2021
05.05

桝谷英哉のよもやま講座 チャンネルデバイダーの基本回路 その2

音らかす

チャンネルデバイダーの回路について

第9図が筆者が設計したクリスキッ卜CDV-102aに手を加えたものである。勿論2WAYを前提にしたもの音質を損ねてまで3WAYにするつもりは全くない。

第9図

筆者の設計によるものだが、桝谷式なんてのは明治時代のようで感心しないのでCDV-202と名付けることにした。

ノイズを出来るだけ少くする事とそれに伴って中高域の分解能の改善が主な改良点である。2WAYだからVcc電源の分布が楽になったので、自由な設計が出来たのだと思う。

今までに102aをお作りになった方々のために改造用のパーツをまとめる予定なので、ハガキで筆者まで申し込んでいただきたい。

全段エミノタ~フオロア~なので、各トランジスターの入力インピーダンスがかなり高い。エミッターフォロアーというのは俗称で、正しい名前はコレクター接地。原語のCommon  Colectorと読んだ方が解りやすい。

第8図がその説明である。エミッターフォロアー回路の交流の流れ道のみを画いたものである。トランジスターがアースラインと共通しているのと、アースにつながっているという意味からこの和洋の名前が生まれた。電子回路には直流と交流が同居しているので、馴れないうちはその回路の働きが理解し難い。だからこの様に交流だけの通り道だけを抜き出すと解りやすい。

第8図

図の入力に入った信号は、ベースがコレクター及びアースヘそれぞれ200kΩのインピーダンスを持って宙に浮いている。ところがこのコレクターはアースに接地しているので、結果はベースから2本の200k Ωでアースしている事になる。言い替えればベースから2本の200k Ωが並列にアースにつながっている事になる。200 kΩが2本並列になるとその合成抵抗値は200×200/200+200=100の計算から100kΩだと解る。

電子回路は音楽の楽符と違ってゆっくリーつ一つ考えながらたどる事が出来るので、その気になって考えれば解るようになるものだ。考えもしないで判らないと決めるのは、判ろうとしないからである。 判ろうとしないのはその人の自由。困るのはこんな手合いに限って耳学問的知識をふりまわす。そしてそれにお脳の弱いマニア共が踊らされる。かくして世のカーオーディオ(カーステレオは安物だそうな)のすべてにグラフィックイコライザーがついて、出力が100Wになる。これで交通事故が起きなきゃ不思議である。

もう一度図を見よう。ベースはアースから100kΩのインピーダンスを持って浮いているが、コレクターは入出力共通(Common)のアースラインにつながっている。ところがベースとアースには200kΩもの高抵抗がつながっているので、下手をするとコレクターにベースの入力信号が移る事がある。3WAYにした折の問題の一つがこれである。ローパス、ハイパス及びバンドパスヘの供給電源が一本のラインに乗るので、これに対する対策がとり難い。問題の一つと書いたので念のタメ。“これが3WAYの問題だと書いておられますが” ……不思議な位この手の質問状が舞い込む。大迷惑だ。こんなのに返事をする身になって欲しい。

図の点線で現わした回路がこの問題点の対策の一つである。抵抗にあまり大きな値のものが使えないので、コンデンサーには100~220μF位のものを持って来ると良いと思う。音をクリアーにする秘訣の一つだ。

CDV-202の回路

第9図がクリスキットCDV-202の回路である。いきなり回路の全図を見たのでは、馴れない人には解り難いかも知れぬ。第10図にそのフィルター部分だけを抜き出した。−6 dB/oct. 1段のみを示してあるが、このフィルターを2段重ねると全回路と同じ−12dB/oct.になる。

第10図

−xdB/oct. オクタープ当たリ−XdB(−xdB?)の事で、幸い音楽でいうオクターブつまリドレミのドから上のドまで、ミからミまで。小学校で習った通り1段上の同じ音をオクタープ上がったという。オーディオではこの1オクターブ上がったところが周波数が2倍になるのを利用してある。

たとえば、1,000Hzで−3.01dBだったら2,000Hzでほぼ−9dBになるから、−6dB/oct.になっているというのである。そして周波数が2倍で6dBずつ下がるのでは、だらだら坂なのでもう少し急にしたのが、このフィルターを2段重ねた−12dB/oct.になるところから、本機では−12dB/oct.にしてある。

マニアにこの事を話すと、必ず−18dB/Oct.の方が良ぃとぃう。そういう手合いには「ああそう」と聞きながしておけば良い。本機に−12dB/oct.を採用したのは、高音、低音スピーカーの位相がちょうど逆になるので好都合なのでこの回路にしたわけだ。もの事すべて、総合的に見て個々の設計を考えないと、重箱の隅をつついていながら真中に穴が空いているのに気がつかないものをこしらえる事が多い。

ハイパスフィルター

電気回路で考えると、低音をアースヘ落とす回路なのでローカットフイルターなのだが、デバイダーの性質から高域のみを取り出すのでハイパスと呼ぶ。

第10図をさらに簡単にすると、第11図になる。CとRだけのネットトワークだから話が判りやすい。

第11図

ます簡単なハイパスから片付けよう。B10kを10kいっぱいまで回しておくと10+1=11k(RH)と26,800pFとのローカットフィルターでRHに並列に回路インピーダンスの100kが入っている。

そこでB10kいっぱいでそれに直列に1kが入って11lkΩ。 それに100kΩが入るとその合成抵抗値か11×100/11+100==9.909kΩから26,800pFと9.09k Ωのフィルターになっている。カットオフ周波数とは−3.01dBの事だから、このフィルターを通して−3.01dBまで減衰する周波数は599.26≒600Hz。

B10kを反対にいっぱい回すと0ΩになるのでRHは1kΩ(1k+0)だから26,800pFとのフィルターで-3.01dBまで下かる周波数は5,998.20≒6,000Hz。

つまりこのフィルターは600~6,000Hzの間をカバーするハイパスフィルターで、CとRはそれぞれ計算して求めたものである。

計算の方法に入る前にこのフィルターが何故ハイパスの働きがあるのかを考えてみよう。