2021
03.08

音を求めるオーディオ・リスナーのためのステレオ・プリアンプの製作 回路編の2

音らかす

回路と部品について

第1図に本機の回路図を載せてあります。両チャンネルとも全く同じですので、Channel 1のみを示しました。ファンクションスイッチ、モニタ・スイッチ、メインボリューム、トーンコントロール・バイパススイッチ、トレブル、バス、バランス、モードスイッチは、それぞれ両チャンネル連動になっておりますが、回路図に両チャンネルを並べて点線でつなぎますと、返って煩雑になりますので、わざと省略しましたが、本誌の読者の方々には、その必要はないと思います。

第1図

回路図

実は、前にも少しふれましたように、本機の原型になったラジオ技術の記事をご覧になって、“是非、私も作りたい”ということで、私がお手伝いしてお作りになった方々が5人おられまして、そのなかにハンダゴテなど持つのは始めてだという方が2人おられました。いろいろご質問を受けた折に、こんなことは、やはり記事に示しておいた方が、良いのかも知れないと感じましたことにも、ふれて行きますので、蛇足だと思われるような説明があるかも知れません。

ラジオ技術の1970年8月号をお持ちの方は両方合わせてお読み戴いた方が、組立ての時に何かと都合が良いと思います。お気付きのように2、3改良してあります。ですから、何故、それらの点を改良したかと言ったことをよく理解して戴くと、製作上のヒントになると思われるからです。

【入力回路】
入力ピンは4つにしました。ほとんどのプリアンプには、Phono端子が2つ以上あるようですが、私はターンテーブルに、2本以上のトーンアームをつけることには、あまり賛成出来ません。本機はマニアの下らぬ実験のためではなく、あくまで音楽を素晴らしいハイファイ音で聴くためのものですので、無駄な付属品は一切省いてあります。商品ではありませんので、カタログにあれこれ書く必要もないからです。

Aux端子は余分かも知れませんが、カセットテープデッキ等をつなぐのに必要かも知れませんので、4接点のスイッチを付けました。

ラジオ技術に詳しく述べてありますので、本稿では省略しますが、テープモニタ・スイッチを合理的にするためにファンクション・スイッチS-1は3段6回路4接点のスイッチをアルプス電機から入手しました。3段6回路5接点はY-306の商品番号で、標準品で入手出来ますので、別注が面倒で、入力端子が5つ欲しい思われる方は、それを使ってもよいでしょう。

ここで、ちょっと話が横道にそれますが、ラジオ技術の記事について一番質問の多かったのが、部品の入手経路でしたので、第1表に本機の使用部品とその入手先を載せておきます。地方の方々には、それぞれにお問い合わせ下さい。全部で2万円くらいかかりますが、自動車にも純正部品が良いように、ジャンク箱から引っぱり出した、使い古しのものは、絶対に使わないで下さい。悪い材料から最高級のアンプを作るのは、名人芸かも知れませんが、合理的ではありません。

部品表

【イコライザ・ユニット】
イコライザ・ユニットは、マッキントッシュC-22の、RIAAの部分をそっくりいただきました。下手に回路をひねくるよりはるかにましですし、世界一のプリアンプですから、まねしないのがうそです。商品として販売するのではありませんので、法律的にも一向差支えありません。さすがに世界一の製品だけあって、N.F. 型イコライザ用の部品にリケーム(リケノーム?)RM-1の精密級を使用したところ、第2表に示したように、本機も前のアンプと同様に、RIAAにぴったりです。これは当然のことで、あまり驚きませんが、Phono端子から、サインウェーブで、クリップテストをしてみましたら、前回のが260mV、本機が280mVまで実に素直に波形を描いてくれます。P-K負帰還で、ごくありきたりの回路なのですが、CR構成が一寸見慣れないのが目につきます。

イコライザ特性

部品にしても、全部標準の値ものものばかりで、入手には2回ともまたく(まったく?)不自由はありませんでした。部品表に2.2kΩ(R-2)、1.8kΩ(R-3)も精密級を指定したのは、左右両チャンネルのN.F.量を正確にそろえるためですので是非守って下さい。初段と2段目のカップリング・コンデンサは0.01μFより大きなものを入れますと、イコライザを構成している、かなり深いN.F.のために、ずっと低域で周波数特性が持ち上がることがありますから、注意して下さい。

初段のプレート電圧は150Vを目標にします。回路図に147Vとありますが、測定した時にエアコンディショナーがまわっていたためか、電源のACが97Vしかなかったためで、100Vにもどれば150Vあります。よくノイズ減らすために、初段管のプレート電圧を100V以下にする人がありますが、こんなことをすると、前に述べたクリップのもとです。本機では、兎に角、ハムもノイズもまったくといって良いほどに出て来ませんので、そんな余計な配慮をせずに、回路図のような電圧分布を守って下さい。しかしB+用の負荷抵抗、及びプレート抵抗は全部リケノームの、RM-2型、つまり2W級を使う必要があります。以前は東洋電具でGS級と呼ばれるノイズレス球が入手出来たのですが、残念ながらなくなりました。このあたりから出る抵抗ノイズは、馬鹿になりませんので、間違ってもジャンク箱に入っているP型やL型の抵抗は使わない方がよろしい。ポータブルラジオを作るのではないのですから。

V3のグリッド・バイアスは、3Vが望ましいと思います。マッキントッシュC-22では、印刷物によって少し違っているようですが、2〜3Vと示してあります。このバイアス電圧は、フィードバック抵抗330kΩ(R8)、カソード抵抗330kΩ(R9)で決まってきますので、できればこの2つの部品にも精密級を使いたいものです。この球のプレート電圧は、高めの方が良いのですが、R29とR30との中点からとるのが適当でしょう。

私も手があいたときに、もう少し電圧の高いところから取り出して、測定してみようと思います。電流がプレートからカソードに流れ、カソードホロワで取り出してあるので、この球が整流管の働きをする上に、B電源回路に十分すぎるほど、フィルタ・コンデンサが入れてあるために、ハムの心配はまずありません。0.47μF(C-9)は直流もれの少ない、安定したMPコンデンサを使いたかったのですが、手元になかったのでオイルチューブラーを使いました。幸い電流は漏れて来ませんでした。秋葉原に近い人は探すとよいでしょう。200V級で十分です。

【モニタ・スイッチとメインボリューム】
モニタ・スイッチ(S-2)については、ラジオ技術に詳しく述べてありますので省きます。

メインボリューム(VR4)等は、しっかりしたものを使用しなければいけません。RV30YGがなければ、RV24YGでもかまいませんが、必ず密閉型を使って下さい。トーンコントロールをS3でバイパスにすると、第2図のようにVR4とVR6が連続してしまい、しかも両方共2次側のインピーダンスがつまみを動かすたびに変わり、かなり下がりますので、後でトラブルを起こして、ボリュームを取り替える位なら始めから良いものを使うべきです。5球スーパーならかまいませんが、何度もいうように最高級のプリアンプを作るのですから、このあたりで少々のことをケチらない方が賢明です。何万円の差なら考えなければなりませんが数百円のことですから。そのかわり、後で述べるように、24万円もするプリアンプと比べて、耳で聴き分けられないほど、音質のすぐれたものが、ほとんどの方にできます。

ここで問題が一つあります。たいていの製作記事には、ボリュームの後に直流止めのカップリング・コンデンサがシリーズに入り、1MΩ位のグリッドリークが入れてありますが、本機にはそれがありません。少しでも無駄なものは、信号回路からはずすためです。できるだけひずみを少なくするためには、仕方のないことなのです。だからマッキントッシュC-22も、マランツ#7も、このような回路になっているのです。V4の12AU7からグリッド・リーク電圧が出ることは、当然考えられます。そこでガリオーム。私の友人の持っているマランツ#7もボリュームとバランスから、少しノイズがでるようです。スイッチを入れてから2時間位たつと、出なくなるということですが。

 

しかも、このコンデンサがないためのもう一つの問題は先に少しふれたように、2次側のインピーダンスが、つまみを動かすたびに変わることです。バランス(VR6)はB型である上に、常にほぼ中点にあるために125kΩ前後ですが、ボリューム(VR4)はAカーブのものですから、つまみを中点までまわしても、やっと75kΩ位にしかなりません。このために、ボリュームとバランスの前後に容量の大きいシールド線を使うと、びっくりする位大きく高域が落ちます。前回の分はこの点を注意して、いちいち測定しながら配線したのですが、本機は思い切って全部普通の単線にしました。

シールド線をやめることにより、心配していたモニタ・スイッチから音が漏れたり、クロストークが悪くなったりはしなかったようです。インピーダンスが低いところだからかもしれません。測定器を持っておられる方は、出来上がってから試してみればわかりますが、シールド線を使わなくても、VR4とVR6を全開の時と、半分の位置までまわした時にでは、10,000Hzで1〜1.5dB位高域が減衰し、50,000Hzではもっと大きく下がることがありますから、配線についての項で詳しく述べますが、このあたりの配線は十分注意し、いちいち測定しながら行うことをお勧めします。本機はその点に十分気を配った所為か、後で述べるように、その周波数特性は、50,000Hzで2.45dB、20,000Hzで0.7dBしか落ちていません。私の経験では、このあたりが妥協点で、それより欲張ってハイを落とさないようにすれば、逆に妙なところにわずかですが、ピークが出来ることがわかりました。これでは音質上よくありません。テープデッキが不要の方で、このモニタ・スイッチがなくても良いのなら、この辺の配線は大いに楽になるでしょう。