2021
04.08

オーディオリスナーのための高性能プリメインアンプ プリアンプ部回路編 1

音らかす

はじめてハンダごてを持つ人、 トランジスタをはじめて取扱う方のために、そして、真実の音創りを願うオーディオ・リスナーのためのソリッドステートアンプの製作

私が真剣にソリッドステーァンプについて考えるようになったのは、昨年の夏の事です。何しろ、一昨年の12月に発表しました管球式プリアンプの完成後、 6AC7のパワーアンプを手がけ、真夏にもめげず、 ヒアリングテストも兼ねて、一日も休まずにアンプに燈を入れていたわけですので、正直なところ暑さには少々閉口しました。私の友人で、OTLのマルチアンプ・システムの愛好者がおりますが、アンプに扇風機を当てていなければ過熱して仕末が悪い。そばで聴いている人間の方は、うちわ片手に汗びっしょり。とうとう真夏は音楽の方はお休みで、その間に囲碁の方が腕が上がったという話。どうも、オーディオファンもあまり楽ではないようです。

といって、 クーラーは健康的にもあまり感心しませんし、第一、S/N比がバッグンに悪くなりますので、上杉佳郎氏なども、本気で音楽を聴いている時などは、 クーラーをストップしておられたようです。

パワーアンプの記事に述べましたように、球からの熱については、かなり気を配ってはあるのですが、真空管はどうしてもヒータで暖めないと働きませんので、熱を出さないわけには参りません。ラジオ技術の昨年の5月号に発表しましたので、私の装置について御存じの方もあるかもしれませんが、プレーヤ・システムの下の足元に、モノラルパワーアンプを2台並べてありますので、お皿を取り換えたり、ひっくりかえす時に、夏には足元からストーブのような熱気を感じます。

といって、トランジスタの音は、 という先入感も手伝って、今まで手を出さずにいたわけです。石の音はどうも、という話も良く聞きます。事実、市販品のアンプをあれこれ機会ある毎に試してみるのですが、やはり音が堅くていただけません。市販品の99%がソリッドステート化された今日、誠に不思議な話ですが、何んとかならないものか、と考えているうちに、私なりの結論を得たようです。市販品のアンプは、石とか球とかに限らず、 どうも音がスッキリしないのが多いようです。切換スイッチでテストした場合には、そんなに大きな差は感じられないのですが、しばらく聴き込んでいると、どうも不満が残ります。

私は評論家ではありませんので、名柄は言いませんが、ある管球式のプリメインアンプ等は良い例で、ボリュームを少し上げると、何ともやかましい感じになり、 うるさくなってボリュームを下げると、ビアニシモになった時頼りない音になってしまうので、またボリュームを上て、喧しくなったらまた下げる、 といった具合で、オートマチック・ボリュームコントロールを取り付けたくなります。

このように、メーカー製のアンプが一般に割合高価な物でも、私等、自作出来る者にとっては、あまり戴けないのが多いようです。これにはいろいろ事情があると思いますが、その理論的な裏付けは長くなりますので、別の機会に譲りますが、手っ取り早く言えば、メーカー製のものは、カタログバリューに重点を置かなければならないからだろうと思います。要するに、売れなければ何んにもならないのですから、自動車と同じで、カッコイイ性能を並べて、時速100km以上で走れる場所はいくらもないのに、最高速度180km/hと書かなければ売れないわけです。そのために圧縮比を必要以上に大きくしてありますので、市内を低速運転で走る時の性能をある程度犠牲にしてあるのに例える事が出来ると思います。

その上、メーカーの場合、設計の上でいろいろ制約があるものです。例えば、マッキントッシュの回路が良いといっても、メーカーの場合、それを真似たり、一部の回路を利用する事が出来ないわけです。

その点、私共アマチュアは自由で、内外のアンプから良いと思われる回路を、何の制約もなしに取り入れるが出来るのですし、クロストークを悪くするような、 ローパス、ハイパスフィルタ等を省略するのも勝手で音質本位のものを作る事が出来ます。

となると、 ソリッドステートアンプにしても、そんなに金をかけなくても、JBLの600A位の音は、前回に発表しましたプリアンプ、パワーアンプの一連の記事で立証されたように、自作出来ない事はない筈です。

思い立ったらじっとしていられない性質から、その日(昨年の10月3日)から内外の資料を片っ端から調べ始めました。そして、まず、プリアンプの試作から始めたわけです。管球式と違って、 トランジスタの場合は、比較的試作は簡単でしたが、第1図のような具合にバラックプリント基板を作って5台、いろいろな回路を使ってカットアンドエラーを重ねながら、計器による測定はもちろんそれぞれ試聴テストもやってみました。本機のプロトタイプになった試作品は、十数人の方々の耳をお借りしてのヒアリングテスト。マッキントッシュC-22、 グラフィックコントローラーSG-520も含めて、内外の一流機との比較テストでも、まずまずのアンプが出来ましたので、発表する事にしたわけです。説明が全部終ったところで、 ヒアリングテストについての項で詳しく述べますが、結論は、 トランジスタでもある程度、真空管並の音は出せるという事です。切換スイッチのボタンを押して、5分の比較の内唯一のソリッドステートである本機を聴き当てた方には賞金を、 という事でファイナルテストもやったのですが、一人も3度続けて当たらなかった事からみても、私の考えは当っていたようです。

例によって前置きが随分長くなりました。このあたりで本論に入ります。

回路について

第2図がこのプリアンプ部の全回路です。Phono Inputアンプ(イコライザ段)、 トーンコントロールアンプ及び出力段がそれぞれ独立しているのは、

①配線が楽で、奇麗に出来る事。
②SN比を出来るだけ、 というより、これ以上のSN比は無理だろう、 という位のものにまで仕上げる事。
③後日、新しい回路理論、部品等が出て来たためにグレードアップするのに、アンプ全体を作り直さないでも部分的に行なえる。
④何かの理由でトラブルが出た時に、チェックが簡単な事。
⑤切換スイッチにより、 トーンコントロールをバイパスする事。
⑥アンプ全体をコンパクトに作り得る事。

等の理由によるものです。

第2図

①については、製作の頃で詳しく述べますが、表紙写真でおわかりのように、全く始めてハンダゴテを持った人にでも、割合やさしく出来るようにしたわけです。正直な話、私はあまり器用ではありません。従って、狭い所にハンダゴテの先をつっ込んで、 ビニール線をこがしながらの作業はあまり好きではありません。ついでにおことわりしますが、本機は、前回の管球式アンプと同様に、キットではありません。あくまでもアマチュアの方々が自作されるのに便利なように製作記事にしたわけで、星電パーツで部品セットにして提供しているのは、私のように地方にいるために、部品入手にいつも苦労をするのが身にしみている経験から、星電パーツの岡部氏や浜田氏の御協力を得ているわけです。もちろん、通販が80%以上になっているようですので、コンデンサの±2%を1本といった御注文に応じる事は、人手不足の折ですので、セットにしてあるわけです。キットの場合、それぞれ組立説明書があったり、極端な言い方をすれば、多少性能を犠牲にしても、サービスステーションに余分な手数がまわって来ない事が、商策上どうしてもついてまわります。幸いな事にクリスキットマークVのセットが予想外に売れために、星電パーツから御歳暮をいただいた程ですが、最初は私が無理を言い部品入手に苦労をしなければならないアマチュアのために取り次いでもらったわけです。

だから、この製作記事はあくまで製作記事で、何とか安い費用で、最高のものが出来ないかと考えておられるアマチュアの方々のお役に立てばと思って書いております。お陰で、前回のアンプでは数百人の方々からお礼のお便りを載きました。こんな事を言ったら編集室の方に叱られるかも知れませんが、比較的安い原稿料にも大いに満足して、書き甲斐みたいないものを感じながら書いております。

②SN比については、製作の項で述べますので、少しはしょります。

③新しいものの方が良いのは、何も畳と女房だけではないようです。真空管の方は、いささか成長期が止まったようですが、 トランジスタの方は正に日進月歩で今後もっともっと優れた回路や部品が生まれて来ます。しかも、そのピッチが大分上がって来たようです。4~5年前のソリッドステートアンプは、全く聴く気にならない事からみても、 これは火を見るより明らかな事です。その時になって、アンプごと作り変えるのは全く馬鹿げていますので、プリント基板のSS-1001を002、003とぃう具合に取り換えるだけで、いつも最新の技術と材料を使ったアンプが楽しめるようにしたわけです。

④トラブルがあった時のチェックは、各段ごとに行なえる方が良いに決っています。

⑤調整、測定め項で述べますが、 トーンコントロールなんてものは、使わなくてもよければ、ない方が良いものです。もう製造中止になったので書いても良いと思いますのが、マッキントッシュのC-22はトーンコントロールがバイパス出来ないようになっています。先日詳細に測定した時に驚いたのですが、Tone Flat の位置でも周波数特性カープは、大分うねっています。1000Hzの方形波がかなり歪んでいるのには少々がっかりしました。これは、国産品でかなり高価な管球式プリアンプに比べて少しはましでしたが、世界の最高級品としては問題です。中を開けてみてわかったのですが、折角良い回路を使ってあるのに、部品の誤差が大きすぎるからでしょう。トーンコントロール段に使用する抵抗はアマチュアの場合何とかなるのですが、 コンデンサに至っては、RIAAと違って、トーンコントロールに使用するような大きな値の精密級は事実上無理ですので、必要以外はパイパスするにこした事はありません。

⑥これも写真を見ればわかってもらえるだろうと思います。

トランジスタはどうも、とよく口にされる方々の中には、石はわからないものだと決めてかかる人が多いようです。私の経験では、石の方がわかり易いと思います。特に回路技術がフルに生かせる点だけでも、石の方が少しでも良い音を、という目的には、はるかに面白いものだと思います。そこで、「石はどうも」とおっしゃる方にも、むづかしい理屈は抜きにして、トランジスタ回路がわかるようにという考えもあって、このような構成にしたわけです。

ポリュームA50kΩ(VR-4)、バランスB50kΩ(VR-8)、ファンクション(S-1)、テープモニタ(S-2)、トーンコントロールバイパス(S-3)が左右運動(連動?)の他は、左右別々にそれぞれの基板に付けられ、全く同一のものですので、回路図では省略しました。