2021
03.07

音を求めるオーディオ・リスナーのためのステレオ・プリアンプの製作 回路編の1

音らかす

製作がむずかしい、とされているプリアンプも、シャシ構造や製作のちょっとした工夫で、ハンダごてを持ったことのない、オーディオ・リスナーでも、簡単に高性能プリアンプが製作できる。しかも、“製作のための製作”ではなく、完全に実用機として、海外有名プリアンプと匹敵できる、性能を持たせることが可能だ。音楽を聞くことが好きな人、そのために、いろいろ苦労をしておられる方々の、参考になると思う。

プリアンプについて

労働賃金が高くなりましたためか、企業の合理化が進んだためか、あるいは、流行に左右されているのか、近頃のアンプ製品は、ほとんどがトランジスタ化され、プリメイン型が一般になってきたようです。この記事に直接関係がありませんので、詳しく理由は述べませんが、プリメイン型より、プリアンプとメインアンプを別々にする方が、良いことは申すまでもありません。

真空管か、石かについては、今まで諸先生方があれこれ述べておられます。これも詳しく述べるのは避けますが、少なくとも現在のところでは、後で説明しますが、真空管の方が優れていると、私は思います。誤解があってはいけませんが、すべての管球アンプが、ソリッドステート・アンプより良いというのではありませんで、念の為。

このような状態ですので、私の場合、プリアンプが問題だったわけです。メインアンプは仕事で渡米した時に入手した、ダイナキット・マークⅣのモノーラル2台、自分で組んで使っておりますし、国産品でも、ラックスからキットも3機種出ているくらいで問題はないのですが、プリアンプとなると、キットはもちろんの事、国産品に手頃なものがありません。二・三あっても、かなり割高ですし、市場で入手できる唯一のマッキントッシュC-22は、非常に優秀なアンプですが、¥240,000。まったく、ゼロを一つ間違えたような話で、回路の部品構成等から考えて、まったく、人を馬鹿にしたような値段です。

一般に、メインアンプは輸入品で、かなり割高になっているものは別として、価格がその材料構成からみて、割合うなづけるものですが、プリアンプは加工賃及び技術料が大きな割合を占めておりますので、製品の値段がどうしても高くなります。しかも良い製品となると、その材料費の4〜5倍、あるいは、それ以上の価格がつけられるのも当然のことと思います。

となると、プリアンプは管球式を自作するのが、一番という結論に達します。メインアンプのように、材料代が大きく性能にひびいいているのと違って、プリアンプの良いものを原価で入手する方法はこれが一番です。

ところが、作ることが楽しい式のプリアンプなら、あまり問題はないのですが、最高級の実用機を製作するとなると、そう簡単にはゆきません。そんなに簡単にできるものなら、¥240,000もするマッキントッシュC-22が売れるはずがありません。

現に、私が自作した本機は、前回のものと同様に、材料代に2万円、(キャビネット、パネル、ツマミは別)位かかっておりますが、15万円位もらわねば割が合わないほど骨を折りました。しかも、材料集めにずい分苦労しましたしその後、作るのに10日間、測定しながら部品を取り替えたり、とにかくそれだけで、一週間はかかりました。皆さんの中で作成される方々も、経験されると思いますが、材料を集めるのに3週間は当てておかねばなりません。秋葉原へ毎日のように行ける人は別として、私のように本職の貿易屋をやっている片手間に作ったのですから……。要は作る楽しみより、良いものを作ることにあるのです。

そのかわり、この記事を注意深く読んで、丁寧に仕事を進めて行けば、マッキントッシュC-22と同等の音質は間違いなく期待できます。

では、プリアンプの性能上、一番重要な点は何かということについて、考えてみましょう。

  • ハム等の雑音ができるだけ少ない事。つまりS/Nが良い事。
  • イコライザカーブが出来るだけ正しい事。
  • 周波数特性が出来るだけフラットになっている事。
  • ひずみ率が出来るだけ少ない事。
  • クロストークが出来るだけ少ない事。
  • Phonoの入力に少々大きな信号が入っても、クリップしない事。

これらの特性が全部優れていれば間違いなく良い音が期待できます。オーディオ雑誌等によく厚みのある音、さわやかな音、あるいは、丸みのある音等、全くつかまえどころのない表現を使って、評論家の諸先生が書いておられますが、もし上に述べた点に全部合格点をつけられるプリアンプがあったとすれば、厚みも丸みもまったく関係なく、プログラムソース通りの音が出てくるはずです。従って、プログラムソースが同じである限り、どのアンプもほとんど同じような音質が出て来るはずです。カートリッジまでを含めたプログラムソースが、満足すべきものであれば、プリアンプに上記の特性の非常に優れたものを使っている限り、装置から出てくる音はメインアンプと、スピーカと、リスニングルームで決まってくるわけです。リスニングルームやスピーカは千差万別で、それこそ計器で正確に計ることは不可能ですが、メインアンプはもちろん、プリアンプも設計、製作が合理的でありさえすれば、かなり良いものが出来るはずです。もちろん、残念ながらこうなると、市販品は非常に高価なものになってしまうのです。

メインアンプの場合、OTLは別として、トランスの善し悪しと、出力管の品質で音が大きく左右されますので、自作と言っても、これらに金をかけなければ、いろいろ回路を工夫してみても、あまり良い結果はのぞめません。

その点、プリアンプには、トランスのように何千円も、何万円もするような部品は一つもありません。だから自作にかぎるのです。上記の各特性を満足すべきものに、仕上げるのが大変なのです。

【S/Nが良いこと】
まずS/Nですが、本機に関する限り、後に述べる配線の説明通り行えば絶対に、といって良いほどハムは出ないと思います(他の5人の方々が作られたものも、全部ハムはゼロに等しいほど出ませんでした)。もちろん、ハムをゼロにするには、かなりの経験を要しますが、普段聞いている時のボリュームの状態で、ゼロに仕上げるのは、そんなにむづかしいものではありません。問題はその他の雑音ということになりますが、その一つ一つについては、配線の項にゆずるとして、ここでは、プリアンプはあくまで高S/Nでなければならないことを、頭に入れておきたいと思います。楽章の切れ目で、ノイズが出てくるのは嫌なものですし、ノイズがあれば、間違いなくひずみがあると思って、差支えありません。

【イコライザ・カーブ】
イコライザカーブがくるっていると、高域であばれたり低音がやせたり、とにかく感心しません。しかし、回路の選択に誤りがなく、抵抗、コンデンサに正しいものを使っているかぎり、私は今までにトラブルを起こしたことはありません。トライ・アンド・エラーで後で苦労するよりも少し位割高についても、部品は精密級を使った方が結局安上がりだということも、付け加えておきましょう。時間の無駄であるばかりか、不愉快なものですから。

【周波数特性はフラット】
周波数特性は、回路が複雑なものほど、フラットに保ちにくいものです。仮に、増幅率の素直な真空管1本だけで増幅したとしたら、もちろん、プリアンプとしての値打ちは、ないかも知れませんが、文句無しに、フラットなものができることを見てもおわかりだと思います。このことから、回路を決める時には、できるだけ複雑なものは避けたいものです。

【ひずみがないこと】
ラウドネス・コントロール、バイパス・フィルタ、ローパス・フィルタ、その他、まったく無用の長物的なものは、絶対にうまくありません。これらの付属回路は、純粋でひずみのない音とは、まったく正反対のものであることは、説明する必要もないことだと思います。トーン・・コントロールも周波数特性も、ひずめるためのものですから、あまり感心しません。

ひずみの発生原因については、いろいろ難しい理論が沢山あって、とてもここでは書ききれませんし、私もそのすべてについて、完全に理解しているわけでもありませんので、くどくどとは書きませんが、私の経験では、このひずみがプリアンプの大敵だということが身にしみています。プリアンプだけでなしに、メインアンプのひずみに気が付かないで、カートリッジをあれこれ取り替えたり、スピーカの所為にしたりしている方々をよくみかけます。兎に角このひずみというものは、まことに厄介なものです。

【クロストークがない】
クロストーク、つまりチャンネル・セパレーションも、思ったより大きな問題点なのです。ただ右側の音が左へもれてくるといったような単純なことではありません。例えば、カートリッジにしても、品質の良いものは、クロストークが非常に少ないものです。ステレオであるかぎり、音が左右2つあるわけで、初期の頃には、ステレオであることをわざとはっきりさせるために、まったく別々の音が入っていて、音の動きを捕まえたり、ピンポンの玉が右へ行ったり、左へ行ったり。私がここで述べているクロストークとはそんなことではなく、ステレオの他チャンネルにもれてくる音は、小さい音であっても、ひどくひずんでいるものです。簡単に実験ができますから、一度聴いてごらんになると、他チャンネルからもれてくる音が、どんなにきたなく、ひずんでいるかが、わかると思います。

【入力オーバーの場合】
最後に列記した入力オーバーによるひずみについてですが、折にふれて市販アンプについて調べてみたら、なかに30mV程度の入力信号をPhono端子に入れただけで、サインウェーブがクリップしてしまうものが、思ったより多いのに驚きました。この傾向はソリッドステートアンプに特に大きいようです。カートリッジが一般に5mVてあることから、100mVもあればかなり余裕がある、ということなのかも知れませんが、ご承知のようにRIAAのイコライザで、高域を18dbも減衰させ、始めてフラットな音質になることからみて、計算すればおわかりのようにイコライズ前の、初段管への入力は想像以上に大きいわけです。高音でビリついた音をよく耳にしますが、大抵の場合カートリッジが悪いと決めてかかるようです。なるほど、良いカートリッジに取り替えると、かなりましになります。しかし、クリップによるひずみが打消されたわけではないのです。ハイファイ音のなかで、一番耳につく嫌な音は、この点にあると思います。弦の音がにごるとか、きたないといった場合には、まずそのプリアンプの初段に200mV位入れてみて、オシロスコープでサインウェーブをみればすぐにわかります。200mV入れなくても、先ほど書いたように30mV以下でクリップしてしまうものが、市販のアンプのなかにあまりにも多いのには驚きます。石のアンプはどうしても、音が固いなどよく申します。これでは軟い音が出るはずがありません。

以上、プリアンプに関する重要な問題点は、おわかりになったと思います。それでは、これらの点を考え合わせながら本機の回路について考えてみたいと思います。