2020
06.16

トランプも困り果ていているんだろうな……

らかす日誌

トランプ大統領が警察改革の大統領令に署名した(時差の関係でまだかも知れないが)。警察官の訓練強化などが盛り込まれるらしいが、しかしトランプ、困り果てているんだろうな、と想像する。

きっかけは黒人男性、フロイドさんが警察官の手荒い拘束で死亡した事件だった。黒人の命も大事にしろ、という抗議活動が全米で盛り上がると、トランプは露骨に不快感を示し、米軍の投入まで口にした(ツーッターだから、手にした?)。
何を狙ったか、ホワイトハウス前のデモ隊を警察官で排除、近くの教会に出かけて聖書を手に写真を撮ったたところ、

「大統領選狙いのパフォーマンスのためにデモ隊を排除したのか?」

と反発が益々強まった。

「そうじゃない。フロイドさんの冥福を祈り、一日も早く新型コロナウイルス騒ぎが終息して平和な日常が戻るよう神様にお願いしたのだ」

とでもいいたかったのかも知れないが、だれもそんな戯言には耳を貸さない。打つ手打つ手がみんな裏目に出始めたところに、今度は警察官が黒人男性、ブルックスさんを射殺した。警察官が身につけていたビデオカメラで収録された動画を見ると、ブルックスさんは自分の車の運転席で眠っていた。それをたたき起こした警察官は、多分呼気を調べたのだろう。

「飲酒運転だ」

と車から降ろし、検挙しようとした。それを振り切って逃げ出したブルックスさんに2発の銃弾が命中した。

フロイドさんといい、ブルックスさんといい、そりゃあみんな怒るわな、という殺され方である。ブルックスさんは酒は飲んでいたかも知れないが、車の運転席で眠っていたわけで、車を運転してはいない。つまり飲酒運転の現行犯ではなく、ひょっとしたら酔いが醒めるまで車中で眠ろうと思っていただけだったのではないか?

アメリカの凶暴警官ここにあり

を世界の人たちが目にした。それがアメリカに根強い人種差別と重ね合わされ、抗議活動はさらに盛り上がった。

それがトランプが追い込まれている現状である。大統領選挙が秋に迫り、新型コロナ対策の不手際から支持率の低迷が続くトランプとしては、何とかしなければ、1期だけで落選した元大統領という不名誉を背負って生きていくことになる。

だから、焦る。何とか支持率を持ち直そうと。警察改革と言い始めたのはそのためである。

しかし、なのだ。
トランプの支持層は貧困な白人層だと言われる。俺たち、白い肌をしているのにこんな暮らしだ。色つきの野郎どもが俺たちの仕事を奪っているからこんな暮らしをしなきゃあならない。そんな白人貧困層の鬱屈した気持ちをトランプは煽ってきた。メキシコとの国境に壁を作るというバカげた話も、君たちの仕事を奪っているのは不法移民じゃないか。俺がきちんと落とし前をつけてやる、というトランプ一流のメッセージだった。そして大統領に選ばれた。

と考えてくると、トランプの支持層の大半は、人種差別主義者、というのが大げさだとしたら、有色人種に対する反感の持ち主だと思われる。さて、このトランプ支持層は、警察官による2件の黒人殺人事件をどう見ているか。

「黒人は徹底的に殺しまくれ」

という過激派は数少ないだろうが、もともと有色人種に

「黒人だったら仕方ないんじゃないか?」

という草の根的な人種差別主義の持ち主はかなりの数に上るのではないか?

白人貧困層の支持を虎の子とするトランプだから、これまでなら頑なに警察を擁護していたはずである。それが支持層を維持する政治的判断である。

その判断は警察現場の実感とも一致していると思われる。
おっとりした日本とは違い、銃所持が許されている米国は凶悪犯罪が多い。米国の歴史が産み出した負の遺産の中で、凶悪事件の現場に直面し続ける警察官は常に身の危険を感じざるをえない。社会の秩序を守るため、というより、まず自分の身を守るため

「多少の行き過ぎた取り締まりをやったって大目に見ろよ」

と思ったとしても不思議ではない。それが警察官の中にもある草の根人種差別とあいまって、今回の2件だけではなく、黒人被疑者に対する粗暴な振る舞いとなって現れ続けてきた。そして、アメリカの政治も社会も、大きなくくりで見れば

「そりゃあそうだ」

とそれを認めてきたのではなかったか。

フランスでは、米国での事件を受けて

「人種差別的行動がある警察官を解雇する、首を押さえての逮捕を禁止する」

と表明したカスタネール内相に対し、

「警察がなければ、平穏はない」

と書いたプラカードを掲げた警察官が抗議のデモ行進をした。

「日々危険と隣り合わせて働いている俺たちのことが、幾重もの安全に守られているお前に分かってたまるか! 俺たちの身の安全は俺たちが、その場その場で守らにゃならんのだ。グタグタ抜かすな」

というところだろう。

フランスで起きたことはアメリカでも起きうる。大統領選挙を前にしたトランプは、これまで絶対の支持を取り付けていた白人貧困層に加えて、全アメリカの警察官からもそっぽを向かれる危機を分かっていながら、警察改革の大統領令に署名せざるを得なかった。全米の抗議デモがトランプを追い込んだのである。

トランプタワーに鳴り響く晩鐘が聞こえるような気がする。私の推論が間違っていないことを願いたい。