2019
10.03

関西電力問題への正しいアプローチを考えてみた。

らかす日誌

関西電力の幹部たちが、原子力発電所を設置した自治体の助役から法外な金品を受け取っていた。総額3億2000万円あまりというから、まあ、

「10分の1でもいいから、俺によこせよ」

と言いたくなる金額ではある。

だが、このニュースに接したとき、その構図が理解できなかった。どうして、原発のある自治体の助役が、電力会社に金品を渡さなきゃいけないんだ? 逆なら分かるが……。

というわけで頭はまだ混乱から抜け出していないが、

「とにかく、金品を受け取っちゃあいけないでしょ」

「関西電力の幹部たちは悪い人!」

という相も変わらぬ報道が気になる。

「あんたらだけ美味い汁を吸うのは許せない!」

という、私にもあるひがみ根性を刺激しようという報道手法である。

「ね、ね、大企業の偉いさんって外見は偉そうに見えるけど、一皮むけばこんなもんなのよ」

とひがみ根性を持つ我々の溜飲を下げてやろうという報道の仕方である。
でも、これ、そんな問題か?

電力会社と原発を受け入れた自治体の関係は、電力会社が頭を下げて原発を設置させていただくという一方的な関係である。である以上、電力会社は地元にあれこれと気を遣う。なかでも、地元実力者と呼ばれる人には、ひょっとしたら表に出したくないもてなし方をすることもあろう。つまり、この関係で金品が流れるとしたら、電力会社から地元有力者に対してであり、地元有力者が電力会社に金品を渡す理由は全くない。
ところが、今回の事件では金品の流れが常識と全く逆になっていた。これが私の混乱の原因である。

おいおい出てきた情報によると、この助役さんは、原発で仕事をしている地元企業と深い関係にあったらしい。だとすれば、自分の関連する企業に原発関連の仕事を流せ、という意味で金品を渡したのではないか思われる。
その際、地元自治体の助役であることを最大限に活用した。大企業の偉いさんとは普通、おかしな金に手をつけることには慎重になるものである。そりゃあ、領収書もいらない金が懐に入るのが嫌いな人はいない。だが、いくら懐が温かくなっても、発覚すれば手が後ろに回るような金に手をつける人は少ない。いや、自分の手が牛をに回ることだけでなく、それによって大きな傷を受ける個人的な名誉、会社の信頼なども後ろ暗い金に手をつけない理由である。

つまり、今回関西電力の幹部たちは、二律背反的な立場に置かれてしまったわけだ。受け取ってはいけない金であることは重々分かっていたはずである。ところが、金を持ってきたのが原発を設置した自治体の助役で地元の有力者。この人の機嫌を損ねたら、原発の再稼働が出来なくなるかも知れない。それも会社にとっては極めて困ることなのだ。あちらを取ればこちらが立たず。
あなたが助役さんに金品を提示された関西電力の幹部だったら、どうするだろうか?

関西電力の話を聞く限り、取り扱いは概ね適切だったように私は思う。
まず、受け取ることをお断りした。
押しつけられると、返却を試みた。
それもできないとなると、預かり置くことにした。
預かり置いて、先々どうするつもりだったかは分からないが、ここまでの対処は、誰が考えても

「それしかなかったよなあ」

というものだと思う。

こういう全体図を描くと、問題点がはっきりする、
関西電力の対応は、とりあえずまともであった。
まともでなかったのは、新聞報道によると3500万円見当の金品を

「使ってしまいました」

という幹部がいたことに集約できる。
どの幹部が、いくら使ってしまったのか。この3500万円の幹部は責任を問われなければならない。電力会社に収賄罪が適用されるのかどうか知らないが、少なくとも懲戒解雇されなければならないと考える。そして、受け取りながら全く消費しなかった幹部たちは無罪放免しなければならない。

次に考えねばならないのは、預かり置いた金品の保管である。これまでの情報では、受け取った個々人が個人的に保管していたように思われる。だが、関西電力として対処しようというのなら、少なくとも会社で保管すべきではなかったか。そのために、まず誰が、何を、いつ受け取ったかの情報を会社として集約する。その上で、会社で金品は保管する。保管しながら、会社としての対処法を検討する。
そうしておけば、個人的に使ってしまう不心得者が出ることも防げたであろうし、少なくとも、もっと透明性のある対処が出来たはずである。従って、当時の会長、社長だけでなく、受け取っていた役員諸氏には、そういう知恵を出さなかった責任を問われても仕方がない。首にするほどのことではないかも知れないが、少なくとも報酬の返上ぐらいは必要ではないか。

「あいつらだけがいい思いをしてる!」

という報道に覆われて影が薄いのが、

「関西電力は受け取った金品の見返りを与えたか」

の掘り下げだ。
何しろ、金額が金額だ。町の助役風情がポケットマネーから出したはずはない。原資は関西電力の仕事をしている地元企業群であるはずだ。この原資を出した企業は、出した金の見返りとして関西電力から優遇されていたのかどうか。これが最大の問題である。
ずいぶん長く続いていた金品の受け渡しのようだから、見返りがなければ続かなかった、と考えるのが自然である。

おそらく、金品を押しつけた助役は、その金品がどこから出たものであるかを渡す相手に伝えていたはずだ。そうでなければ、それぞれの企業は金を出すいわれがない。ということは、金品を受け取っていた関西電力の幹部たちは金品の出所を知っているはずで、その企業に対して仕事の発注で優遇していたら、これは完全にアウトである。お辞めいただくしかない。

しかしまあ、この助役さんは天才ではないか。普通なら、電力会社からいい思いをさせていただくだけで満足する。ところがこの人は地元企業をたばねて、自分の電力会社への影響力を行使してこちらからも金を搾り取る。ひょっとしたら、この話に乗るのを渋る企業には

「だったら、お前の所には原発の仕事が回ってこないようにしてやる!」

程度の脅しをかけていたのではないか?

改めて全体の構図を概観し、関西電力の幹部たちは、この助役さんが張り巡らせた蜘蛛の巣に絡め取られた犠牲者ではなかったか、と同情すら感じる私であった。