2020
04.25

久しぶりにGパンを買ってしまった。

らかす日誌

大学生時代、腰から下を守るものとして、私はGパンしか持っていなかった。妻女殿の両親に結婚の許しを得に行ったときの身なりも、上は米軍放出のジャンパー、下はGパンである。それしか着るものがなく、新しく身なりを整える金もないとあっては致し方ない。
何しろ、Gパンは丈夫である。あまり汚れも目立たないから頻繁に洗濯する必要もない。貧乏学生にとって、Gパンは手放せない必須アイテムであった。銘柄はビッグ・ジョンだったかエドウィンだったか。

それほど重宝したGパンを身につけなくなってずいぶんたつ。10年ほど前、佐野のアウトレットでリーバイスを1本買った記憶があるのだが、妻女殿によるとそんなものは存在しない。おそらく、どこかにしまい忘れられているのだと思うが、そんなことで喧嘩をしても気分が悪くなるだけだから放ってある。
それに、この年代になるとGパンはやや辛い。なにしろ、堅牢さを第一に作ってあるから生地がゴワゴワして硬いのはご存知の通りである。ために、身体にフィットしたパターンだと動きにくい。ルーズにフィットさせるとだらしなく見える。だから、買ったはずのGパンが行方不明になって以来、私はもっぱらチノパンを愛用し続けている。これだと腰回りさえ合わせれば、その下は足にピッタリではないから楽なのである。

、か。どこかで、

「オシャレとは我慢することである」

と書いてあるのを読んだ記憶がある。まだ寒さが抜けない時期に薄い春物をまとう。時折吹く風に震え上がるかも知れないが、周りからは季節を先取りしたオシャレに見える。残暑厳しき折に秋物を着るのも同じである。Gパンでいえば、多少動きづらくても、ぴっちりと足にフィットしたヤツを履く。これも我慢である。

だが、オシャレなんぞはとうの昔に捨てた。着飾ったところで、古希の親父を誰が振り返る? 我慢して何になる?
楽がいいのよ、楽が。だって、

Beauty is only a skin deep.

と英語のことわざにもいうではないか。
人間、見た目より中身なんだよ、中身!

というのは、私の年代には誠に都合がよろしい生活哲学である。

それなのに、Gパンを新しく買った。

きっかけは、別件で取材、執筆を進めているバイクウエア専門店である。片田舎といってもいい桐生の地で、オリジナルのバイクライダー用ウエアをデザイン、製作、販売し、北は北海道から南は九州、沖縄までのライダーたちが野宿までしながら乗り付けるという、バイク乗りのメッカである。経営者を二渡さんという。

それはこんな会話で始まった。

「うちのGパンはストレッチの生地を使い、立体裁断で身体の線にフィットするようにデザインしているのですごく履きやすいんです。『他のGパンは履けない!』って、同じものをまとめて買ってくれる人もいます。ああ、それに、足が長く見えるパターンにしてますから、ほんと、足が長く見えるんですよ」

彼の言葉のどこに引きつけられたのか。主観的にはGパンの使い勝手と「履きやすさ」だと信じている。履きやすくて丈夫なパンツなら理想じゃないか? 身長181cmの私が「足が長く見える」に引きつけられることはあり得ない、というのはすでに信念である。人は見かけより中身、と口にする私が、そんなものを気にするはずはないではないか!
……。真実はどこにある?

とにかく買った。履いてもう1週間ほどになる。
なるほど、ストレッチジーンズとはかような履き心地なのか。全体のパターンはスリムなのでチノパンほど、とまでは行かないが、動きが楽である。膝を曲げて腰を落としても無理がない。市販のストレッチジーンズのような、なんだかまがい物ジーンズといった品のなさがないのもいい。見た目はGパンそのものである。

それを履いて過日、床屋に行った。もう6、7年通っている床屋である。私の担当は中年の×1女性。

「うわー、大道さんのGパン姿、初めて見た!」

当然である。彼女にヘアカットしてもらうようになって、私はGパンを履いたことがないのだから。

「似合うよ、背が高いから」

ああ、そうなの、ありがと。ところで、足が長く見える?

「うん、見える、見える。足が長く見える

繰り返す。私は「足が長く見える」に引きつけられて買ったのではないという信念の持ち主である。だから思う。

「営業トークのお世辞だよね」

こんな私をひねくれ者、と呼ぶ人が多いのは心外である。

さてコロナウイルス。現時点で世界の死者19万2261人、日本の死者328人。アメリカは5万人を突破し、イタリア、スペイン、フランスが2万人を超えている。イギリスも2万人に迫る勢いだ。猛威を奮っている、という表現がピッタリする。

ということで、私も数日前から、人前に出るときはマスクをするようになった。人の出入りがほとんどなく、外に出る私でさえ、1日に会う人は多くても4、5人で、それも知り合いばかり、という暮らしをしている我が家にコロナウイルスが入り込む確率は極めて低いが、いまは人前でのマスク着用がエチケットになったらしい。車中にマスクを1枚置き、降りるときに顔にかけるようになった。マスク嫌いの私には腹立たしいことであるが、当面はやむを得ない。

ゴールデンウイーク中の外出自粛は、渋滞、混雑が嫌いな私の長年の習慣だが、今年は国民全体が私の暮らしぶりを見習うよう呼びかけられている。
何も、金と体力を使って人混みの中に分け入るだけが気分転換ではない。自宅で一人、あるいは家族でできる気分転換を探してみることである。好きな映画を見よう。音楽に耳を傾けるのもいい。楽器を始めてみる? 読書は広い世界を開いてくれますぞ。読書週間がないのなら、手始めにポルノでも……。Amazonで注文すれば書店に出かける必要もない。ボードゲーム、あ、これは私の不得意分野である。あるいは昔やり残した勉強。うん、いま高校数学1を解き進んである。ほかにも沢山あると思うが、あなたは何か見つけましたか?

広告・宣伝を兼ねていえば、「シネマらかす」で紹介している映画を自宅で鑑賞していただくのも、立派な気分転換になると愚考する私であります。この際、ご一考ください。