2021
03.12

音を求めるオーディオ・リスナーのためのステレオ・プリアンプの製作 製作編 1

音らかす

先月号に、本機の回路構成、その部品について、くわしく述べました。いよいよ製作に入ります。本機では、主要なCR類はプリント基板にまとめ、真空管の配置、VR類の配線、電源部の配線と、順序をおって行きます。しかもシャシ構造に工夫をしましたので、せまい箇所でのハンダ付け作業もなく、きれいに配線を進めることが可能です。

何度も申し上げるように、“最高級のプリアンプを作るのだ”ということを、よく頭に入れて、丁寧に作りましょう。プリアンプが一般に、材料費に比べて、その商品価格が非常に割高であるのをみても、プリアンプがメインアンプに比べて、いかに手のこんだものであるかが、お判りの事と思います。なお、今回はシャシ、プリント基板、真空管の配線まで、次号でスイッチ、電源、調整について述べます。(図面番号は前回の続きです)

それでは、これから製作に入るわけですが、その前に、一つつけ加えて起きたいことがあります。前回の設計編でメインアンプの入口にあるコンデンサの働きについて述べましたが、それと同時に、メインアンプの入口にボリュームを付けるのは、あまり感心しません。手近にあった、ラックスのKMQ7、KMQ8、およびKMQ6の3機種について、テストしてみたところ、ボリュームを少ししぼっただけで、かなり高域が減衰し、トランペットやフルートが、つまったような音になってしまいます。どうして、こんな回路を採用してあるのか、判断に苦しみます。取りはずして、固定抵抗と取り替えるのが、一番手っとり早いのですが、つまみがせっかくあるのに、穴をあけたままでおくのも、どうかと思いますので、第6図のように配線し直すのが、良いでしょう。ダイナキットでは、固定抵抗を使っています。では、シャシ製作を始めましょう。

【シャシの製作】
第7図が、本機のシャシの組み立て図です。いささか複雑ですが、

①出来るだけS/Nを良くする事
②チャンネル・セパレーションを大きくとる事
③作り方が非常にやさしい事
④ひずみを出来るだけ少なくする事
⑤点検が容易である事

のすべての条件をよくするために、こんな構造を考えました。

シャシの組立図

いろいろ手順はあると思いますが、私が作りました方法を参考までに述べてみます。一番最初にB板を作ります。全部で6枚ありますので、あらかじめ、アルミ板を第8図の寸法にケガキしておきます。アルミ板は電気屋にあるものは、寸法が中途半端ですので、銅、真鍮、ステンレス等の非鉄金属専門店に行けば、“小定尺”と呼ばれる原反物が、非常に安価に入手できます。1.2m/m厚が適当でしょう。

鉄シャシは、トランスのフラックスを伝え易いので、ハムの原因になりかねません。かね尺又はスコヤを使って正しく直角に、N.T.カッター等の商品名で市販されている(切れなくなると刃を折っていくようになっている)ナイフを使って、何度もケガキをする要領で。まげしろのところに切り目を入れます(第9図)。全体の厚みの1/3位切り込むのが適当です。全部に切り目が入り、四隅を切り取ったら、図のように“L“型鋼材と、Cクランプを使って、折り目のところをはさみ、作業台に固定して、手前を折りまげるのですが、このとき一度に90度にまげると、ひっかかりますから、45度くらいづつまげていって、最後に一辺づつ90度にまげていけば、6枚位実に簡単にいくと思います。切り取る箇所は押し下げたり、持ち上げたりを2〜3度繰り返せば、ポキリと折れますから注意のほどを。

アルミ板の曲げ方

B板が6枚揃ったら、それに合せてA板を作ります。これも、ヤスリで切り口をきれいにそろえると、後で塗装が楽です。C板も同様に作り、図の位置にピタリとはめます。これらを3×6ミリのボルトとナットで、組み上げれば出来上ります。

D板も、E板も、この骨組みに合せて、同様に折り曲げてから、所定の位置に穴をあけます。寸法は、第10図を参考にして下さい。ここでA—B—C—D—Eを仮に組立ててから、それにF板を2枚切り出します。E板とD板を、外側に折まげるかわりに、内側にまげるのが一般的ですが、タップネジを使うと、アルミ板ですので、すぐにネジ穴が馬鹿になるので、ボルトとナットで上蓋と底蓋をとりつける為です。こうすれば、E板とD板の配線のとき折目が邪魔にならないので、仕事がたいへん楽にいきますので、一挙両得です。

シャシA〜Cの寸法

パネル板D〜Eの寸法

しかも、D板には、10個の半固定抵抗がつきますので、どうせ、化粧パネルは、D板にぴったりとつけられませんので、このような構造にしたわけです。だから、木製キャビネットに入れるためには、パネルを、キャビネットにとりつけるような構造にし、シャシは後から差し入れるようにしなければなりません。写真はシャシをキャビネットに入れたまま、パネルとつまみだけを外したところです。

どうしても、パネルをシャシに密着したい方は、D板を外側にまげないで、上下にアルミニウム板1枚づつ入るすき間をあけて内側にまげますと、F板つまり上下の蓋を後ろからすべり込ませて、シャシの後部だけをボルトとナットでとめるようにします。こうすると、D板の前面が平らになりますので、パネルを、ボリューム等のナットで、シャシに密着させる事が出来ます。そのかわり、D板にとりつけた半固定抵抗は、シャシの内部にとりつけなければなりません。この場合は、馬蹄形の半固定抵抗の方がとりつけ易いと思います。

D板にとりつける、スイッチ類とボリューム等のとりつけ用の穴は、第10図の寸法に基づいて下さい。A板の手前の切り込みは2重ボリューム及びロータリースイッチが入るためで、向こう側は真空管のソケットまわりの配線のためのスペースです。向こう側の右側にある60m/mの切り込みは、電源用の抵抗類が入ります。

全部出来上りましたら、塗装をかけます。これだけのプリアンプです。かなり長い間楽しめるものですので、塗装は是非行って下さい。本来は焼付けが良いのですが家庭では無理ですので、塗装屋に頼むか、自分で行うときには、ペーパーで下地を十分ならして、エアゾールのカラースプレーをかけます。塗装するときには、A—B—Cを一組にし、E、D及びFは別々に色をかけます。配線の項でくわしく述べるように、別々に配線していき、後で組立てる事になるからです。

なお、後で組立てた折に、各部が全部電気的につながっていなければいけません。そのためには、第7図をよく見て、お互いにボルト締めにより、くっつく部分に9m/mのラッカーテープを当ててから塗って下さい。後でナイフ等で、その部分の塗装をはがすのはたいへんですから。