2017
09.05

#78 猿の惑星 ― 愚かなる者、汝の名は……(2007年6月16日)

シネマらかす

テイラー:  Oh, my God! I’m back, I’m home! All the time that is. We finally, really did it. You, idiots! You blow it up! I damn you, damn, damn you! Go to hell!
(何てこった! 戻ってたんじゃねえか。地球なんだ! ずっと地球にいたんだ。くそっ、本当にやっちまったのかよ。馬鹿たれが! 吹き飛ばしちまったのかよ! この野郎、地獄に行っちまえ!)

 「猿の惑星のハイライトシーンだ。初めて見た時、予想外の結末に呆然とした。これは映画史に残る名画だと確信した。ほぼ似た感想を多くの方がお持ちになったらしい。Web上にはこの手の感想文がゴロゴロある。

その評価にはいまでも全く違和感がない。だが、みんなが渡った橋を私が渡っても意味がない。さて、どうしよう。ほかにも橋があるかな?

よもや、この映画をご覧になっていない方はいらっしゃらないと思うが、例によって、念のために粗筋を記す。

20世紀の後半、人類は光速で空間を移動する技術を確立した。さあ、宇宙開発だ! 1972年2月、ケープ・ケネディから宇宙船が飛び立つ。乗組員はテイラーを含む男性3人と女性1人。彼らはすでに宇宙空間で5ヶ月過ごし、いま、地球への帰還の途中にある。彼らの時間では、1972年7月14日。地球時間では2673年3月24日。光速での移動による時間のずれである。

地球への最終航路に入った宇宙船では、テイラーが最終レポートを録音し、人工的な冬眠に入った。すでに冬眠中の3人と一緒に目が覚めた時には地球に到着しているはずだ。

目覚めた。だがテイラーたちは見慣れぬ惑星にいた。地球時間で3978年11月25日。冬眠に入った時間から1305年と半年あまりがたっている。おかしい。地球を出て、地球への帰還ルートに乗るまでの時間が700年と半年余り。その2倍近い時間だ。冬眠中に何かが故障したらしい。むき出しの岩と瓦礫と砂だらけの奇怪な大地。草一本見あたらない。ここはどこだ?

歩き続ける彼らの前に、やっと草木が見えてきた。湖もある。であれば食料もあるはずだ。ホッとする彼らは、しかし次の瞬間、驚くべきものを見る。自分たちと同じ姿形をした生物が、木の実を取って食料にしているではないか!
見知らぬ惑星に、自分たちと同じ姿形をした生物がいる。広大な宇宙の神秘だ。口はきけないらしいが、彼らの宇宙探検で最大の発見である。

だが、その驚きが収まらないうちに、彼らはさらに驚くべき光景を目にする。猿が服を身に纏い、馬に乗り、銃を持って押し寄せて来たのだ。人間の姿形をした生き物たちは逃げまどった。彼らは「人間(Man)」と呼ばれ、猿たちの狩りの獲物なのだ。
テイラーたちも逃げた。何しろ、Manそっくりなのだ。逃げるしかない。だが逃げ切れなかった。彼らは、猿と人間の地位が逆転した世界を、Manとして体験する羽目に陥った。動物園で見せ物にされる、あるいは研究室で実験動物として使われる、地球の猿たちと同じ立場である。

 この惑星の猿たちにとっても、テイラーたちの登場は驚きだった。下等生物のくせに、このManは口をきく。知性も備えているらしい。おまけに、ほかの惑星からやって来たなどと奇想天外なことをいう。いったい何物だ?

 動物心理学者のジーラ博士は、テイラーに惹きつけられた。なにしろ、口がきけて思考能力まで備えた新種のManである。研究する価値がある。
その恋人、考古学者のコーネリアス博士も、ジーラ博士に導かれてテイラーに関心を持った。コーネリアス博士は、猿の祖先は人間であるという進化論を構築しつつあった。だが、猿の惑星では禁断の学問である。禁断の説を公に唱えれば、この星では罪に問われる。だが、進化論を証明できればどうだ? 禁断の学問が真実になる。そうすれば罪に問われることもないはずだ。テイラーは、進化論を証明する生きた証拠ではないか?

(雑学)
アメリカのキリスト教福音派右派、通称ファンダメンタリストは、いまでも進化論を認めていない。現代社会にも、この惑星の猿と同じレベルの人々がいる。

 2人、いや地球人の目では2匹の関心は、純粋に学問上のものだった。彼らはテイラーを保護し、研究材料にしようとした。

この星の知性を代表する科学庁長官兼信仰擁護者のゼイウス博士もテイラーたちの出現に驚愕した。だが、彼の驚きは科学上のものではない。信仰上のものでもなかった。
知性を持ったManは現れてはならない。誰にも告げてはならない真実を知る彼の信念だった。いや、信念というより恐れである。
最初にテイラーを見た時、テイラーは捕獲時に受けた傷のため声が出なかった。なのに、何か話したそうなそぶりをする。このManは話せるのか? まさか! こみ上げてくる嫌な予感を無理に押し殺した。
次に見たテイラーは、屋外の檻にいた。通り過ぎようとした時、気が付いてしまった。檻の中の地面に、文字が記されていた。もう間違いない。テイラーはManではない。ゼイウス博士が恐れ続けていた生き物なのだ。
この文字をほかの猿に見せてはならない。この事実が広がれば、この星の秩序が崩壊する。ゼイウス博士は地面の文字をあわててかき消した。

テイラーが作った紙飛行機も目にした。空中を飛行する物体が存在しないこの星で、ほかの惑星から飛んできたことを証明しようとテイラーが作り、飛ばして見せたものだ。
ゼイウス博士は、手渡された紙飛行機を直ちに握りつぶした。この惑星では、これは悪魔の玩具である。

ゼイウス博士の心は固まった。テイラーを去勢する。テイラーだけなら閉じこめておけばよい。しかし、テイラーがManの女と子供を作るようなことがあってはならない。テイラーと同じ能力を持つ子が生まれてはならない。

去勢? 看守たちの会話からそれを知ったテイラーは逃亡する。そんなことをされてたまるものか!

(余談)
しかし、男とは不思議なものである。テイラーのまわりに人間はいない。いるのはManの女だけである。姿形が同じとはいえ、テイラーは人間ではないものとの間に子供を作りたいのであろうか?
それに。
不妊手術をしたほうが、何の不安もなくセックスを楽しめるのになあ。
あ、それは俺の場合か……。

 だが、多勢に無勢だ。逃げ切れるものではない。再び捕縛され、査問会にかけられた。その結果、テイラーの処置はゼイウス博士に一任される。テイラーを呼び出した博士はいう。

ゼイウス博士:  Emasculation, to begin with. Then experimental surgery. On the speech centers. On the brain. Eventually, a kind of living death.
(まず、去勢する。次に手術を試みる。脳内の言語中枢だ。そうすればおまえは死んだも同然だ)

だが、すでにゼイウス博士の関心はテイラー1人の処置にはとどまらなかった。

ゼイウス博士: However, I have it in my power to grant you a reprieve. That is why I summoned you here tonight. Tell me who and what you really are and where you come from, and no veterinary will touch you.
(だがな、ワシには刑の執行を延期する権限がある。今晩、ここに呼んだのはそんなわけだ。おまえは何者なんだ? どこから来た? 言えば、手術は取りやめてやる)

飛ぶものがないこの惑星に住むゼイウス博士は、ほかの惑星から来たというテイラーを信じない。お前の仲間はどこにいる? それを教えろ! お前の仲間は根絶しなければならないのだ!

窮地に陥ったテイラーを救出したのは、ジーラ博士とコーネリアス博士、それにジーラの甥のルシアスだった。テイラーは、この星で「つがい」にされたManの女、ノバを連れて檻を出る。こうして2人と3匹、いや1人と4匹、それともこの惑星では3人と2匹? は逃走の旅に出る。目的地は、かつてコーネリアス博士が有史以前の文明を発掘した洞窟である。自分たちとテイラーを助けるには進化論を証明しなければならない。真実は何より強い。彼らはそう信じたのである。

洞窟は立ち入り禁止区域の中にあった。逃走に気がついたゼイウス博士とその兵士たちもまっすぐにこの洞窟に向かった。逃げた彼らの目的地はほかにはあり得ない。追いついたゼイウス博士は彼らと一緒に洞窟内の発掘現場に立った。

コーネリアス博士は、必死で自らの進化論の根拠を説いた。猿の社会の歴史であり道徳哲学である聖典が書かれたのは1200年前。ところが、2000年前の地層から精巧な冶金技術がないと作れない道具が出土した。我々の猿社会にはそんな技術はない。我々の文明以前に、よりすぐれた文明があったと考えるほかない。Manの姿をした人形もある。Manの顎の骨のそばで出土した。とすると、古い文明の担い手はManだったということにならないか?

必死の説明にも、ゼイウス博士は耳を貸さない。

ゼイウス博士: To begin with, your methods of dating the past are crude, to say the least. There are geologists on my staff who would laugh at your speculations.
(第一、君の年代測定法はどう見てもおおざっぱだ。ワシの部下には、君の空論を笑っている地質学者もいるぞ)
ゼイウス博士:  What does that prove? My grand-daughter plays with human dolls.
(それで何が証明できるというのかね? ワシの孫娘だって、Manの人形で遊んでおる)

この惑星の知性であり、権力者であるゼイウス博士に真っ向微塵に否定されては、コーネリアス博士に反論はできない。だが、そのとき奇跡が起きた。ノバが何気なく人形に触っていた人形が声を出したのだ。

Mamma! Mamma! Mamma!
(ママ! ママ! ママ!)

 Manは口がきけないからManの人形にしゃべらせる細工をするはずはない。この人形は、かつてManはしゃべる力を持っていたことの証である。猿社会より前に文明を築き上げたのはManだった。彼らにはしゃべる能力があり、優れた知性と能力を持っていたのではないか?

そのとき、洞窟の外に残してきたルシアスと、ゼイウス博士が率いてきた兵士たちの間で銃撃戦が始まった。
ゼイウス博士を人質にして兵士たちを制圧したテイラーは、ノバと2人で逃亡の旅を続ける。自由への旅である。地球にはどうせ戻れない。だったらノバと2人で生きていく。2人の楽園を求める旅だった。希望に近い思いがテイラーの中でふくらみ始めていた。その時だった。テイラーの目の前に現れたのである。
胸から下が砂に埋もれた自由の女神像が!

テイラー:  Oh, my God! I’m back, I’m home! All the time that is. We finally, really did it. You, idiots! You blow it up! I damn you, damn, damn you! Go to hell!

テイラーならずとも、思いつく限りの悪態をつきたくなる。彼らは、地球に戻っていた。ただ、宇宙船で冬眠中に、おそらく自動制御装置にトラブルが起きたのだろう。予定より遙か未来の地球に戻った。戻ってみると、核戦争で人類は滅び、人類の末裔は口のきけない下等動物Manに成り下がっていた。代わりに支配者の地位につき、Man狩りをしていたのは、かつては人間より下等であったはずの猿だったのだ。
馬鹿ヤロー! 糞ったれーっ! 死ねー! 糞ババー! おたんこなす! おまえの母ちゃん出べそー! 寝しょんべんヤロー!

「猿の惑星」が、緊張の度を高めていた東西冷戦のもとで核開発競争を繰り広げるパワーポリティクスへの危機意識を、見事な一編のストーリーにした作品であることは疑いない。キューバ危機(1962年10月)で露わになった東西核戦争の危機がまだ記憶に新しい時期に公開されたこの映画は、あり得る近未来を描いて、時代への見事な警鐘となった。私も強烈なメッセージに貫かれた1人である。

あれから40年近くたった。なのに、人類はあの時代の愚かさを脱したとはとてもいえない。東西冷戦こそ終結したものの、その後に現れたのは核軍縮ではなく、核の拡散だった。いま、お隣の北朝鮮が核保有国になりかけている。何でこうなっちゃうのかねえ……。

(追記)
2017年9月6日:北朝鮮は、なっちゃった!

(余談)
と書いて思い出したけど、例の核拡散防止条約って無理があるわな。すでに核を持っている国が、これから核を持とうとする国に
「おまえは持っちゃだめだ!」
という。無理だ。自分が持っているものを他人が持ってはいけないという論理は絶対に成立しない。
論理的にあり得るのは、すべての国が核を廃棄するか、すべての国が核を持つことを認めるかのどちらかでしかあり得ない。しかし、人類が狩猟・採集と農耕だけの暮らしに戻れない以上、核の廃棄はあり得そうにない。となると、すべての国に核保有の自由を認めるしかなくなるが、それは銃社会アメリカ以上の脅威を世界にもたらす。本当に「猿の惑星」が誕生するかもしれない。
人間とは愚かであるなあ。

 さて、これから私は、人があまり渡っていない(少なくとも、私の知る限り、という限定付きではあるが)橋を渡る。 渡りきれるか?

我々は自らを滅ぼしかねない愚かさから脱出できるのか? 「猿の惑星」は人類の愚かさを告発しながら、一方で救いの道を探るという欲張りな作品である。
人類は救えるのか? このとんでもない課題をひとりで背負わされちゃったのが、ダーティヒーロー、ゼイウス博士である。この惑星の未来を救わんと孤軍奮闘するゼイウス博士は、実は、何とか核戦争を廃絶したいという制作陣の夢を託したお猿さんなのだ。

ゼイウス博士は、血も涙もない強権的な弾圧者として権力をふるう。最初の登場からして、いかにも憎々しい。

ゼイウス博士: Yes, amusing. A man acting like an ape.
(ふむ、面白い。まるで猿みたいにふるまうManか)
ゼイウス博士:  Man has no understanding. He can be taught a few simple tricks. Nothing more.
(Manに理解力はない。ほんの少しばかり猿真似ができるだけだ。それ以上ではない)

喉をやられながら、何とかコミュニケーションを取ろうともがくテイラーを見ての言葉だ。にべもない、とはこのようなことをいうのであろう。
それだけではない。粗筋でも触れたように、テイラーが地面に書いた文字は消す。作った紙飛行機は握りつぶす。
テイラーよ、お前は下等なMan以外の何物でもない。お前をMan以外の生き物であると認める気はまったくない。必要であれば、お前の存在を抹殺するだけだ。
ゼイウス博士は、ジーラ博士がテイラーを保護していなかったら、本当に抹殺していたはずだ。テイラーと一緒にこの惑星に降り立ったランドンは、ゼイウス博士の命令で脳手術を施され、記憶も言語機能も思考能力もすべて取り去られた。生ける屍である。ジーラ博士の保護がなかったら、テイラーも同じ運命をたどっていたのは間違いない。

(余談)
でもなあ、殺さないだけ人間よりマシかもしれないなあ……。

 ゼイウス博士はテイラーの出現に恐怖した。彼だけが、ほぼ正確な歴史の知識を持っていたからである。

この惑星の猿たちが持つ人間についての知識は、ずっと以前に書かれた聖典の第23巻第6節がすべてである。

Beware the beast man, for he is the devil’s pawn. Alone among God’s primates, he kills for sport, or lust or greed. Yeah, he will murder his brother to possess his brother’s land. Let him not breed in great numbers, for he will make a desert of his home and yours. Shun him. Drive him back into his jungle lair: For he is the harbinger of death.
(獣であるManに注意せよ。奴らは悪魔の手先である。神が創造された霊長類で、奴だけが娯楽、欲望、どん欲さのために殺す。そうなのだ、奴は兄弟の土地ほしさにその兄弟を殺す。奴らの数を増やしてはならない。増えれば奴らの土地も我々の土地も砂漠と化す。奴らを遠ざけよ。密林の巣に追っ払え。奴らは死の前兆なのである)

(余談)
ふむ、これはこれで正確な人間理解である。猿もなかなかやるモンだ。

ゼイウス博士:  Because you are a man. And you were right―I have always known about a man. From the evidence, I believe his wisdom must walk hand in hand with idiocy. His emotions must rule his brain. He must be a warlike creature who gives battle to everything around him―even himself.
(どうしてだって? お前がManだからだよ。そう、ワシはManのことはよく知っておる。証拠から見るに、Manの知性は愚かさと表裏一体のものだ。Manは感情が脳を支配しておる。戦争が好きで、周囲にあるすべてと争う。あきれたことに、自分自身とだって戦おうとするんじゃ)

そうなのだ。ゼイウス博士はすべてを知っていたのである。
この惑星はかつて、人類が支配していた。ゼイウス博士たちの仲間、猿は下等動物に過ぎなかった。それがある日、人類は突然滅んだ。核戦争である。ほとんどが死滅した人類に代わって、猿がこの惑星の主人となった。一部生き残った人類は、放射能の影響か、知性と言語能力を失い、下等動物に落ちた。猿が言葉と知性を得たのも、ひょっとしたら放射能の影響による突然変異かも知れない。

いま、我々猿がこの惑星の支配者だ。だが、すべての猿が正確な歴史知識を身につけたらどうなる? 残念ながら、文明は人類が構築したものの方がはるかに進んでいた。遅れた文明はやがて進んだ文明に吸収される。歴史知識を得た猿たちは人間の文明を吸収しようとする。そして、その文明の持つ愚かさも吸収する。やがて猿たちが核兵器を持つ。そして、使う。
いかん。それは許せない! だから、危険だと見れば学問も弾圧した。コーネリアス博士の進化論は危険思想なのだ。

これまではうまく行った。なのに、テイラーが現れた。遅れた文明に生きるゼイウス博士には、やりようによっては物体が空を飛ぶという知識がない。宇宙から帰還した? 嘘を言え! お前が、ランドンが現れたのは、どこか遠く離れた森の中に邪悪な人類の生き残りがいまだに存在する証拠ではないか。

(疑問)
空を飛ぶものがない世界での核戦争とは、どうやって実行するのだろう? どうやらこの映画では米ソ間での核戦争を想定しているらしいが、海で隔てられた両国は、どうやって核爆弾相手国に運んだのだろう? 核爆弾を船に乗せて相手国に近づき、そのまま爆発させたのか? 体に核爆弾を忍ばせた決死隊が相手国に潜り込み、自爆したのか?
人類が核戦争で滅んだことを知っているゼイウス博士なら、物体をとばす技術があったことも知っていたのではないか?
この優れた映画の、ほとんど唯一のシナリオの乱れである。

ゼイウス博士:  Where is your tribe?
(お前のように知性を備えたManの部族はどこにいる?)

彼らと猿たちが接触すれば、やがて忌むべき人間文明に猿たちが汚染されていく。それだけは避けなければならない。知性を持った人類はどこにいる? それは、ゼイウス博士が何としてでも知らなければならいことだったのである。知ったら? もちろん、根絶やしにする!
それが、この惑星、母なる地球を守る唯一の道なのだ。

さて、ゼイウス博士の試みはうまく行くのだろうか?

洞窟をノバと2人で去っていくテイラーを見送りながら、ゼイウス博士は洞窟への入り口の爆破を命じる。有史以前の世界への入り口を封じたのである。ジーラの甥のルシアスが激しく抗議する。

ルシアス: Dr. Zaius, this is inexcusable! Why must knowledge stand still? What about the future?
(ゼイウス博士、これは許せません! 知識を禁じたら未来はどうなるのです?)
ゼイウス博士:  I may just have saved it for you.
(たぶん、私は未来を救ったのだよ。お前たちのために)

お前たちの未来を救ったというゼイウス博士に、ルシアスはさらに問いかける。

ルシアス: What will he find out there, doctor?
(この先でテイラーは何を見るのですか、博士?)
ゼイウス博士:  His destiny.
(彼の運命だ)

ゼイウス博士は、人類が避けられなかった運命を、猿社会の運命にしないために知識と権力をふるった。学問、知識を弾圧した。だが、本当に運命から逃れることができるのか?

ルシアスの問いかけに答えながら、恐らく、ゼイウス博士の心は不安でいっぱいだった。ジーラ博士やコーネリアス博士の知識欲は、力で押さえ込んだ。自分の目が黒いうちは必ず押さえ込む。だが、目が黒くなくなったら? ゼイウス博士はいま、若いルシアスの中に、彼が押しつぶすことができないであろう知識欲を見たのである。
次に、

  Oh, my God! I’m back, I’m home! All the time that is. We finally, really did it. You, idiots! You blow it up! I damn you, damn, damn you! Go to hell!

 と叫ぶのは、我々猿の末裔ではないか……。

地球は生き延びるのか?
パスカルは、人間は考える葦である、といった。考えれば知識が増え、学問が成立しし、技術が進む。そして……。

「猿の惑星」は、人間の知性が進む先に待ち受ける限界と悪を描ききった。いまだに人類は、この映画の問いかけへの回答を用意していない。

【メモ】
猿の惑星(PLANET OF THE APES)
1968年4月公開、113分

監督:フランクリン・J・シャフナー Franklin J. Schaffner
出演:チャールトン・ヘストン Charlton Heston=テイラー
モーリス・エヴァンス Maurice Evans=ゼイウス博士
キム・ハンター Kim Hunter=ジーラ博士
ロディ・マクドウォール Roddy McDowall=コーネリアス博士
ロバート・ガンター Robert Gunter=ランドン
ジェフ・バートン Jeff Burton=ドッジ
リンダ・ハリソン Linda Harrison=ノバ
アイキャッチ画像の版権は20世紀フォックスにあります。お借りしました。