2021
05.20

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その2 プレーヤシステムの巻 2-2

音らかす

カートリッジ

順序が少し狂ったが、カートリッジを選ぶ折りの注意事項について述べる。

カートリッジは音の入り口である。音質上最も重要なコンポーネントの一つである。その上、それから出て来る音も千差万別である。何を選ぼうか、と迷うのも当然だ。

オーディオ評論家という名刺を持った方々の中には、イカ銀に属する人もあるようで、メーカーから金一封もらって、歯が浮くような美辞麗句を並べる手合がいる。私の最も嫌いな人種の一つである。

使用するのは自分なのである。それも自分のうちで、自分の装置で、自分の好みの音楽を聞くためのものでつ(「あ」の間違い)る。自分で選ぶのが一番合理的である。ダイアモンド針がついているからと言って、宝石のコレクションとは訳が違う。

舶来でないと音楽性に欠ける、とおっしゃる方に面白い写真をお目にかける。写真8に、 3本の針先の顕微鏡写真を御紹介する。右の2枚は、それぞれ、誰でも知っている、アメリカ製の一流品から撮ったものである。左1枚が、そのお値段の半分近くの、グレースのF8-Cについていたものである。比較についつの御感想は読者にまかせる。

こんなにひどい針だと、百貨店などの教材品売場なんかでよく見かける、万年筆型の顕微鏡(写真9)でも、はっきり見えるものである。玩具のような顕微鏡であるが、それでも見分けられる程ひどい針がついていても、舶来とあらば、音楽性ゆたかに聴こえるのだから、マニアとはどうしようもない人種である。

始め接眼レンズをのぞいたとき、ゴミがたまっているからだと思って、何度もクリーナー(Clean up)で拭いて見たが、何度やっても同じ事であった。多分、接着剤のカスがたまっているのであろう。それよりもっと驚いたのは、その針先である。これで楕円針だと言う事になると、物理学者に怒られるだろう。レコードを痛めなかったら不思議な位である。

私も、業種は違うが、輸入屋である。営業妨害をしたくはない。中央がE社で、右側がA社とだけ言っておこう。

問題があっても、と思って、 4、 5人の証人立ち合いのもとで、新品のカートリッジの針先をはずして撮影した。オリンパスの金属顕微鏡MFで、対物レンズがM×6及びM x10、接眼レンズがP-10、ケーラー照明で、ニコン顕微鏡撮影装置EPを使った。(写真10)

雑誌なんかで、よくカートリッジの音質評価の記事に出合うが、 これ等のオーディオ評論家の方々にも、ちとこのへんのテストをお願いしたいものである。メーカーにしても、カートリッジがあくまで実用品である、と言う理由をもとに、 レコードをなるべく痛めないもの、 といった方面でも品質向上をはかってもらいたいと思う。

針先の磨耗

一年間にムービングマグネット型のカートリッジの針先を3本も買い換える人が良くある。針先が減って来たので高音が落ちてきたから、と言うのである。実に大した耳である。今のお勤めを止めて、スピーカ・メーカーの鑑定家(コニサー、Connoisseur)にでもなった方が収入が増えるのではなかろうかと思う程である。

一日に何時間位音楽を聞くのか知らないが、3~4ヵ月位で、ダイアモンドの針が減っていたのでは、たまったものではない。

ガラス屋なんぞは、毎月ダイアモンドカッターを新調していなければ、仕事にならない理屈になる。

仕事に使う金属顕微鏡を事務所に置いてあるので、時々針を持って来て見る事がある。

先に書いたように、私はあまリカートリッジを取り換えないので、同じものばかり聞いている事が多い。1日平均1時間半、毎朝店に出る前に音楽を楽しむ。日曜日は、その2倍位聞くわけだから、年間約500時間位針を使っている勘定になる。

自分の針だけでなく、よく他人に頼まれて、顕微鏡をのぞく事があるが、今までにダイアモンドの針がサファイアの針のように減っているのを見た事がない。

雑誌などで、ダイアモンドの針の寿命は何時間位で、早めに取り換えなければ、大切なレコードを痛める、と書いてあるのを見かける。『デンターライオンを使わなければ歯槽膿漏になる』というテレビのコマーシャルと同じ位に考えれば良いと私は思う。

減ったと思えば、取り換えるのも大いに結構。第一メーカーにとっては、非常に有り難いお客様で、私ごときアマチュアがとやかく言う筋合はない。私は、少しばかり減って来た方が、針の裏面がなめらかになって、レコードの為にはかえって良いとさえ思っている位である。

困るのは、針が減って来たので高域が落ちて来たと聞こえる優秀な耳を持っているマニアだと思う。こんなのに限って、音楽はそっちのけで、デモンストレーションレコードを使って、プレーヤーに3本とりつけたトーンアームで、カートリッジの間き比べの得意な人々で、私はこういった人々を、オーディオリスナーと呼ばない事にしている。

他日、ニューヨークのオーディオシップで、ひとに頼まれた針を買った時の事である。在庫が4本しかないとい(「い」は不要)言うので、良いのを選ぶために、全部カウンターの上に並べてもらって、驚いた事がある。レコードの面に対して、15°の角度をもっていると言う事なのだが、私の肉眼で見ただけでもはっきり判る位、針の植え方の角度がまちまちである。『どれが15°なのだ』と尋ねたら、全部15°だとすまして答えてくれたので、買うのを止めた事がある。

これは、プレーヤーに直接関係のない事であるが、 レコードクリーナーもかなり重要な役割を占めるものである。いろいろなもの使って見たが、 イギリスのParastatが一番効果的なように思う。同じメーカーのもので、Parastat manual model MK Ⅱ と呼ばれる、自色プラスチックケースに入ったものは、刷毛の両側に、ビロードのパッドがついていないせいか、うまくレコードの埃が取れないようである。

何でものぞきたがるようであるが、このクリーナーの刷毛の先が切りっぱなしでなく、写真11のように、丸みを帯びて、とがっているが、どういう工程で作ったのであろう。ブラシの専門家に尋ねてみたが、判らない、と言う事であった。このあたりが、驚く程埃を取る事につながっているのかも知れない。

少々お高いが、レコード2枚分、埃の為に傷をつけるよりは、大いに安い買い物である。

(以下次号に続く)

以上、電波技術 1973年12月号