2020
02.25

組織における上昇志向は、諸悪の根源かも知れないなあ。

らかす日誌

見出しのようなことがふと脳裏に浮かんだのは、きっと「ナチス第三の男」という映画を見ていたときだった。2017年に公開されたフランス・イギリス・ドイツの合作映画である。監督はセドリック・ヒメネス。ハインリッヒ・ヒムラーに次ぐナチス親衛隊の実力者に上り詰め、チェコの統治にあたったラインハルト・ハイドリヒの暗殺を描いた映画だ。

ハイドリヒはドイツ海軍の中堅幹部で、実力は広く認められていた。その彼が不名誉除隊となる。海軍幹部の姪とチョメチョメしちゃたのが運の尽きで、別の女性と婚約したところ、訴えられてしまったのだ。運が悪かったというか、相手が悪かったというか。
腐るハイドリヒを叱咤したのは、この婚約者だった。彼女はナチスの党員で、

「ドイツを復興させるのはこの男。『わが闘争』、まだ読んでないの? 読みなさい!」

と促され、やがてナチスに入党するとメキメキと頭角を現し、ヒムラーの信頼を得る。
チェコに赴任したハイドリヒは暴虐を尽くす。ハイドリヒの暗殺に立ち上がったのは、駐英チェコ軍の若き兵士であった。パラシュートでピルゼン(ビールで著名な町です。東欧に出張した際、ここのビール工場の地下で振る舞われた、150年前の製法で作っているビールの美味かったこと! ショットグラス1杯分ぐらいしか飲ませてはもらえませんでしたが)に降下した兵士たちは、チェコのゲリラ組織と力を合わせてハイドリヒ暗殺に動き出す……。

まあ、男が失敗するのは酒と女、と相場は決まっている。酒なら

「ま、酒の上でのことだから。あんたにも酒での失敗はあっただろう?」

などと仲介の労を執ってくれる人が現れて事なきを得ることもあるが、女となるとそうはいかぬ。

「私をおもちゃにしたのね!」

などと迫られて、己のリビドーの暴れん坊ぶりに冷や汗をかいた経験を持ちの方も少なくはあるまい。
ま、それはそれとして。

婚約者にケツを叩かれてナチスに入党した情けない男が、ナチスという組織の階段を駆け上がったのは、ヒトラーが唱えた国家建設に向けて、人に優れた能力を発揮したからである。
売春宿を経営し、部屋部屋に盗聴装置を据え付け、軍幹部の弱みを握る、なんてのはホンの始まりに過ぎない。共産主義者を次々と粛正し、「ユダヤ人移住中央本部」の本部長になるとユダヤ人掃討計画を「効率的」に推進する。

「私は命令に従っただけだ」

戦後、逃亡先のアルゼンチン・ブエノスアイレスで拘束され、裁判でこの言葉を残して絞首刑に処されたアイヒマンは、ハイドリヒの部下だった。

さて、ハイドリヒとアイヒマン。ナチスの暴虐を現場で実行した代表者ともいえるが、彼等に共通するのは組織への絶対的な忠誠である。
ハイドリヒは婚約者に言われるまで、ナチスには関心を持っていなかった。おそらく、ユダヤ人への差別意識も希薄だったのではないか。それが入党すると、党の方針に従って虐殺の限りを尽くし、誰よりも有能な党員として、出世街道をまっしぐらにばく進する。
アイヒマンは裁判で、ドイツ政府によるユダヤ人迫害について、

「大変遺憾に思う」

と述べた。「わが闘争」というヒトラーの著書は

「読んだことがない」

のだそうだ。

組織に忠実。忠実であるが故に献身的に働き、さらに働こうと思ったか、己の働きは褒美に値すると思ったか、それとも単に権力を欲し、大きな権力に値する働きが自分にはあると考えたか。彼等は強い上昇志向を持ったがゆえに、歴史に残る大罪を犯すことも厭わず、ヒエラルヒーを上り詰めたのではなかったか。

ま、ナチスに限らず、組織とはそんなものなのだろう。アメリカでトランプ政権を支えている連中も似たようなものではないか。彼等は上御一人のご意向に逆らえば、遠慮なく首を切られる実例をたくさん見てきた。であれば、トランプの意向を先取りしてでも上御一人がお喜びになることをいい、やるしかないではないか。それにしても、トランプの下で偉くなってもあとで人に馬鹿にされるだけではないか、と思うがねえ。
安倍内閣、自民党だって、同じ組織原理に縛られていることは、皆様ご存知の通りである。上御一人の意向に逆らえない連中ばかりになった内閣、自民党。何ともならない野党が支えている政権である。

組織が同じ原理で動くとすれば、会社だって似たようなものであるはずだ。朝日新聞だって例外ではなかった。なるほど、という人が偉くなることもあったが、なんであいつが、という人が偉くなってしまうこともあった。
新任役員が公表されて、

「あいつ、取引先の前で土下座して実績を作ったらしいぞ」

などという噂が飛び交ったこともある。

何であいつが、は、ハイドリヒやアイヒマンがヒトラーの腰巾着であったが如く、自分より上のポジションにいる役職者の腰巾着であることが多い。彼等には次代を拓く才覚はない一方、まかり間違えば会社を奈落の底に落としかねない危険な存在である、と私はにらんでいるのだが。

まだ現役の方々、あなたの会社はいかがですか?

恒例になったコロナウイルス死者数。

伸びが鈍ってきたような気がしますが……。