2020
08.10

私はインフルエンサーであるらしい。

らかす日誌

インフルエンサーといっても、インフルエンザを誰から構わず移しまくる不心得者のことではない。インフルエンス、つまり影響を他人に与える人間のことである。人に対して影響力を持つといってもいいし、憧れの対象になりやすいと表現することもできるし、真似されやすい軽薄な人間であると断定してもあながち間違いではあるまい。

桐生市のO氏がBMWを購入した。といっても、本日、業者間オークションで落札できたばっかりだから、間もなく購入する、といった方が適切か。
落札できたのは白のBMW320dである。グレードは聞かなかったが、3年落ちで2万数千㎞の走行距離だから、まだまだ新しい。私と同じ、桐生市の沼田屋を通じての入札—落札である。

私が沼田屋にお願いしていまのBMW320dを落札してもらったのは2年少々前のことだった。5年落ち、走行距離5万1000㎞だったから、まあ、そこそこ古かった。

沼田屋の美点は、客に代わって業者間オークションに参加しながら、手数料を信じられないほどの少額しか取らないことである。中古車屋は同じオークションで落として、輸入車なら80万円〜100万円の乗せて売るというから、沼田屋を通じた中古車購入はありがたい。

いまの車を買って以来、そんな話をあちこちでした。この話はあちこちで感動を呼んだようである。何しろ、BMWの隠れファンは結構いる。新車価格に恐れおののいて姿を現さないだけである。

「私も買いたい」

と最初に手を挙げたのは燃料商のHさんであった。無事3年落ちの白、320d Mスポーツを購入された。もっぱら息子さんが乗っておられる。

次に手を挙げたのは、何がよかったのか知らないが、東京から桐生に引っ越してきたMさんである。

「一度でいいから、生きているうちにBMWに乗ってみたい。買う!」

と宣言され、好みのカラーであるレッドの320d Mスポーツをお買い上げになった。確か1年落ち、走行距離4000㎞程度の極上車で、新車価格の半額程度だった。

私の影響力の元でBMWを買いながら、2人とも私よりはるかにグレードの高い車を手にされた。だから、この「らかす」で

「恩知らず!」

と書いた記憶がある。

3人目は地元紙の記者であるT君である。
私がいまの車に乗り換えたとき、古い車を彼に譲った。エンジンの調子がおかしく、エンジンオイルが燃えるようなったため乗り続けるのを諦めたのだが、彼に

「という状態だが、欲しかったら10万円で譲る」

と持ちかけたらすぐに話がまとまった。10万円とは、その直前に交換していたタイヤの価格相当の金額である。無料にしては彼も引き受けにくかろうと思い、タイヤ代だけちょうだい、という価格に設定したのであった。
しかし、やっぱりエンジンの不調は続いたらしく、しばらく乗った後で彼も乗り続けることを断念したと人づてに聞いた。

「ああ、気の毒なことをしてしまったか」

と思っていたら、

「何ってるんですか、大道さん。Tさんはあの車を廃車にして中古のBMWを買われましたよ」

と私に話してくれたのは、沼田屋の若旦那である。T  君も沼田屋を通じてオークションで落としたそうで、車種は5年落ちのX3。それもグレードが一番上のMスポーツである。BMWの運転席に一度座ってしまうと、あの味が忘れられなくなるらしい。
いずれにしても、私が知らないところにも「恩知らず」はいたのである。

そして今回のO氏である。私の影響力はかなりのものである。もっとも、その影響力の大部分をBMWに負っているような気がしないのでもないのだが……。

それにしてもO氏である。
彼には何度か

「あなたもBMWにしたら?」

とお薦めした記憶がある。そのたびに

「いや、俺さあ、いろんな車に乗って、結果的に車は国産に決めてるの」

とにべもない返事が戻ってきた。ご機嫌がよろしいときは

「この車、マツダだよ。いい車になったでしょ」

と追い打ちをかけられることもあった。まあ、マツダが変な車であるとはいわない。かつては品質の低さ、耐久性のなさを指摘されたこともあるが、近年は技術開発によほど力を入れたと見えて優れた車を次々と世に問い、多くの支持を集めるに至ったことは、町を走る車にマツダ車が急速に増えた現状からもうかがえる。私だって、国産車ならマツダにする(デザインがいまひとつ好みにあわないが……)はずである。
いや、そうではないのだ。私が言いたいのは、BMWには優秀なマツダ車を超える魅力があるということなのである。
それでも、O氏は

「いいのいいの。マツダで十分なの、俺は」

と取り合わず、奥様の分を含めて2台のマツダ車を所有していた。

それが突然の変心。まあ、君子豹変す、とは、クリスキットの桝谷さんを書いたときに使った表現だが、いったい何がO氏を豹変させたのか?

BMWはかつて六本木のカローラと呼ばれ、ナンパの必須アイテムである時代があった。だとすると、時代錯誤も厭わず、新たなナンパに出かけようってか? まあ、マツダ車より成功率は高いかも知れない。しかし、それも車に乗って首から上を世の中にさらしている間だけのことで、ドアを開けて車外に出れば、相変わらずの全身を衆目にさらすことになる。加えて、もともとコンマ以下である成功率が多少向上しても、生命があるうちに成功するとは思いにくい。

「もう少し経費を使ってくれないと」

と税理士に言われ、税金対策としてこの車を買ったのか?
いや、それなら新車にするはずである。中古車を選んで

「安く買えたよ」

というはずはない。

では、BMWで疾駆する私の姿に憧れを覚え

「俺もあんな風に見られたい!」

と切望するに至ったか?
確かに、私にBMWは似合っていると人に指摘されたことがある。だとすると、これが一番ありうるシナリオか?

いずれにしろ、今日落札した。車が桐生に運ばれてきて整備を終えるには、間もなくお盆ということもあって10日から2週間はかかるだろう。彼がBMWのドライバーズシートに座るのは8月下旬ということか。

O氏と酒を飲むときは、概ね彼が自宅まで迎えに来てくれる。自分の車で出かけると運転代行がなかなかつかまらず、難儀することが多く、タクシーを利用した方が楽だからである。

8月下旬からの飲み会にはBMWのお迎えがつく。うん、私にとってのメリットがその程度の話を延々と書いた。お許しありたい。