2018
05.09

2018年5月9日 スキャン

らかす日誌

昨日午後から今日にかけて、スキャナーと格闘した。うん、これはまさに格闘であった。

フィルムスキャンができるスキャナーを求めてO氏に電話をしたのは一昨日のことである。自宅にあるはず、なければ買う、という返事に喜んで昨日午前中、O氏宅を訪れた。

「ちょっと待ってて」

という返事とともに一度姿を消したO氏は、数分すると荷物を抱えて戻ってきた。

「ほら、やっぱりあったよ。これ、持って行って使いなよ」

あのね、デジタル機器というのは借りて持っていけばそのまま使える、なんて生やさしいものではないのでありますよ。奴らは激しく好き嫌いをするのだよ。好きになるかどうか。それはこれから結合しようというパソコンのOS次第なのよ。好きになれるOSとはなから相手にしないパソコンがある。その程度は現代人の常識ではないか?
なにしろ、我が家にはMacしかないのである。

「いや、まず、いまのMacで使えるかどうか確かめないことには、持っていく意味がない」

頑として正論を主張した私はその場の主導権を握った。いまのMacで使っているOSで使えるドライバーがあるのかどうか。

「そうだね。調べてみるよ。そのスキャナー、機種は何だっけ?」

機種はキヤノンである。だが、キヤノンの何というスキャナーなのか、表裏をひっくり返して捜すが表示がない。

「わからないよ、これ」

パソコンの前に座り込んでいたO氏はネットでキヤノンのスキャナーを検索する。

「あ、これじゃない? 形が似てるモン」

いやいや、彼の調査を待っていては100年河清を待つがごとしである。私はO氏の探索能力を疑い、独自の捜索を始めた。何のことはない。キヤノンに問い合わせたのである。

「これ、型番を捜してるんだけど、見つからないんだ。どこを捜せばいい?」

いわれるがまま、あちこちに目をやった。おお、あった、あった。スキャナーの蓋の真ん中にロゴマークのようなものがあり、それを取り囲むように書かれた文字が型番を示していた。9950F。ぴかぴか光る文字で書かれていたので読み取りが出来なかったのである。

「ああ、ありがとう。わかったわ。それで、このドライバーが欲しいんだけど、MacのOSはいくつまで対応している?」

何と、情けないことに10.6までしかドライバーがないという。すでにMacのOSは10.8、10.10などを経て、今使っているのは10.12である。それは用意していない、というのがキヤノンの答えであった。

「ふーん、多少古い機種らしいけど、でも、それはメーカーとして極めて不親切だよね」

といやみの一つをいってやって、でも、それでは作業が出来ない。

「ウインドウズはどう?」

その時考えたのは、我が家で出来ないのならO氏宅でスキャン作業をするしかなかろうという、極めて筋の通った対策であった。O氏宅のパソコンはウインドウズである。たしかウインドウズ10。Macは無視するキヤノンであっても、ウインドウズは面倒を見てるんだろ?

「ウインドウズですか? こちらも7までの対応となっております」

ここまで来れば、2発目の嫌みを放たなければならない。

「ということは、新しいパソコンを使っているユーザーは、まだ壊れていなくても古いスキャナーは捨てろ、っていうわけね」

万策尽きた。外注に出すとすれば1枚数十円はかかる。そんな金は使いたくない。どうする?

「そういえば、古いパソコンがあるのよ。確か7のままだったと思うけど」

O氏がそういいだし、そうなった。私は埃にまみれたキヤノンの9950FとLENOVOのノートパソコンを持って自宅に戻ったのであった。

確かに、ポジフィルムのスキャンが出来た。ホームページに使う写真なので300dpiでも良かったが、出来るだけ画質を上げようと600dpiで取った。十分な画質でデジタル化できたと思う。

それはよいのだが、泣かされたのは作業性の悪さである。切れるのである、スキャナとパソコンの接続が。
いや、最初から切れるのなら作業を放棄するだけで、仕事の上では困るが泣かされることはない。作業の途中で切れるのだ。

スキャナにポジフィルムをセットする。パソコンではフォトショップを立ち上げ、そこから読み込む。読み込むにはまずプレビューをしなければならない。スキャナーで雑に画像を読み込み、その画像で取り込みたい部分を指定する。その上で正式なスキャンをする。
その手順に従って作業を進めた。2,3回もやれば手慣れた作業になる。1回に1枚(大きなフィルム)、あるいは2枚しか取れないが、それは仕方がない。私を困らせたのは、順調に進んでいると思われる作業の途中で突然姿を現すウォーニングである。

このまま作業を進めることは出来ません。スキャナの電源が落ちているかパソコンとの接続に問題があります。

頻繁にそんなメッセージが出るのだ。
ちょっと待て。そんなはずはないだろう。だって作業は連続してやっているし、すぐ前のスキャンはうまく行ったではないか。それから電源を落としたこともないし、USBケーブルに触ったこともない。何で突然おかしくなる?

症状が進むと、プレビューの途中でこの警告が出始めた。いや、プレビューが終わり、取り込み範囲を指定してスキャンボタンをクリックしたら突然作業が止まったこともある。訳が分からないとはこのことである。
止まれば、一度スキャナの電源を落とす。再び電源を入れて作業を再開すると、順調にいくこともある。行かないこともある。うまく行き始めたと思ったら、プレビューの途中で止まることもある。どうなるかは、パソコンなのかスキャナ何もか分からないが、とにかく、その連合チームの気分次第なのである。私にはどうすることも出来ない。
窓を開けて、この与太者2台を放り投げたくなった。どっかに消えちまえ!
だが、消えてもらってはフィルムのデジタル化が出来ない。ここはじっと我慢の子でいるしか選択肢はない。

我慢の子は昨日のうちに3分の2ほど取り込んだ。今日の午前中ですべてのフィルムをデジタル化できた。

「終わったよ」

0氏に電話をした。彼は昨日、

「取り込めたら、トリミングはチョイチョイって俺がやってあげるよ」

といっていたので、午後、彼の家を訪れた。
私の作業工程を聞いていた彼はいった。

「ふーん、ねばり強い性格なんだね」

このような劣悪な作業環境に私を追い込んだ反省はみじんもない。が、まあ、いい。彼の助力を得ながら、タスクを遂行したのである。粘り強い我が性格を褒めておこう。

言葉通り、O氏は角度補正とトリミングを引き受けてくれた。Thanks.
代わりに、彼がまとめなければならない講演筆記の原稿の手直しをさせられた。どう読んでも論理が繋がらない文章(これは彼だけの問題ではなく、講演者の問題でもある)に、無理矢理筋を通した。

「これ、もとの文章と相当に違うから、講演者にメールで送って確認を取った方がいいよ」

あれこれ書いたが、私とO氏の麗しい友情で、ふたりが目前にあるタスクを完成させた、充実した一日であった。