2019
12.07

韓国映画を見ながら、かの国の近代史が重く感じられた私であった。

らかす日誌

このところ韓国映画を見続けている。取り立てて言うほどの狙いがあるわけではない。ディスク64枚入りのホルダーが満杯となり、

「そろそろ整理しなきゃ」

と思っただけである。整理するとは、ホルダーから抜き出してスピンドルに移し、押し入れの上の空間に場所を移動することを言う。そうしないと、ホルダーが増え続けて収納場所がなくなってしまう。

韓国映画は比較的好きな方だ。一衣帯水の隣国であり、鏡で自分の顔を見ながら

「やっぱり、朝鮮半島の血が流れている卯よなあ、俺には」

と思う私だから、感覚的にフィットするものがあるのかも知れない。「シュリ」「おばあちゃんの家」は、私がこよなく愛する韓国映画であることは、シネマらかすをお読みいただいた方には充分おわかりいただけると思う。

いや、韓国映画のすべてが素晴らしいというわけではない。そのギャグセンスに首をひねることも多い。「僕の彼女を紹介します」「もっと猟奇的な彼女」など、そこそこ見せるコメディではあるのだが、ふざけ過ぎというか、どうも私の笑いを誘い出してくれない。江戸と上方の落語が違い、笑いが違うように、これは2つの国の文化の違いか。

と思いつつ韓国映画を見続けて、

「ふむ」

と思い、ホルダーに戻して「保存」グループに入れた映画があった。「シルミド/SILMIDO」「光州5・18」である。そして、戻しながら

「韓国の近代史って、とてつもなく重たいな」

と独りごちた。

いずれも実話を元にした映画である。

「シルミド/SILMIDO」。1971年8月23日、韓国の首都ソウル市内で反乱軍と正規軍の銃撃戦が起きた。シルミド(実尾島)事件という。最後は反乱軍が手榴弾で自爆、20人が死亡し、生き残った4人も死刑判決を受けて1972年に刑が執行された。この事件を映像化した作品である。

これを遡ること3年半。1968年1月21日、38度線を越えて侵入した北朝鮮の特殊部隊31人が韓国大統領官邸である青瓦台の襲撃を試みた。狙いは朴正煕大統領の暗殺である。襲撃は未遂に終わったが、激怒した朴大統領は復讐を試みる。韓国も特殊部隊を創り、北朝鮮の金日成・国家主席を亡き者にする。そのために創設されたのが「684部隊」だった。
映画では、部隊員は死刑囚から募られる。

「国家の敵、金日成を殺せ。成功すればお前たちの罪を帳消しにするだけではない。お前たちは国家の英雄として前途が広がるのだ」

なにしろ死刑囚である。放っておけばなくなる命だ。こんなうまい話に乗らないはずがない。1968年4月、31人の応募者がシルミドに移され、暗殺実行部隊としての厳しい訓練が始まる。訓練を施すのは空軍である。隊員たちは死と隣り合わせとも言える訓練に耐えながら、北に侵攻せよ、という命令が下る日を待ち続ける。

映画では死刑囚から募った隊員と言うことになっているが、現実には多額の報奨金に目がくらんだ民間人がほとんどだったという。ま、これは映画を盛り上げるための工夫だろう。

ところが、政治は非情である。1970年代になると急速に南北融和の動きが出てくる。1972年7月には南北で平和的に対話を継続するという共同声明まで出る。こうなると、政治家にとって「684部隊」は邪魔者だ。韓国政府が金日成暗殺を計画したことが表沙汰になれば、雪解けムードなど吹っ飛び政治生命が絶たれかねない。

「全員抹殺せよ」

もともと公にはできない部隊なのだ。だからずっと秘めてきた。全員を殺してしまえば金日成暗殺計画自体など、もとからなかったことになる。それが政治の論理である。

ここからは映画のストーリーを追う。
実尾島に詰めっきりで「684部隊」の訓練を続けてきた空軍の隊長に命令が下った。

「全員抹殺せよ」

そんな、と抵抗する隊長にさらに追い打ちがかかる。

「お前たちが抹殺しないのなら、お前たちを含めて全員抹殺する」

隊長は悩んだ。今となれば苦しい訓練に耐え抜いた可愛い部下たちだ。それを摩擦する? そんな……。
隊長は、自分が与えられた命令を部下に伝える時と場所を選んだ。「684部隊」に聞こえるようにしたのだ。

「684部隊」は決起する。実尾島にいる空軍の部隊を殲滅し、本土に渡って一路青瓦台を目指すのである。島での殲滅戦の最中、隊長は自ら命を絶つ。「684部隊」員への約束が果たせなかった責任を取ったのである。
島の抜け出した「684部隊」は一路ソウルを目指す。

「大統領に直訴する!」

こうして銃撃戦のあと、手榴弾による自爆という形で幕を引くシルミド事件は起きた。

朴正煕全斗煥盧泰愚の3代の大統領はこの事件を隠し続けた。しかし2003年になって資料が明るみに出て映画化された。

まq、すごい話である。こんなことが1972年、私が大学生の時の起きていたなんて、恥ずかしい話だが全く知らなかった。

と、ここまで書いたところで寝る時間になった。中途半端だが、続きは次回とさせていただく。
では、おやすみなさい。