2021
03.31

6CA7PPパワーアンプの製作 改良編 1

音らかす

入手可能なかぎりの最高級パーツを使用することによって、真実の音を求めたパワーアンプの製作。完全な実用機として、世界の名器に匹敵できる性能を、さらにはっきりさせることができた。音楽を聞くことを楽しみにしているオーディオリスナー、そのために、苦労している人に参考になると思う(なお、 3~4月号をあわせて、お読み下さい)。

我ながら、ときどき感心する位、凝り性である。前回(本誌3月、4月号)に発表した同じような構成のパワーアンプが完成したのが、 昨年の12月1日。あれからもう半年。ほとんど毎日数時間づつ、好きなクラシック音楽を聴いているうちに、その使い勝手、というか、二、三具合の悪い点が出て来たので、技術的に、あるいは実用的な考え方から、改良してみたいと思い始めたら、もうじっとしていられなくなつて、とうとう、もう一組作り上げる事になってしまいました。

前回の記事にもとづいて、もうすでに完成された方々も、この記事を参考にして、ドライバ段だけを、球ごとそっくり本機の回路のように改装される事をお勧めします。後に述べますように更に歯切れの良い音になります。本機は、第1図でおわかりのように、 シャシも変っていますので、使い勝手の方まで改良するためには、もう一度作り変えなければなりませんが、前回のアンプをドライバ段だけ取り換える事は、比較的簡単で、音質は本機と全く同等のものになります。

 

改良しなければならなかった理由

  • まず、一番先に気になった点は、出力管のすぐ隣にフィルタ・コンデンサが立っていた事です。第2図に示しましたように、温度計を使って計ってみましたところ、20°Cの室温で、コンデンサの表面に取り付けた温度計が30°Cまでは上がらなかった事からみて、真夏でも40°C位にしか上りませんので、実用上一向差し支えないのですが、設計のまずさには変わりありません。
  • 次に不愉快だったのはシャシです。4月号にも述べましたように、アルミニウムに3mmボルト用のタップが切ってあるのが、数本バカ穴になってしまって、止まらないのが出来た事。スポット熔接部が、2ヶ所もはずれてしまったのも、誠に不愉快です。その上、シャシ全体が、裏ぶたに比べて、ひよわいせいか、全体にそりが出て来て、台の上に置いた時に脚が1本浮いてしまって、ガタガタするのも、あまりいただけません。
  • マッキントッシュの真似をしたシャシの構造上、入カピン、出カターミナルが、前面に出て来て、プリアンプとつないだり、スピーカ・コードを取り付けるのに、これ等の線がゴチャゴチャして、最悪の折には、パワートランスの側をシールド線が通るように配線した場合にわずかながら、ハムが出た事があった事。
  • ドライバに12AT 7という高周波増幅管を使っていた上に、この球のゲインが大き過ぎ、初段管を三結にしていたにもかかわらず、感度が大き過ぎた事。5dBものNFBを掛けていたのに、ゲインが6CA7三結でも52倍(34dB)もあった事。
  • 感度が悪いものよりは、ましだという考え方もありますが、過ぎたるは、及ばざるが如しで、その上、昨年12月号から連載しましたプリアンプが、マッキントッシュC-22と同じイコライザ段を持っていたために、同社のパワーアンプが、かなり感度が悪いのをカバーするために、大きなゲインを稼げるようになっていますので、プリアンプのバッファー段のNFBを、ギリギリー杯まで深くしなければ、ボリュームを少しまわしただけで、かなり音が大きくなるという問題点。
  • 14.5dBというNFBは少し深過ぎたようです。前回の記事に、ダンピング・ファクタは10以上が望ましいと書きましたが、その後いろいろ実験してみて、どうもその説には何かしら問題があるように思えて来ました。元来NFBとは、内部アンプの特性の不完全さを補うためのもので、言って見れば、女の子のお化粧みたいなものかも知れません。水商売の女ならばともかく、厚化粧はあまり感心しません。内部アンプの特性が、かなり良ければ、NFBを深くかけると、かえって周波数帯域が広がりすぎて、感心しないものです。
  • 最後に、三結、ウルトラリニアの切り換えスイッチについてですが、前回のアンプの設計の折に、ラックスさんに相談したら、入力がゼロの時にしか、切り換えはまずいと言う事でした。その後、いろいろなスピーカを使って実験してみましたら、スイッチが切り換わる時に、接点が宙に浮かないものを使っている限り、信号が出ている時に切り換えても一向差し支えない事がわかりましたので、もっとまわし易い位置に移し換える事にしました。しかし、電圧、電流共に十分余裕のあるものを使わなければ、このスイッチがすぐに駄目になってしまいます。

以上が本改良型を製作する事になった理由です。

回路について

第3図がその回路図です。比べてみればわかるように、根本的には前回のものと変わりません。違っている点は、ドライバ段が12AU7になった事からそのカソード抵抗が12kΩ(2W)、プレート抵抗が18kΩ(1W)、20kΩ(1W)に変ったため、ACバランス用半固定抵抗をRV24YNのB5kΩに変えなければプリント基板用のボリュームでは、後日トラブルが出るといいます。

3図

ドライバ段の高域補正用30pFのコンデンサは不用になりましたので、使いませんでした。NFループ内の補正は、少なければ、少い程良いのは当然です。ドライパを取り換える事によって、その球のグリッド・バイアスはー6Vにもって行きました。

回路図に記入してあを(る?)電圧値は、各ポイントとアース間の電流値です。バルボルをお持ちでなイ方々の便宜を計って、サンワのテスタN201を使って計りました。後で調べて見たら、Heathkit IM-25のソリッド・ステート・ボルトトメータ(入カインピーダンス11MΩ)に比べて、5~7%位低くなっています。球のバラツキもある事ですので、回路図の値の±10%位の変動は、全然気にしなくても良いと思います。12AU 7のプレートは、下側の方が低くなっていますが、これは球により大分変わりますので、念のため。

その他は、すべて前回のものと同じですが、NFB量を浅くするために(10.5dB/1oooHz)、B30kΩのNF抵抗値は、前回の16kΩに比べて8kΩと小さくなっています。これで、ドライパ段のプレート特性は、第4図に示したようになっています。第5図がそのブロック回路図です。記入してある電圧値は、もちろんNFBをかけた時の交流信号電圧です。ドライバ段が、12AU7で電圧値にして5倍もあるのは、ちよっと意外でした。

第4図

その他の回路の説明は、本誌3~4月号の記事と、全く同じですので、バックナンパーを読んで戴ければ、おわかりになると思いました。

従って、本項では、本機の増幅作用について考えてみます。

ブロックダイアグラムにあるように、そのNFB量は10.5dBで、 B30kΩ(VR5)を約7.8kΩにセットする事により得られます。このNFB量はそう簡単に決められるものではないので、調整の頃で詳細に述べましょう。今度は25倍(電圧比)のゲインでフルパワー動作の入力信号が0.44V。丁度良いところにおさまりました。ドライバ段が12AT7の代りに12AU7を入れましたので、プレート電圧約150V(≒263V−106V)の時、グリッドバイアスを−6V(=100V−106V)にしますと、その球のプレート電流が約4mA流れます。従って、両方のプレート電流が1本のカソード抵抗(12kΩ、R10)に流れ込みますので、その量は8mA。その無信号時の電力(W)はI2Rの公式により、0.77Wになりますので、この抵抗は2Wを使わないと焼けてしまいます。同様にR8、R9は1Wの抵抗を使った方が無難です。

後は、前回同様、全部1/2w(RM-1/2)のものでよろしい。