2021
05.23

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その3 テープデッキの巻 2

音らかす

レベルがセット出来たら、新品のテープにかけ換えて、ながしてみる。程度の悪いデッキだと、この時にもうすでにかなり大きな音で雑音が入ってくる。こんなのはそれだけで落第である。もっとも、いちがいに雑音といっても、いろいろな種類があって、有害なものと、耳ざわりにならない程度のもので、音質にあまり影響のないものとがある。一番いけないのが、低い周波数のノイズ、つまり、ハムである。あまり上等なものでなくても、ヘッドフォンで、はっきり聴こえるハムが出ているデッキにときどき接する事がある。こんなのは、出るだけ購入を見送りたい。

再生アンプから、比較的ノイズが出ないのに、録音アンプに割合雑音を含んだデッキがあるので、これも、念入りに調べておく必要がある。電気機器の泣きどころ。しばらくでも使ったものとなると、商品価値がいっぺんに下ってしまうもので、気に入らないから売るとなると、かなり値打ちが下る。

購入時点で念入りに調べるのが賢明というものである。

再生アンプのノイズがパスしたら、録音アンプに、これも比較的簡単で、入カピンから、信号を入れないで、押しボタンを操作して、録音状態にする。現在市販されている殆んどのデッキがそうであるが、このテストに移ると、必ずノイズが大きくなるものである。これは録音時に、ヘッドにバイアスをかけるために起こるノイズ成分が大いに影響しているらしく、止むを得ない事だと思うが、質の良いデッキだと、この時録音レベル(もちろんマイク用だと、ゲインが大きいので、ライン入カレベルの事である)を上げていって、ハムが入って来たり、ヒス音が大きくならないものである。ひどいものになると、モータからのバズ音が入ってくるのもある。

良くデッキについている、消磁ヘッドで消すより、バルクレイザーを使った方が完全に消えるという事を耳にするが、原因は録音ヘッドで、せつかく消したものに、録音ヘッドからのノイズが入って来るからでバルクレイサーは放送局などで、何かの理由で、録音済みのものを、消してしまわなければならない時に使用するもので、アマチュアには全く不要のしろものである。下手に使うと腕時計を駄目にしてしまう以外にあまりとりえはない。

テープヘッドイレーザーなるアクセサリーもある。私の経験では、これもあまり必要だと思わない。マニアと呼ばれる人種の中には、極端にコンポーネントに対して神経質な人が多いようである。器具を大切に使う事は、実に良い習慣で、機械類の好きな私も、御多間にもれず、品物を大切にするたちであるが、ただ、猫っ可愛がりは考えものである。

カメラにレンズキャップをかぶせたり、外したりするのが面倒だから、UVフィルターか、スカイフィルターなどの透明フィルターを常用しているとする(「。」が抜けている)何かのはずみで、指紋なんかをつけてしまった折に、その透明レンズキャップを、いろいろ取り外して、神経質にレンズクリーナーでふいたりするのは、全く馬鹿々々しい習慣だと言わねばなるまい。高価なレンズをいためないための透明レンズキャップである。ハーッと息を吹きかけて、ティッシュペーパーでふきとるのが一番手っ取り早い方法である。万一傷をつけても、数百円で新しいのが手に入る。カバーとは、中味を守るためのもので、カバーを中味と同じ神経で手入れすれば、合理性とは何かという事を知らない人のする事だ。

不思議な事に、こんな人達にかぎって、ブラック仕上げのカメラを、ケースに入れないで裸で見せびらかし、不注意でキズをつけてくさっている手合いが多いものである。

話が横道にそれたが、テープヘッドなんてものは、そんなに手軽に磁気を帯びるものはなで(「で」は不要)い。テープをかける度にイレーザーを使ってヘッドのクリーニング(?)をする人を見た事がある。女の子とキスをする度に、いちいち歯を磨いていたのでは、ムードも気分もあったものではない。もっとも、何とか市立吹奏楽団の、クワイ河のマーチを聴くのに、あまリムードはいらないかも知れないが……

ヘッドが磁気を帯びたのを、一度しか耳にした事がないが、磁気を帯びていると、丁度レコードの傷の音に似たノイズが出るもので、かなり大きな音が出る。磁気を帯びているので、S/Nが悪くなっているのではないかと思う人は、 もう一度学校へ行って物理の勉強をする必要がある。

ついでに馬鹿げた話をもう一つ。テープデッキに、テープをかけないで、録音ボタンを押すと、見事に磁気を帯びるという人に逢った事がある。全く新しい学説(?)である。オーディオ学会でも創立されたら、いの一番に発表する値打ちのあるテーマに違いない。二本目の38cmリールの録音を始める時、その先生、リーダーテープを引っぱり出して、ワインデイングリールにひっかけただけで、録音ボタンを押した。リーダーテープには、コーティングしていないので、完全な絶縁体である。もし、空(から)のまま録音ボタンを押したら磁気を帯びるのだったら、リーダーテープがかかっていても、物理的には空(から)と全く同じ事で、見事に(?)ヘッドが磁気を帯びている筈である。まことに非合理的な学説もあるものだ。

と言うわけで、電気的クリーニング(おかしな日本語だが)はこの辺でおしまいにして、いわゆるクリーニングについて考えて見る事にする。

最近の磁気テープは、かなり質が良くなっており、ひと昔前程の事もないが、とかくテープヘッドは汚れやすいものである。ひどい時には、二、三本かけただけで、汚れてしまう事がある。こうなると、いっぺんに高音がお留守になってしまい、時には、片方音が全く出ない事もある。

アカイのGX-370Dのヘッドカバーは、スプリングが入っていて、いとも簡単に上に持ち上げられるようになっていて、このヘッドクリーニングが非常に簡単に行なえるように設計をされている(写真12参照)。こんなところも品選びの時に案外見逃がされる事なので、念の為につけ加えて置く。出来る事なら、どのメーカーも、簡単にヘッドクリーニングが出来るように設計して欲しいものだ。私がテイァックの4010をA5300にとり換える気になった原因の一つだという経験も何かの参考になると思うので、あえてこの事に触れたわけである。

ヘッドクリーニングや、ピンチローラーの掃除には、メーカーから出ているクリーナーが一番良いのだろうが、中味の溶剤の割に値段が非常に割高なので、消毒用に使うイソプロピルアルコール〔Isopropyl Alcohol、(CH32CHOH〕 (「を」が抜けている)おすすめする。450 cc入りのビン詰めで、一本買って置くと、忘れる位長持ちする。メチルアルコール〔Methyl Alcohol、(CH30H)〕は時として、 ピンチローラーのゴムをいためる事があるので、避けた方が良い。四塩化炭素(Carbon Tetrachloride、CCl4)が~番良いのだが、塩素には毒性があるので、専間知識のない人が使うと、公害上あまり感心しない事になりかねないので注意を要する。

ピンチローラーは、案外早く表面が荒れるもので、テープが、ピンチローラーのところで、波打ち始めたら、ローラーがいたんで来たきざしである。かと言って、その都度取り換えるのはもったいない。ここでひとつ、 ピンチローラーの再生法について述べる事にする。ただし、機械いじりにあまり経験のない方が、下手にさわると、かえってローラーを駄目にしてしまうので、その時は筆者に責任を問わないでいただきたい。

材料代をケチるせいか、ピンチローラーには、あまり良い材質のゴムを使っていないもので、表面に酸化鉄の粉がついたのを、溶剤で取ろうとしても、一年も経つとなかなとれなくなってしまう事がある。

出来るだけ平面な板、つまり顕微鏡に使う、JIS基格のデッキクラスのようなものを用意して、その上に、♯800~♯1000の耐水ペーパーを、セメダインなどで、凸凹にならないように、丁寧に貼りつける。良く乾いてから、台所用の液体洗剤を、水で四倍位に薄めたものを、二、三滴ペーパーの表面にたらす。

第6図のようなものをこしらへて、テープをかけないで、ピンチローラーを廻わしながら、ペーパーをローラーの表面に当るのだが、絶対に力を加えてはいけない。そっと当てるようにしてローラーの表面を磨ぐわけである。理髪士が、カミソリを磨ぐ時の要領だと考えればうまく行く。

第6図

ピンチローラーが真円度を失ったり、直径に対して、面が直角でなくなったら、全く用をなさなくなるので、その事を良く注意すれば、10分位の作業で新品になる。あまり頻繁に磨ぐ事は避けた方が良い。

最近は、ヘッドの材質が良くなって来ているので、あまり減らなくなったようだが、ひどいのになると、肉眼で見て、はっきりわかる位減ってしまっているのがある。こうなると、テープをいためるばかりではなく、周波数特性がいちじるしく劣化するので、早速取り換えるのが賢明な策である。残念ながら、アマチュアでは、これに要する測定器及び標準テープをそろえるのは無理なので、 メーカーのサービステーションに依頼する以外に方法がない。

よく、コンポーネントの補修を購入した電気屋なり、オーディオ屋に持ち込む人を見受けるが、これは止めた方がよろしい。

メーカーには、自社製品の補修に精通した技術家が多勢いるばかりでなく、それに一番適した器具をそろえているもので、部品にしても、適当なものを代用したりする事は絶対にないので、安心して預ける事が出来る。

卓上ラジオがこわれて、街の電気屋に持ち込んで、余計に悪くした例を私はいくつも知っている。

ヘッド交換に、メーカーに持ち込む時に、ついでに、テープテンション、ソレノイドスイッチの張力、ブレーキのきき具合、ワウ、フラッタなゼもついでに当ってもらうのが、いつまでも良い音で音楽を聴きたいと考えている、オーディオリスナーの心得だという事を忘れないでいただきたい。

最近のデッキには、注油に関する注意書きが、パンフレットなどに載っていないものが多いが、メーカーに問い合わせるなりして、時々油を差してやる必要がある。使用する油は、少々割高だが、メーカーの指定する純正油を使用するのが、結局は割安である。へたに安物のミシン油などを使用すると、酸化したり、こわばったりして、分解掃除に大騒ぎ。

ただし、油は絶対に余分に差さない事。横にだらりとたらすのなんぞは、しろうとのする事で、過ぎたるは及ばぎるが事(「如」の誤り)し、と心得るべし。

巻き取り用リールは、テープを巻いてあるリールと同じ直径のものでないといけない、と言う人がある。これは神経の使いすぎで、左と右とのリールのテープ面の直径が同じになるのは往復それぞれ一度しかない事を考えれば、とやかく説明する必要はないと思う。そんな事に気を使うよりは、巻き取り用リールには、出来るだけ良い品物を使用する事の方が重要である。テストはいとも簡単で、新品のテープの(「を」の誤り)巻き取り用リールにひっかけて、早送りする。この時に、リールが、がたがたゆれたり、巻き取りが大きく乱れたりするようなリールは不合格。もっとも設計の悪いデッキだと、テープもリールも新品で合格品を使っても、がたがたになるのも、かなり出廻っているようなので、デッキを購入する事の品選びの目安にすると良いと思う。こんなデッキをしょい込むと、くされ妾を持ったようなもので、使う度に不愉快な思いをするばかりでなく、テープをいためたり、ろくな事はなく、結局は、捨て値同様で手放し、新品と買い換えるようになる事うけ合い。

イカ銀先生の評論記事には、こういった点について全然触れていないのが残念で、つまらぬ買い物をする人々は、実にお気の毒だと、私は常々思っている。

〔11月号訂正〕67ページ中段21行日の“文化”と“文明”を入れかえて下さい。

以上、電波技術 19741月号