」

なるほど、年間11億円を超す赤字は、ちょっとやそっとでは消えません。
それからしばらく、帳簿を点検し続けました。11億円の赤字の中身を知るためです。そして、うっすらと見えてきたことがありました。
赤字のうち、8億円近くは公租公課、つまり税金や水道光熱費の面積割りと、建物の減価償却の面積割りでした。ホールの設備は会社のものです。会社にかかる公租公課、それにビルの減価償却をを面積割りして、

「これがホールの負担分」

として計上されているのです。
それを知って決めました。

「この8億円は、同じ場所をホール以外に使っても、会社は払わねばならない金だ。除外しよう。問題は残りの3億数千万円の運営赤字だ。これを解消する手はないか?」

ホール経営の中核は、音楽専用ホールである浜離宮朝日ホールでした。会社はその運営に指針を示していました。

「会社主催の公演で、年間の赤字額を1500万円以内に納める」

赤字にすることが経営目標とは驚いた会社です。まあ、それはそれとして、実はこの指針は1度も守られたことがありませんでした。毎年、2000万円、2500万円の赤字を出していたのです。我が前任者どもは、いったい何をしていたのだろう?

さらに帳簿をめくりました。
調べれば、いろんなことが見えてきます。
まず、会社主催の公演が小粒揃いだということです。552人の収容能力しかないから、1000人、2000人の聴衆を見込める音楽家は呼ばない。勢い、中堅どころに声をかけるということになります。中堅どころといえばそれなりに聞こえるのですが、その層には観客動員力がない。
1つの公演をつくるのに

「この音楽家なら350人は入る。とすると、1人4000円の入場料を取って 140万円の収入が見込めるから、諸経費を引いて100万円のギャラが払える」

と計算して開催すると、200人しか客が来なくて収入は80万円しかなく、30万円~40万円の赤字になる。ほかには

「1500万円までは使える」

とばかりに、客足が伸びそうにない音楽家のコンサートを多数開催します。そうした赤字が積み上がって2000万円、2500万円になっている。

いや、それだけではありませんでした。本来、公演のコストに含めるべき費用を、ホールの一般経費に紛れ込ませているのも多数見つかりました。それだけの悪知恵を出しても、1500万円の枠を守れなかったのが、歴代の支配人の経営でした。
これでは赤字が垂れ流されるのも仕方ありません。

そこで私は、新しい方針を示しました。

・552席が満席になる公演しかやらない
・年間、3回は世界の超一流といわれる演奏家を呼ぶ

この2点です。民間の音楽ホールである以上、採算を重視するのは当然です。まだ知名度の低い音楽家を追いかける、少数のクラシック・マニアに奉仕する必要はありません。

だが、それだけで経営が改善できるとは思えません。音楽ホールである以上、憧れの音楽ホールにしたいと思いました。世界の超一流を呼べといったのもその一環でしたが、それだけでは足りない。
そこで、前からいる担当者に聞きました。

「このホールの特徴は?」

答えは

「世界で9本の指に入る音の良さです」

世界で9本の指? 何か根拠はあるの?
彼は、英語で書かれた本を持ち出しました。アメリカの音響学者が世界中の著名なホールの音響を調べたものです。その本にランキング表がありました。

「ここです」

見ると、Super Excellent(だったと記憶する)に3つのホールがあり、その下のExcellentに6つのホールが挙げられていました。そこに浜離宮朝日ホールが入っていました。なるほど、9本の指に入るといっても間違いではありません。日本の音楽ホールで選ばれているのは浜離宮だけです。

「これなら、世界で4番目に、と言ってもいいわけだな」

と口にしましたが、しかし、4番目というのはどうにも中途半端です。

その後、このランキング表を前にあれこれ考えました。1週間? 1ヶ月? どれくらいたったのかは記憶しませんが、突然見えたのです。
9つのホールのうち、浜離宮を除く8ホールはすべて観客収容数1500人以上の大ホールなのです。舞台にはフルオーケストラが乗ります。わずか552人しか入らない小ホールは浜離宮だけなのです。浜離宮の舞台にはフルオーケストラは無理です。せいぜい30人程度のオケしか乗りません。

「これ、世界で一番音がいい小ホールっていえるよな」

こうして、浜離宮朝日ホールのキャッチコピーは

「世界で最も響きの美しい室内楽専用ホール」

となりました。私は、浜離宮の世界一を見つけたのです。
翌年、超一流のピアニスト、ポーランドのクリスチャン・ツィメルマンを招きました。サントリーホールより高い入場料にしたにもかかわらず、満席になりました。
そしてこの年、ホールの運営赤字は1億2000万円減りました。

自分の会社のNo.1を見つけるとは、そのような事だと思います。それを是非見つけていただきたい。どうしても見つからねば、これから築いていただきたい。

2つ目は、企業の相互訪問です。
皆さんとは、すでに6年ほど酒を飲んできました。経営者同士、肝胆相照らす仲になっていただいたのではないかと思います。そこで、相互に会社を見て、学べるところは学び、批判すべきところは口に出して批判をしていただきたい。お互いに学びあうことで、すべての会社の経営を1ランクも2ランクも引き上げたい。
その場には、群馬大学理工学部の先生方、院生、学部生にも参加していただきたい。先生方からは技術の面で専門知識を授けていただき、院生、学部生は経営の実態を知ることで将来の役に立ててもらいたいのです。そこから未来の起業家が生まれればこれ以上嬉しいことはありません。

ヒントはトヨタ自動車にありました。あの会社は改善提案の会社です。すべての社員が職場を改善できる提案をする。
ある時、トヨタの人に聞いてみました。

「1人当たりの提案数って、年間いくつぐらい? 5件? 10件? まさか50件なんて事はないよね」

びっくりする答えが戻ってきました。

「少ない人で200件、多い人は500件を超します」

おいおい、200件でも1日1件だぞ。500件なら1日2件以上。そんなバカな。できっこないって!

「持ち場換えをするからです」

そう切り出した彼は、こんな説明をしてくれました。これまでの職場でそこの作業の進め方、工具の配置の仕方、パーツの流れ方、そんなあれやこれやをしっかり身につけて次の職場にいきます。新しい職場にはそこなりの進め方があります。この2つがハレーションを起こすのですね。なるほど、今度の職場の方が合理的だ、作業が楽だ、早くできる、ということもあるでしょう。でも、ここは前の職場の方が進んでいたというところも見えてきますし、2つを知ったことで、2つを組み合わせればさらによくなる、ということもある。それがすべて改善提案として上がってくるのです。

なるほど、と思いました。ですから、プロの経営者である皆さんが、ほかの会社をつぶさに見れば、きっと学ぶべきところ、変えた方がいいところが見えるのではないかと思います。それをぶつけ合ってもらいたいのです。

最後に御願いがあります。
皆様は私を桐生に引き止めようとされています。私を引き止めるというのなら、私の使い方を考えていただきたい。私はサラリーマンの暮らししか知りません。これまでやってきたこと以上のことは知りません。私がサラリーマンとしてやってきたことが皆様のお役に立つとは、私にには思えない。
それでも皆様は引き止められた。私に使い道があるとお考えになってのことだと思います。であれば、皆様の私へのイメージで私を使ってみていただきたい。それが私のビジネスになります。私に、私の知らない能力があるのなら、それを引き出していただくのは皆様の責任です。

よろしく御願いします。


いや、これ、一部割愛したが、別に原稿を作っていたわけではない。A4の半分の紙に数行のメモをしただけである。それでもこれだけ明瞭に記憶しているとは、俺も相当に緊張していたのかな?
不思議な第3の人生のスタートだもんな。

発足総会が終わったあとは、いつも通りの飲み会となり、結構酔っぱらった私であった。

ふむ、今回は幾分分かり難いところがあったかも知れないが、まあ、そのあたりはお許しを。

それにしても、このiMac、不調である。この日誌を途中まで書いて、一度再起動しなければ作業を続けられなかった。
買い換えると、OSの関係でDreamweaverが使えなくなるし、どうしたものだろう? 悪くすると、こいつが使えなくなって「らかす」の更新が長期にわたって止まるということにもなりかねない。

誰か助けてくれないか?!