2020
12.23

タクシー料金が9000円とは!

らかす日誌

とある会社を訪問した。営業が目的である。
仕事が済み、待たせておいたタクシーに乗った。最寄りの駅に向かう。駅に着き、タクシーを降り始めて気がついた。ない、ショルダーバッグがない!

おかしい。あの会社を出たときは肩から提げたはずだ。そのままタクシーの後部座席に入ったのだから、落とすはずはない。ん? タクシーを降りるとき、ストラップが肩から滑り落ちたか? しかし、中にパソコンが入ったショルダーバッグである。かなり重い。路面に落下したのであれば音がしたはずだ。そんな音、記憶にないぞ。

が、念のため周りを見回す。やっぱりない。車内を見てもそれらしきバッグの姿は見えない。とすると、あの会社を出るときに肩から提げたと思ったのは勘違いで、置き忘れたか?

「運転手さん、申し訳ないがあの会社に引き返して下さい」

タクシーは走り出した。すぐに着いた。

「いくら?」

と聞きながら、不思議なことに気がついた。このタクシー、料金メーターがない。このタクシー、もぐり営業?

「はい、9000円です」

何、9000円! 駅からここまではそれほど離れてはいない。途中に渋滞もなかった。それなのに9000円! 高いじゃないか!

運転手にそう言いながら、私はこれまでに乗ったタクシーの料金を思い出していた。

(桐生で、あの店から自宅まで確か1500円ぐらいだった。同乗者2人の家を回って送り届けても3000円でお釣りが来た。今日はそれほどの距離を乗っていない。やっぱり9000円はおかしい。暴利だ!)

運転手に抗議しながら、頭の一方ではなくしたバッグのことを考えていた。何か大事なものを入れていたっけ? うーん、書類程度か。一番高価なものはAir Macだな。確か12万円ほどだった。あれがなくなると困るな。えーと、中に入っているファイルはすべて卓上コンピューターであるiMacと同期しているから、仕事が滞る心配はない。でも、12万円か。痛いな。

「すみません。先ほどおうかがいした大道ですが、私、ショルダーバッグを忘れていきませんでしか?」

「えっ、いえ、気がつきませんでした」

おー、バッグはここに忘れたのではない。とすると、どこに行ったんだ? やっぱり12万円なくしちゃったのか? 困ったなあ。

おい、運ちゃん。どう考えても9000円は法外だぜ……。この野郎! 思わず拳がでかかった。

あ、か。壁の時計を見ると午前7時過ぎ。目が醒めてもいい時間だ。変な夢を見たなあ。でも、何で?

夢の世界から現実に戻った今朝の私は、不思議な夢を引き起こした記憶の根源を探した。

「あ、そうか」

昨夜、私は飲み会に出た。参加者は4人。午後8時半頃お開きとなり、1人と3人に別れて帰宅の途についた。私は3人組で、同乗者はあのO氏とM氏。そのタクシーの中でO氏がすっとんきょうな声を発したのである。

「あれー、バッグを忘れてきちゃったよ」

O氏は先ほどまでいた店に電話を入れ

「はい、すいません。明日取りに行きますから」

と話しかけている。そばにいた私は

「肩掛けのバッグを忘れてくるなんて、いくら私より年上だからといって、惚けるのが早いんじゃないの」

と内心、ニヤニヤ笑っていた。

そうか、不思議な夢の原因は、これだ! ショルダーバッグ、置き忘れ、ここまでは夢と現実が共通だ。忘れたところが飲食店ではなく営業で訪問した会社というのは、私のマジメさを表しているのだろう。
それでもなあ。忘れたのはO氏だったのに、どうした私がショルダーバッグを忘れたことになる? ひょっとして惚けているのは、O氏ではなくの方か?

疑問はまだある。タクシーを使ったのは共通である。だが、夢の中で私が法外だと思った9000円はどこから出てきた数字だ?
そういえば、飲食の料金は8000円の均等割だったなあ。いや、これは8000円で、9000円じゃないぞ。そうか、その後で、帰宅のタクシー代として3人が1000円ずつ出し合い、一番最後にタクシーを降りるM氏に渡したんだった。これでちょうど9000円になる!
ということは、私は夢の中で8000+1000=9000という算数の問題を解いたのか……。

ちょっと待て。私は昨夜、確かに9000円を負担した。飲み会をやればその程度の金は出て行く。18日に若者2人と飲んだときは、総額1万6000円と告げられて

「後は君たち2人で割って」

と1万円札を出したのは私である。その私が、夢の中で8000+1000=9000という計算をこなした私が、

「9000円は法外だ!」

と運転手に怒鳴っている。つまり、昨夜の9000円は法外な料金だと私は思っていたのか? 9000円がもったいないと航海していたのか? そんな記憶がタクシー運転手を怒鳴りつける夢になって現れたのか? 私は意外にケチなのか? あの店の食べ物はそんな料金に相応しくないと不満を抱いていたのか?

夢とは、自分の人間性を推し量る入り口になるのかな……。

そんな思いを抱えつつ、布団の上に立ち上がった。何かに足が乗った、と思った瞬間、私は仰向けに倒れていた。布団の近くに脱ぎ捨てていたレッグウォーマーで滑っちゃった! これは夢の続きではなかった。傷みも怪我もなかったからいいようなものの……。

今日は年賀状の原稿を作った。明日年賀葉書を買いに行き、印刷に移る。

年内最後の取材予定が26日に決まった。書き上げた原稿に目を通してもらい、あわせて写真を撮る。
取材途中の2社には

「12月も押し詰まってきたので、次の取材は年明けにしたいが、いかが?」

と電話を入れ、年明けに私から電話することにした。

取材が終わった企業はすべて原稿にした。取材途中のものは原稿に出来ない。つまり、私の今年の働きは26日までとなった。暇な年末年始になりそうである。何をしよう?