2020
05.13

朝日新聞の運動面、読んでますか?

らかす日誌

昨日の朝刊から、

「再考 2020」

という連載が運動面で始まった。新型コロナウイルスで東京オリンピックが1年延期されたのをきっかけに、東京大会とは何なのかをもう一度考えてみる、という企画である。今朝で2回目だが、これがなかなかよろしい。

昨日の1回目は、女子柔道の山口香が登場した。彼女、いまや

「女子柔道の

というより、今の彼女には

「JOC(日本オリンピック委員会)理事」

の肩書きをつけなければならないのだろう。そして、記憶に新しいのは今年3月、コロナウイルス蔓延の兆候が出始めたころ、

「東京大会は延期すべきだ」

と発言をし、山下泰裕JOC会長(そういえば、この人も柔道だよな)から

「JOCの中の人が、そういう発言をするのは極めて残念」

と不快感を示されたことである。私も著度その頃、2020年の開催はあり得ないと書いた(こちらです)ので仲間が大舞台にもいると知って嬉しかった。

そして、思った。ほほう、柔道で世界を制覇した(あの試合、私もテレビで見ました)山下とは、この程度のケツの穴の持ち主か。なんとちっちゃい事よ!
ウイルス感染が広がる気配があるのに、この男の頭の中は東京大会開催のことだけ。加えて、JOC内部からの発言を押さえつけようという姿勢。世の中を広く見渡す知性と教養、神的なゆとりもなければ、民主主義で何よりも大切にしなければならない思想・信条の自由の大切さを爪の先ほども理解していない不勉強。こんな男がオリンピックの日本の顔かよ。

ま、オリンピックで優勝した試合もたいしたことはなかったが、それにしてもこの程度の男であったかと認識を新たにしたのであった。
返す刀で、私の山口評は急上昇した。柔道家としては確か銀メダルが最高だったし、それほど注目に値する選手だと重思っていなかった。それが、JOCという組織で理事という役職を務めるに相応しい見識の持ち主であると、いい意味で裏切られ、嬉しくなったのだ。

その彼女が連載の第1回に登場した。私の山口評は益々向上した。

「世界がコロナ禍に襲われるなか、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は『まだ4ヶ月ある』と言い続けた。現実が見えているのかと思われただろう」

どうです、この舌鋒の鋭さ!

「東京五輪開催が決まってから、私たちは五輪の力や価値を過大評価していた。誰もが五輪が好きで、応援してくれるという感覚だ。おごりといってもいい」

「今夏の高校総体の中止が決まったとき、『努力は無駄にならない』『先の目標に向けてがんばろう』と発進するトップアスリートがいた。五輪が中止になっても同じように思えるだろうか。高校総体と五輪は違うというなら、それもおごりだ」

ここまで冷静にオリンピックを相対化していただくと、この言葉をどこかの男のケツの穴に突っ込みながら、彼女に向かって

「I love you!」

といいたくなる。おごり。そう、エリートと呼ばれる人たちは、役人であれ、会社員であれ、アスリートであれ、朝日新聞記者であれ、感染しやすいウイルスがおごりある。処置に困るのは、一度感染すると治療薬はほとんどなく、多くがウイルスを脳に住み着かせたまま生きていくことだ。山下JOC会長もその1人なのではないか。そして山口姉ちゃんは自力でウイルスに打ち勝った希有なトップアスリートだといえる。

今朝の2回目はデーブ・スペクターが登場した。テレビ芸人の一人に過ぎないと歯牙にもかけてこなかったが、今朝の発言を見る限り、過小評価をしてきたようで反省させられた。彼の話は視野が国際的に広がっていて面白い。

この人、

「マジメな話、来年、オリンピック、やるつもりですか?」

とツイッターでつぶやいたのだそうだ。反響があったという。私も同様のことはこの「らかす」で何度も書いたが、反響はゼロ。無名人と有名人の違いだろうなあ……。

この人の発言もいくつか拾ってみる。

「そもそも日本人は五輪を神聖化しすぎではないでしょうか。大会中、日本の報道は五輪一色で、『4年間苦労してきた選手』をみなで応援しないといけないような雰囲気になる。勝敗を決した要素に迫るスポーツ報道というより、一種のお祭りです」

「米国では、NBCが五輪を独占中継します。他局はスポーツニュースで採り上げるくらいで、興味のない人は裏番組を見ている」

「IOCの姿勢も問題だと思います。そもそも、東京で真夏に開催するのは危険なのは分かりきっているのだから、IOCがNBCに対し、時期をずらせないか交渉すべきでした。だけど、放映権料で屋台骨を支えてもらっている相手だから、何も言えない」

「五輪にしかないものってありますか。『平和の祭典』は具体的に何をもたらしましたか。多くの人が白々しさに気づいている。原点に返って質素なオリンピックの姿を東京大会で示せた面白かったのですが」

総て正論。中のいくつかは、私も「らかす」を舞台に何度も書いたことである。ったく、訳もなく五輪で踊り狂っているアホウどもを大通りに引きずり出してボコボコにしてやりたいね、デーブ。おっと、ひょっとしたらあなたは非暴力派?

久々に次が読みたくなる連載である、とまずは朝日新聞を褒めておく。

しかしなあ。朝日新聞はこの2人が指摘している東京大会の問題点に気がつかなかったのか。あるいは気がついていてもあえて目をつむって、東京五輪をモンスターに育て上げ、アスリートを含めた関係者を思い上がらせたのか。おごらせたのは、朝日新聞をはじめとするメディアではなかったか? その原点を朝日新聞は理解しているのか? 理解しているのなら、どう反省し、とりあえず

「延期」

ということになっている東京大会にどう取り組むのか。そんなものが、この連載を読んでいれば見えてくるのか?

遅すぎる企画であるとも思う。本当なら、2020年が東京に決まる前にやって欲しかった企画である。コロナが浮かび上がらせたともいえるが、五輪の問題はコロナがあろうとなかろうと変わらないはずではないか。
遅れに遅れた。それでもまあ、何も考えないよりはましかもしれないが。

さらに。この程度の中身なら、著名人を引っ張り出さずとも、記者の主張として展開できなかったか?
自分が言いたいことを代わりに言ってくれる著名人を探し出してインタビューし、記事にするのは使い古されたニュース作りの手法である。私も何度も使った。実に使い勝手がよい。
しかし、使い勝手がよすぎるため、顔が見える記者を育たない。記者とは、知識、経験、見識の豊富な方々にありがたいお言葉を語っていただいて、それを文章にするだけのでくの坊にしか見えない。見えないだけええなく、現実にでくの坊になってしまっている、というのは、自らを省みての反省である。
だから、そろそろ、古い手法を捨てて新しい取り組みをしないと、本当に新聞は見捨てられちゃうぞ。だって、引っ張り出した著名人が、自分のSNSで発信するようななったら、新聞代を払って新聞を読む必要はなくなるだろ?

古巣である朝日新聞には、自分の足元が音を立てて崩れていることに早く気がついてもらいたいと願っているのだが。

それはそれとして、昨夜はとうとう眠りが訪れず、一晩徹夜をしてしまった。古希の徹夜は、だがそれほどの副作用を今日に残さず、朝から整形外科医に行き、戻って原稿を書き、さすがに1時間ほど昼寝をして、今日はもう午後11時半になっている。

世界のコロナ死者数は28万7540人。30万人目前である。
訳の分からぬ大統領が君臨するアメリカは、死者数8万3564人。新規感染者は大きな流れを見れば減少傾向にあるが、それでもまだ1日あたり2万人を超している。死者も12日は1630人。前日の6割増しである。これでもトランプは、出口のドアを開けるのだろうか?
日本もまだ一進一退を繰り返している。12日の死者数24人は前日の2.5倍だ。

コロナ、コロナ、コロナ。そろそろ「コロナ」って入力するのにも飽きてきたが、さて。