2021
05.28

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その5 テープデッキの性能を調べる 1

音らかす

オシロスコープ(続き)

方形波を入れて1000Hzの波形が、両片共90°になっていて、第10図のように正方形になっているか、どうかを確かめる。左肩が丸みを帯びていたりギザギザになったり、リンギングの見えるものは、敬遠した方が良い。このような場合は、 ジェネレータにも責任があるので、一方的にオシロスコープを責めるわけにも行かない。腑に落ちない時には、メーカーに電話を入れて型番を言って質問する位の熱心さがないと、店頭で知識のない店員とあれこれしゃべっていても、ラチのあかない話である。中には、水平ゲイン(Horizontal  Gain)がついていないので、波形を横にのばす折に不便を感じるもの(トリオCO-1303)がある。これは、オーディオ用には不向きである。値段は安くて良いのだが、残念ながらおすすめ出来ない。

第10図

ラインスィープ(Line Sweep)つまみがついているのもあるが、これはジェネレータの周波数確度(Accuracy)を調べるのに非常に好都合である。例えば、オシロスコープに60Hzのサインウェーブを入れてみて、スイッチをラインスイープに回すと、画面には、今入れた60Hzと、電源から来る60Hz(関東では50Hz)と中で混合スイープして、 リサージュ波形(Lissajous wave)が表われる。近頃の電力会社の周波数は、ヒステリシスシンクロナスモータ(Hysteresis Synchronous Motor)で御承知のように、かなり正確に60Hzになり50Hz出ているものなのでもし画面のリサージュ波形がまとまらなければ、ジェネレータから60Hzが正確に出ていない事になる。次にその倍数の120Hzを入れると、山を二つ持った波形、180Hzだと三つ、240Hzだと四つ、と言った具合に正確な山がその倍数だけ出て来る筈である。写真13にあるように出るわけだが、具合の悪いシェネレータだと、画が流れて、とても止めて写真を撮る事が出来ないので、すぐ解る。

もっとも、 ピッタリと止まったまま全然動かない事は、¥200,000以下のジェネレータではあまり期待出来ないし、オシロスコープが頼りなくてもうまくないかも知れないので念のため。この点、菊水のジェネレータ418は割合にうまく行き、周波数誤差も殆どないので良いと思う。

こうしておいて、 ジェネレータの方を回して止まるところが、正確に60Hzになってている筈である。もしジェネレータのダイアルが64Hzになっていたら8%の誤差があり、カタログに、もし±3%+1Hzと書いてあったらメーカーに苦情をつける必要がある。

ラインスイープつまみがなくても、二現像オシロスコープだと、同じようなテストが出来る。

ところで、この菊水の418には、コストダウンを計るためにそうなったのか、オーディオ用に使用するのに問題点が一つある。何の用途のためか知らないが、最大出力が約8V r.m.s.とれるようになっており、回路を簡単にしてコストを下げるために、アッテネータが−20dB一段しかついていない。従って、8Vの1/10、つまり800mVレンジ以下は、ボリュームを回わす事により、アッテネート(Attenuate)する以外に方法がない。

最近のパワーアンプは0.5V(500mV)入力でフルパワーになっているのが殆んどなので、−20dBのレンジでパワーアンプやテープデッキを測るのには問題はないのだが、プリアンプだとそのイコライザ段(Phono Input)の最大許容入力が、75~350mVである上に、一般にカートリッジの出力電圧は2~7mVとされているので、最少レンジが800mVだと、ボリュームをちょっと回しただけで、出口に当っているミリバル(交流電圧計)の針が振り切ってしまって、実に具合が悪い。

メーカーに話しかけてみたら、それなら、もうひとクラス上の417aを使うか、418にアッテネータ(Attenuator、164D)を並用されては、という返事。417aは418の二倍位するし、164Dも、418をもう一台購入するだけの費用がかかる。万事あまり銭(ぜに)をかけないで、 という私の主義に反する。

そこで、考えついたのが、アッテネータの自作である。アッテネータと言っても、ワンステップ0.1dBなんていうこみいったものではないので、作り方は至って簡単である。

上記2レンジのもの、つまり8Vレンジ、0.8Vをもう20dB下げて、0.8V(800m V)レンジ、0.08V(80mV)レンジになるようなアッテネータであるから、一番簡単には、第11図aのように、二本の抵抗を使って減衰させればよいのだが、何分、測定器の事なので、10HZから、少なくとも100 kHzまでの周波数までの出力に、位相のずれがあっても困る。と言って、それの補正に、 コンデンサを使いながら補正して行くのは、 しろうとには無理。従って、第11図bのようなディバイダを使って、その出力を1/10に落す。第11図cが、その配線要領である。ジェネレータとアンプをつなぐのに、どうせリード線かシールド線を使うのだから、こんな格好のアッテネータは、使い勝手からも、実に都合が良い。図では、491Ωとか121Ωとかの半端な数値の抵抗が使ってあるが、それぞれ470Ωと120Ωを代用しても、一向に差支えない。リケノムのRM1/2G級が比較的入手しやすい。

第11図

このように細工すると、このジェネレータは、周波数確度、安定度、方形波の精度などがかなり良い上に非常にコンパクトなので、申し分のない、オーディオ用ジェネレータだと言える。ただ一つ、歪率の点で、少し不満が残り、歪率計と並用する時に問題があるかも知れないが、良く考えてみると、歪率測定の項で後述するように、オーディオ・アナライザには、一般に、スボット信号発生器が内蔵されているものが多いので、我々アマチュアが歪率を測るのに、それ専用のジェネレータは全く不用なので、上に述べた周波数確度があり、方形波が比較的正確に出るのが一台あれば充分である。

参考までに、418の各周波数における方形波の岩崎のシンクロスコープSS-5100(注:私のように、原稿を書くものが、あまり信頼性のない測定器を使って記事にしたのでは、読者の方に御迷惑をかけてもいけないと思って最近購入したわけで、アマチュアには少々贅沢だと思う。正直なところ、今まで、 ヒースキットのメーカーに多少気嫌ね(「気兼ね」の間違い)があったのだが、フリーな立場で、それこそ合理的な考えが、オーディオ用測定器を選んだ、 というのが本根かも知れない)で写真に撮ったものを写真13に示しておく。具合のよくない測定器と比較されると、参考になると思う。

いずれにしても、測定器は10年位は平気で使えるので、少し高価でも、長い目で見れば、特に授業料だと思えばそんなに高価なものではない。

テープデッキの測定法

測定器がそろったところで、いよいよテープデッキの測定に移る。A-5300は、まだ出たばかりで、あまりゆきわたっていないと思うので、A-2300Sを使って、その測定法を説明する。

つなぎ方は第12図を参照されたい。バンフレットによれば、出力信号が0.3Vとなっているが、調べて一寸驚いた。どう驚いたかは、説明と共に書い(「て」が不足)ゆく。

第12図

まず、ライン入力(Line Input)へ1000Hzの信号を入れる。ジェネレータの出力は、最小からスタートするのが良いだろう。入力及び出カボリュームは、それぞれ、午後2時のところまで回わしておいて、デッキの出力側(Lチャンネル)にAC電圧計をつなぎ、少しづつ、信号電圧を上げていく。この場合は、テープがかかっていないのだから、デッキモードスイッチはSOURCEにしておくのはもちろんである。

デッキのVUメータが0dB(100%)まで上がって来たところ(「で」が抜けている)止める。デッキの出力側のジャックヘ0.3V出ている筈である。出ている筈だのに、私のは0.27Vと出た。まあ、1割位の誤差は、止むを得まいと思って、今度はR側でやってみたら0.47V。これは驚いた。メーカーなんて、出荷前に検査をしているのだろうか。0.27:0.47は、1.74倍、つまり4.8dBの誤差である。これでは、イコライザの±0.5dBが耳でわかる人にだったら、綿で耳に栓をしていてもわかる位の誤差である。

本来ならば、同じ入力電圧で左右共、同じように0.3V出て来る筈なんだけれど……

テープをかけないでVUメータが0dB(100%)を指すだけの入力電圧を、そのまま、つまり、ジェネレータのポリュームをそのままにおいて、今度はテープをかけてのテストに移る。

ハイバイアス・ローノイズ(High Bias Low Noise)ではない、一般のティアックの指定のスコッチ150LHR番のテープをかけて、録音ボタンを押して回わすと、1000Hzの信号が録音されて行く。モードスイッチをTAPEに倒すと、録音された音が出て来る。今までピタリと0.3Vあたりで止っていたミリバルの針がふらふらし始める。ワウフラッタ(Wow Flatter)である。針の振幅が5m/mを越えたらそのデッキは調整不充分であるが、少し位のふらつきは、アマチュア用デッキの場合致し方のない事である。問題は、私のデッキでは、この時はもうすでにVUメータの針も、ミリバルの針も、もとのところに下ってしまった。もう少し良心的に調整してあると思ったのに……

デッキの裏に沢山の半固定抵抗がついているが、サービスマニュアルでも見ないかぎり、しろうとでは手が出ない。メーカーに持ちこんで調整しなおして、その時の修理伝票を後日の証拠のためにとっておく。

何処かの工業大学の電気科でこんなテストレポートを作って、オーディォ雑誌に発表したら、その雑誌の広告部が悲鳴を上げるかも知れない。

断わっておくが、たまたまこの記事を書くのに、自分が使っているデッキで説明したので、ティアックさんには気の毒な話だが、他の二、三のデッキをあたってみたら、もっとひどいのもあったので、声を大にして述べておく。ティアックには、何のうらみもないのだから。0.3Vと書いてあれば、メーカー規格は、約0.3Vの筈なので、0.27V~0.34Vの間と判断するのが妥当であろう。これだと、±1%の誤差であるから上下2 dBまでの狂いは、 メーカー規格通りと言う事になる。

という具合に、入出カテストが終ったら、今度は、周波数特性に移る。