2021
04.04

6CA7PPパワーアンプの製作 回答編 1

音らかす

前回では70年12月号から71年2月号まで連載しました。プリアンプについて述べました。そこで、今回はパワーアンプを中心として、述べることにいたしましょう。

パワーアンプ(3〜4月号および9月号)

前回の分(Chriskit model 7)についていろいろ御意見なり、お尋ねがあった事も含めて、9月号にその改良型(Chiskit model 8)を作りましたので、本項ではその事について、再度述べる必要はありませんが、説明を要する点のみを取り上げて述べる事にします。今までに何人もの方々のお手伝いをして見て、確信を得た事ですが、回路図、実体図の通りに組み立てて行き、同じ部品を使っている限り、測定器による調整は全く不要です。

出力段のプレート電流は、メータに現われるわけですので、作りっばなしOK。

16kΩ(R5)150pF(C2)1.5pF(C4C5)B30kΩ(VR5)(8kΩにセットする)100pF(C 8)の数値は、すでに10台以上立ち合った分では、全く同じ数値のもので、 ドンピシャリだっ(た)事から、オシロスコープなんか使わなくても性能、安定度は全部同じものが出来上がります。メーカー製のアンプでは、一台一台全部の点で測定していない事は、皆様も御存じの事と思います。

Heathkitのレジスターディケードボックス(IN-17・星電パーツで発売中)のようなものを使って、2.7kΩ(R11)の値を小さくして行き、12AU7のプレート電圧をテスターで計って300V以上にすると、理論上の歪率は少くなります。私も試して見ましたが、予想通り、IM歪率は少くなりましたが、耳で聴いたかぎりでは、全く音は変わらなかったようです。

全く嬉しい事に、今まで随分大勢の方々から非常に良いプリアンプとメインアンプが出来たというお便りをいただきました。本来ならばそのお名前をこの項に発表させていただいて、共に喜びたいのですが、公けのための雑誌に私事を述べるのもどうかと思いますので、割愛しますが、大阪市大淀区の田ノ上博様など、プリアンプの時も、パワーアンプの時にも、出来上がって、知人の方々の御自慢の装置と比べて抜群に良かったと、わざわざ私の事務所に尋ねて来られまして、その時にいただいたレコード2枚は、何となく鳴らすのが勿体無い気がして、大切にしまってあります。紙面を借りてお礼を申し上げます。この方も、今までにほとんどハンダごてを持った事がないそうです。

なお、 1月号が品切れになり、入手が出来なくなりました。今までに数人の方々に依頼されまして、手元にある分からコピーを取りました。不自由をしておられる方は、ゼロックスで取ったトレーシングネガがありますので、比較的安価にリコピーで複写出来ます。送料共¥40でお送り出来ます。郵便切手代用でもかまいません。お役に立てれば幸いです。

IM歪率について

前回のアンプも、本機も、共に設計、製作の折には、残念ながら、歪率計なしに行ったわけです。前にも述べましたように、アンプメーカーや、音響研究所ならともかく私共オーディオリスナーが何10万円もする歪率計を買い込むのは全く不合理で、そんな金は、リスニングルームの改造やスピーカなどのオーディオ機器に投資すべきです。

9図

幸いな事に、Heathkitに値頃なIM歪率計を見つけ、H.D.(Harmonic Distortion)はこの次という事にして、最近入手して組み立てましたので、 IM歪率を測定して見ました。第1表及び第9図がその結果です。プリアンプの方は、ワット数で現われませんのでグラフには出来ませんでした。トーンコントロールを入れて、二三点測定して見たら、 3倍以上歪率が大きく出ます。中点にもって行ったのですが、やはり、トーンコントロールは音質上まずいのでしょう。

第9図には、三結とU.L.の両方を示して置きました。使用周波数は60Hzと6,000 Hzを1:4の割合で混合したものです。組み上げた時から気になっていたドライバ段のプレート電圧の不足が、測定の結果明らかに現われて来ました。やはり、R11の数値をもう少し小さくして、12AU7のプレート電圧を300V以上にすべきです。

図にある2つの曲線のうち、100mW以下は、 U.L.の方が歪率が少ないのがわかります。本来ならば三結の方がディストリビューテッドロード(U.L.)より、その歪率が高いものなのですが、U.L.にすると6CA7の増幅率が30%程大きくなりますので、 3結の場合はそれだけ、ドライバ段の負担が大きくなり、歪率が増えた事になります。

一方6W以上では、U.L。の方が極端に歪率が増えています。これも本来なら、U.L.の方が出力は大きくなるのですが、 ドライバ段が、プレート電圧不足のために、ギリギリの動作をしていた事を物語っているのです。

歪率計がなかった時、オシロスコープでサインウェープを監視する方法でクリップ点を見つけ出し、そのところで実効出力(3結13W、U.L.20W)と決めてかかったわけで、やはり測定器なしでアンプを作るのは、物差しを使わないで物を測るようなものだと、つくづく感じました。

ここんところ本業の方が忙がしく、その上、編集室と約束した〆切りに間に合いませんでしたので、やり直した方のグラフは作っていませんが、 Heathkitの抵抗ボックスと、レジスタンスディケートを使って、プレート電圧を300 VにするためのR11の値を470Ωと取り換えて(第10図参照)、100mW時のIM歪率を測定して見ました。予想通り、3結の歪率を少くする事が出来ました。(0.04%—100mW)そのかわり、VR-1を少し動かして、6267のプレート電圧は100V以下に合わせなければならない事は当然です。その時に12A U7のグリッドバイアスも一緒に変わって来ますので、むやみにプレート電圧を上げるのも考えものです。この段は直結ですので、初段管のプレート電圧、ドラバー段ののグリッドバイアス、及びそのプレート電圧は相互関係を持っています。従って、このあたりの決定的数値を出すには相当経験をつまなければならないと思いますが、1カ月位の内に、H.D.歪率計が入手出来ますので、そちらの方も測定すると、また改良出来る点が見つかるかも知れませんので、その折にはまたお知らせします。

10図

もっともIM歪率0.04%というのは、Heathkit(IM―48)では測定の限度で、多少針がふれていますので、少々ひいき目な数字である事を白状しておきます。第一、0.06%と0.04%の差は、どんなにすばらしい耳でも聴き分ける事は不可能ですので、そう神経質になる必要はないと思います。

測定器とにらめっこしながら調整しない場合には、回路図の通りに作る方が無難です。メーカー製アンプを二三計って見ましたが、意外に歪率が大きかった事からやはりアンプは自作した方が良いと大いに意を強くしました。その上、家庭で鳴らす音は、150mW、その余裕を10倍みても、1.5Wですから、シネラマ刻場のアンプの設計製作とは自ずから、その要点は違うわけです。

当然の事ですが、この測定は、サブソニックフィルタを外してないました。フィルタを通して、低域をカッ卜するとその値は多少変わるかも知れません。