2021
02.25

きびしくもアマチュア気質を重じて 3=完

音らかす

【そこで音を3つに分けることを考える】
アンプがレベル・アップされたとなると、スピーカ・システムが大いにお粗末である。と思ってたら、良いあんばいに2人の友人が、それぞれコーラルの12L-1(16Ω)を1本ずつ手持ちがあると聞くに至って、早速話して見たら、どちらも割合気安く譲ってくれた。メーカーに送って左右の特性を合わせるために、ボイス・コイルを新品に入れ換えてもらったのが良かったのか、非常にバランスの取れた1組が返って来た。箱は大きめに作ってあったので問題はない。中音は輸出用のパイオニアPM-500が格安で手に入った。残念ながら、それまで使っていたネットワークは500、5000Hzで切っている。PM-500は700Hz以下で特性が落ちる。ネットワーク位たいしたことはなかろうと思って、(実はこれが大間違いの勘五郎だったのだが)パイオニア製のDN-10を、アッテネータAT-16Aと合わせて購入してきた。1週間あまりかかって箱の大改造である。

良く見かけるいかにもマニアらしく、スコーカを天井からぶら下げて見たり、トゥイータをこれ見よがしに裸で並べている人がいる。第1ほこりがたまって始末が悪い。やっぱり体裁良くまとめた方が良い。音のために音楽があるわけでもないのだから……。

やっとの思いで箱ができ上がった。その頃アメリカの雑誌で見つけたG.E.の発表によるマルチ・ホー式バスレフにして見たものの、大して低音ののびはよくならなかったように覚えている。もちろん12“に変えただけのことはあったのだが。

そのうえ高域が何となくすっきりしない。やっぱり骨董品はうまくないと見える。思い切ってトゥイータをばらしてみた。驚いたことにダイアフラムがセロテープで張り付けてある。いや、張り付けてあった、と言った方が良いのかも知れない。完全に乾いてしまっていて、色が変わっていた。だからボイス・コイルが一方にかたよってしまっていた。これじゃ良い音がでるわけはない。

物ごとはついでである。雑誌の広告で見つけたナショナルの8HH55が安くて、取り付け易い。中央研究所に電話をしてあれこれ技術的な質問をしたら、ほぼ満足できる回答が得られたので早速買って来た。驚いたことに、インピーダンスが8Ωしか入手できない。中研では簡単にボイス・コイルの入れ換えを引き受けてくれたのに、営業政策上の問題とかで、すったもんだのあげくやっと16Ωのコイルと入れかわった。

ことのついでに、デバイディング・ネットワークを中央電子音響に注文して作らせた。マルチ・アンプにかかわるものであるかぎり、ネットワークは理論的にも大いに大切である。計算通り音がいっぺんに良くなった。アッテネータも取り換えたのはいうまでもない。

最近、妙な切っ掛けから、スコーカのPM-500のドライバをYLの350-Fに取り換えた。ビックリする程音は変わらなかったけれども、弦楽器の音色が大いに綺麗になったところを見ると、やはり効果があったものと見える。ホーンまで取り換えると箱まで手を加えなければならないので、手持の卓上旋盤を利用してアダプタを作り、そのままパイオニアのを使っている。実験してみたが、ホーンの違いは耳では聞き分けられなかった。写真にあるトゥイータの前のボールは大いに役に立った。釣り道具のとばし浮きにアクリル・ラッカーを10回ばかりコーティングしたものである。広域用ディフューザのつもりで考えたのであるが、¥30.000余りのトゥイータもこうして使うと、かなり良い音を出してくれるものである。

我が家の装置もどうやらオリジナルの面目をほどこした感じである。

話が前後するが、アンプ、スピーカ・システムをいじくりまわしている間に、ターンテーブルがティアックの80Cに、トーンアームがイギリスで手に入れたSMEの3009/Ⅱに変わった。P-84のピンチ・ローラからゴロが出始め、その頃のニートの部品がなくなってしまったからであり、アームは時々接触不良を起こしたからである。このあたりひとつひとつ書いていたらキリがない。いづれ何かの機会に発表することにした方が良さそうだ。なぜ取り換えたかということが、本誌の読者の方々の何かのお役に立つとは思われるが、この記事はあくまで私のリスニング・ルームと言うことなので、技術的な話はなるべく避けた方が良さそうである。

【ここにいたってアンプの正道をいく】
人間の欲望には際限がないもので、グレード・アップについて考え出すとキリがないものだ。

プリアンプをなんとか自作できないかと考えだし、あれこれ、内外の回路を調べたり、定数を計算したり、材料を吟味したりして、とにかく設計ができ上がったのが本誌‘70,8月号のChriskit mark Ⅴで、間もなくその改良品を作り上げ、電波技術の’70,12月号、‘71、2月号に連載したプリアンプが完成した。予定通りのプリアンプができた。我が家のシステムもバツグンにグレード・アップができたわけである。

これで、いつも私が考えていたこと、つまり魔法でも封じ込んでいない限り、マランツ、マッキントッシュ・クラスのプリアンプが私たちに作り得ないはずはない、ということが立証されたわけである。音楽雑誌などに、よくこの世の音とも思われない程のすぐれた音のアンプとして紹介されている。これ等の特別高価な、舶来アンプにも、私共が使用できるのと同じ真空管が使われCRにしても、そこいらで見かけるものと大差ないとすれば、メーカー製と違って、商策上のいろいろな問題点はないのだから、私共に同じような音質のプリアンプができないわけはないはずである。と常々考えていたことに対する自信ができたことになる。

思えばずい分遠い道のりであった。一時は我が家のステレオは永久に完成しないのではなかろうか、と思った位である。

この道で一番問題になることは、自分で気に入っているのに、取り巻き連中が、野次を入れることである。しかし、これは誠に結構なことで、毎日同じ音を聞いている内に、耳の方が飼い馴らされてしまって、いろいろな点で気が付かなくなるものである。私の場合も同じようなことで比較的うるさ方5人に集まってもらって、アラ探しをしてもらったことが何度かある。お陰様で今年の始めになってやっとその連中にもアラを見つけることができないところまでたどり着いたわけである。

なお、つけたしだが、最近は音楽中毒とでもいうのかつねに音がないと落ち着かない。朝食時には、パンをかじりながらでもきくことができるように、ダイニング・キッチンにP-610×2を同一キャビネットに入れたものを天井近くに取り付けて楽しんでいる。

注:一部、拙稿の「桝谷英哉さんと私」と事実関係が食い違っているところがあります。私のミスなのか、桝谷さんが間違ってお話になったのか、今となっては確認のしようがありませんので、このまま放置します。
また、写真はできるだけ元の雑誌と同じ場所に置きましたが、写真と原稿の関係がよく分からない箇所が数カ所あります。これも確認のしようがありません。

なお、原文は「ラジオ技術」1971年5月号に掲載されました。