2018
08.19

2018年8月19日 厳寒

らかす日誌

夏場に「厳寒」とは不思議なタイトルと思われる方も多かろう。中には

「大道はとうとう狂ったか」

と心配したり、あるいはあざ笑ったりされる方もおられるかも知れぬ。
私は、主観的には決して狂っていない(今のところ)し、あざ笑われるような勘違いをしているのでも、主観的にはない。

驚くような季節の移り変わりである。息をするのすらつらいようなあの酷暑から、一夜明けたら中秋の風が吹いていた。私なんぞは一昨夜からエアコンは使わず、逆にタオルケットでは風邪をひくかも知れぬと懸念し、薄い綿入りの布団を着て寝ている有様である。

いや、それだけなら

「今年は季節の移り変わりがいやに早いなあ」

といっておけばすむ。驚いたのは、北海道の大雪山系に雪が降ったことだ。いくら北海道とはいえ、8月に雪? 今年はひょっとしたら、1月に香港で雪が降るのか?

そんな具にもつかぬ事を考えていたらふと思いついて、我が妻女殿に指令を出した。

「これからは、2週間分ほどゆとりを持って薬を出してもらえ」

いや、これだけでは何のことか分かるまい。ご説明する。
我が妻女殿は30代半ば、札幌にいた時に膠原病を発症された。原因不明の免疫系の病である。以来、30年以上にわたって薬を飲み続けておられる。薬漬け、とは普通、あまりいい意味には使われないが、妻女殿は10数種の薬を飲み続ける薬漬けのおかげで生命を保っていらっしゃるともいえる。

数年前、妻女殿は前橋日赤に入院された。冬場で、退院予定日の前日夕から群馬県は大量の雪に見舞われた。退院の日、前橋日赤までお迎えに上がろうとしたが、大量の雪が道路に残り、車の通行量が多くて雪解けが進んでる可能性が最も高い国道50号線も桐生市内から車が渋滞し、車がほとんど動かなかった。ために、妻女殿には入院を1日伸ばすように伝え、翌日、JRで前橋まで出かけた。

前橋には桐生以上に雪が残っていた。駅前にタクシーはおらず。駅から前橋日赤までの足がない。行きは歩くとしても、前橋日赤からJR前橋駅まで妻女殿を歩かせるのは、ラクダを針の穴に通すよりも難しいことである。
当時私は、まだ朝日新聞で働いていた。群馬県を取り仕切る総局長は、同じ経済部で働いた後輩であった。

「申し訳ない。こういう事情なので、雪用のタイヤを履いている総局の車で前橋日赤とJR前橋駅の間を運んでもらえないだろうか」

私の頼みに、後輩はすぐに動いてくれた。おかげで妻女殿は1日遅れで退院することが出来たのであった。

大雪山系の雪を知った私は、その時のことを思い出したのだ。あの時は入院を延ばして雪解けを待てばいい話だった。しかし、毎月1回前橋日赤に赴き、処方箋を書いてもらわねば妻女殿の命の綱である薬は手に入らない。つまり、検診日に前橋日赤に行けなくなるような事態になれば、薬が途切れる恐れもあるのだ。

「いくら北海道とはいえ、8月に雪が降るのは異常だ。悪くすると、今年の冬はこのあたりも大雪になるかも知れない。検診日に大雪が降る恐れもある。JRが動いていれば何とか前橋までは行けるかも知れないが、JRが止まれば手段はない。だから、検診日になっても2週間分程度の薬は手元にあるように、処方箋を書いてもらえ。いくら雪が降っても、2週間ゆとりがあれば前橋まで行けるはずだ」

という次第なのである。つまり私は、8月中旬に北海道で雪が降り、桐生ではトンボが飛び始めた今年の気候を「異常」であると感じた。異常気象であれば何が起きても不思議はない。夏に、私ですらへたばるような酷暑が来たのだから、自然がバランスを取り、冬に厳寒、大雪の日が来ないと安心するわけにはいかないではないか。

以上が夏場に「厳寒」を思った次第である。ご理解いただけたでしょうか?

明日は朝から人間ドックに入る。半日で終わる予定である。
初めてではないので要領は分かっているつもりだが、一つだけ不安がある。明日は胃カメラを呑まねばならない。私は胃カメラバージンなのだ。

私の喉を通ってカメラが胃まで侵入する。おいおい、俺、そんなことに耐えられるか? 吐き気に襲われて途中で逃げ出すのではないか?

さてどうなることか。胃カメラを呑んだ人はたくさんいるはずだ。胃カメラを呑んで死んだという話は聞いたことがないから、多分、私も生き残るはずだとは思う。しかし、喉からカメラを突っ込まれる図を考えると……。

不安に怯える私であった。