2020
01.06

今日は多くのサラリーマンの仕事始めだろう。

らかす日誌

しかし、いまやアメリカが最大、最悪のならず者国家かも知れない、と思う今日この頃である。

それはそれとして。
12月28日から1月5日までの長い年末年始の休みが明けた。多くのサラリーマンの皆さんは、今日が多分、今年の仕事始めであると思う。これから1年、先を思うと鬱陶しくなるのか、それとも希望に胸が膨らむのか。それぞれの思いを胸に抱いて久しぶりの通勤電車にお乗りになったのではなかろうか。

そんな感慨はいまの私には無縁だが、それでもサラリーマン時代の仕事始めの想い出はある。想い出を集約すると、会社に行っても何もすることがないのが仕事始めの日ではないか。

あれは築地の朝日新聞に出社したから、多分、朝日ホール支配人をやっていたころだと思う。その年は4日が仕事始めで、午前10時頃には会社にいた。
いても何もすることがない。事務所にいれば、日頃付き合いのある音楽事務所の方々が次々の年始の挨拶においでになる。

「今年もよろしくお願いします」

「いやあ、去年は無理をお願いして申し訳ありませんでした。こちらこそ今年もよろしくお願いします。またまた無理なお願いをするかも知れないけど、本当によろしく」

などという恒例の挨拶を何度も繰り返す。暇になると、会社の中をブラブラして、あちこちに酒が用意してあるからちびちびとたしなんで、やがて昼。

「大道君、昼飯を食いに行こうよ」

と声をかける人があり、3、4人連れだって外に出た。

「だけど、まだ4日だよ。やってる店、ありますかねえ」

「どこも仕事始めだからやってんじゃないの? みんな正月から社員食堂はイヤだろ」

ブラブラと銀座方面に歩く。いや、ない。開いている飲食店が意外にない。やっと見つけたと思ったら、中は満杯である。多くの客はすでに赤い顔をしている。ほう、朝から酒を飲んでいるのは俺たちだけではなかったか。

しかし、正月である。すでに元日から3日間、おせちらしい食べ物を胃に詰め込んでいる。少し変わったものが食べたい。晴海通りから少し横丁に入ったら、たこ焼き屋がやっていた。「築地銀だこ」の屋号がある。

「へーっ、築地ね。そういやあ、ここから築地は目と鼻の先だ。そうか、築地市場で仕入れたたこを使ってるというのが売りなのかな。ねえ、たこ焼きでビール、って良くない?」

私の思いつきに全員が賛成して店に入ろうとした。ところが、ここも満員。

「そうか、正月ってたこ焼きも食えないのか」

それが「築地銀だこ」というたこ焼きショップを知った始まりであった。築地市場でやっていた仲買さんかなんかが起業したのか。しかし、全国に名高い築地市場を店の名前にするなんて、いいところに目をつけたな、と思い、そのうち食べてみよう、とも考えた。
その日はそう考えただけで、近くに空いている蕎麦屋を見つけて酒を飲み、蕎麦をすすってお腹をこしらえた。

私が桐生に初めて来たのは2009年3月末のことである。町を車で走っていて「築地銀だこ」の看板が目についた。

「へえ、『築地銀だこ』って、桐生にまで看板を出しているんだ。こんな小さな町に看板を出したって、あまり効果はないだろうに」

そう思った私は、「築地銀だこ」とは東京・築地が発祥のたこ焼き屋であると信じて疑っていなかった。だって、屋号に「築地」って書いてあるじゃないか。

最初に銀座でふられたあと、確か川崎のラゾーナで「築地銀だこ」を見いだし、買って食べた。

「築地っていうけど、たいしたことないな、これ。たこ焼き、っていうけど、作り方を見ていると、油を使う量が半端じゃない。焼かれてるんじゃなくて揚げられてるよ。たこ焼き揚げだよ」

との味の評価を下していたことも合わせてお伝えしておく。つまり、なぜこんなたこ焼き揚げが多くの客を集めるのか、私には理解できない。これなら、屋台のたこ焼きの方がずっとましではないか。

そんな私に、

「何いってんの。築地銀だこは桐生発祥なんだぜ」

と教え諭してくれたのは、確かO氏ではなかったか。
何でも、かつては鉄工業だったのが、新しい仕事に出て行こうとあれこれ試した。確か、焼きそば屋やアイスクリーム屋もあったんじゃなかったかな。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる、で、たまたま大ヒットとなったのが「築地銀だこ」で、一躍上場企業になっちゃった。いわば、桐生の立志伝中の会社なのだそうだ。

しかし、うまい名前を思いついたもんだ。「桐生銀だこ」ではきっと客は付かなかったろうなあ。桐生で美味いたこが捕れるとは誰も考えないもん。ま、私はまんまと「築地銀だこ」の術中にはまったて数回口に入れたわけだが。

いや、今日は仕事始めだよなあ、って考えていたら、こんな昔話を思い出した。それにしても、たまたま記憶に残ったたこ焼き屋(ほかに店名を知っているたこ焼き屋はない)の発祥の地に、たまたま来て10年も住み着くなんて、人生とは不思議なものである。

加えて1つ。皆さん、思い込みはいけません。記憶に残りそうだったら、ネット時代だから、せめてググって確かめてからにしませんか。そうしないと、私のように恥をかくことになりますぞ。

そんな思い出話でありました。