2021
03.10

音を求めるオーディオ・リスナーのためのステレオ・プリアンプの製作 コラム=完

音らかす

ハイファイと私のアンプ製作

私がハイファイに興味を持ち、技術誌を読み始めてから16年。その間に、いったい何台のプリアンプ製作記事が発表されたことか、特に勘定したことはありませんが、それこそ、ゴマンとあったことだけは間違いありません。もちろん、それぞれに特徴があり、参考になる点が多く、機会があるたびに読ませていただいております。

ところが、これらの記事のほとんどが、“アンプ製作”マニアとでも呼ばれる方々のために書かれたもので、作ること、そのことに重点がおかれているように感じたのは、おすらく私だけではないと思います。

妙な言い方かも知れませんが、出来ばえが少々悪くてもあるいは、製作機に実用性がなかろうと、とにかく、物を作るということは面白いものであるばかりでなく、何かしら意味のあることは、間違いありません。幼稚園の子供の粘土細工が良い例だと思います。出来上がったものが、応接室の飾り物になるような立派なものは、できようはずがありません。

作っているときには、子供たちは一生懸命だし、なかには親達がムキになって、手伝ったりしているのは、私達のまわりに良くみられる風景です。やっとのことで、でき上り、あちらこちらに欠点があっても、やはり、物を作ることは楽しいものです。やがては、ゴミ箱に入れられることが多いのですが……

こんなことを書くと、文句が出るかも知れません。しかし、私の知る範囲では、製作記事から作ったものに、これに似たようなものが、ずいぶんあります。それは、それでも良いのかも知れません。“作ること”そのものが楽しいからです。皆さんも経験されたと思いますが、プラモデルは非常にこわれ易く、ガラスのケースなどに入れておかないと、ちょっと何かが当たると、すぐにこわれてしまいます。どうせ、こわれるとわかっていても、何時の日か、また新しいものを買ってきて、コタツの上で、セメダインに手を汚しながら、作っています。これも、割合安く楽しめるからでしょう。

だから、『10K円でお釣りが来る!』と言った、アンプ製作記事の見出しが、案外受けるのかも知れません。しかし、10K円という言葉が、私はあまり好きではありません。日本語はもっと大切にしたいものです。日本銀行巻(券?)には“壱万円”と書いてあります。

ですから、私のこの記事は、そういったことを目的にしておられる方々には、読んでもらいたくないと思います。

私はオーディオ評論家でも、アンプ屋でもありません。おしまいまで、読んで戴けばおわかりになると思いますがこの記事の目的は、音楽を聴くことが、非常に好きな私がいままで、16年間ハイファイを楽しんでいる途中に、ぶつかったいろいろなトラブルから抜け切れた程度のアンプができましたので、私と同じようにいろいろ苦労をして、こられた方々のお役に、少しでも立てればと思い、これから紹介する記事をまとめてみました。

プリアンプ製作の意義はどこにあるのでしょうか。それは、手頃で、しかも、信頼のおけるプリアンプが、あまり市販されていないからです。音の良い、つまり特性に信頼のおけるプリアンプとなると、国産でも10万円位。しかもこれなら安心というものは、残念ながら今のところ、見当たらないようです。だから、どうしてもとおっしゃる方は、20万円以上のマランツ#7か、マッキントッシュC-22ということになるのかも知れません。私には、とでもバカバカしくて、そんな値段について、考える気になりません。結局、作る以外に手がないということになります。

実は、ラジオ技術の70年8月号に、この記事のもとになった製作記事を発表しました(なかには、お読みなった方があるかもしれません)。そのときに、“私も是非作りたい”という方々が5人もいましたので、私自身、2・3改良したいところがあると考えていたおりから、一緒にもう一台作ることになったわけです。後で述べますように、このニューモデルは、大分グレードアップすることができたようです。グレードアップと申しましても、基本的には、前回と同じ設計ですから、回路について、詳しく知りたい方は、ラジオ技術誌と合わせて読んで戴ければ、参考になると思います。