2021
05.31

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その6 私のステレオ装置の説明 1

音らかす

ところで、ときどき雑誌に記事を書いているせいもあって、オーディオリスナーの方々から相談を持ちかけられる事が良くある。最近『先生はどうしてテープデッキを2台お使いになっているのですか?』という質問を受けた。実に当を得た質問である。日頃、合理的ということを売りものにしている私が、そして、トーンアームを2本以上つけているのは気狂い(マニア)だと唱えている私が、なぜテープデッキを2台持っているのか、という御尋ねは実にごもっともな話である。

ひとつここで、他人に対して、“ものを選ぶのには、こんなところを注意しろ” といっている私が、一体どんな装置で音楽を聴いているのか、ということをお知らせして、またどうしてそうなったのかを、御説明しておいた方が、これから先の記事を読んでいただくのに、何かの御参考になると思われるので、これまでの説明を中断して、少し道草を食うことにする。

第1図がその=覧表であ1る(1974年1月現在)。

第1図

チューナからパワーアンプ

(1)チューナ:トリオのKT-7000である。なぜ、この機種を選んだかについて深いわけはない。ときどき出向くオーディオ屋の客の中にKT-7000を買って、半年もしないうちにソニーのST-5000Fの方がはるかに音が良いということで、買い換えた方がいる。確かに、KT-7000ょりはるかに高価である。日頃、装置に金がかかっていることだけが御自慢の某氏としては、当時最高の値段のつぃていたST-5000Fに入れ換えたかった気持はわからないでもない。どうせ、音楽なんぞ、ろくに聴いていない人だから、他人のものより千円でも高価なものを持ちたかったのであろう。

そんなわけで、当時¥60,000位だったKT-7000を半年のセコハンということで、¥15,000で入手できたのが、その唯一の理由である。それ以来何年か愛用しているが、大してトラブルもないが、大いに満足しているわけでもない。わざわざレコードを買う程のこともないが、ときどき聴きたいと思っている曲が、放送されるたびにテープにとるのに、大いに役立っていることは事実である。

図でもわかるように、A-5300を FMチューナに直接つないである。こうしておけば、FM録音中でも他の曲がレコードで鳴らせるし、A-2300Sの方で、他のテープを聴くこともできるからである。

FM録音用のテープは、ソニーのSLH-7-740-BD(バックコーデットテープ)などのローノイズ、ハィアウトプットを19cm/秒のスピードで、片面60分ものをひっかけておくと、1時間もののプログラムが、時報からアナウンサーの解説まで全部入る。ポーズスイッチを使つて、ヤッとばかり本番録音に入るために、デッキにかじりついていなければならない、煩雑さから解放される。

モニターしたいときには、A-5300の出口をプリアンプのAUX入力端子につないであるので、プリアンプのスイッチを切換えさえすれば、録音済みの音が聴けるようになっている。

夕方、事務所から帰って「銭形平次」でも見ながらのダビング仕事は、それ程大げさではない。A-5300からプリアンプのAUXに入ってきた信号は、モニタースイッチを使ってA-2300Sに必要な部分だけを、これまた必要に応じて、ローノイズ、ハイアウトプッ卜なり、普通の、片面30分位いの大ハブリールに巻いた保存用テープに移すわけである。フジのFM-150-7Hはローノイズ、ハイアウトプットではないが、ヒス音もほとんどなく、再生音も問題なく、SLHに比べて割安なので、良く使う。私のレコーデッド・ライブリー150本あまりの60%近くが、このテープであるから、よほど私の性(しょう)に合ったのであろう。

放送中のものを録るわけではなく、一度録音されたものから移すので、楽章の切れ目など、丁度良い具合に入れることができるし、もし失敗しても、何度でもやり直しがきくので、非常に具合がよろしい。ダビングによる音質の劣化は、理論的にはともかく、音にかなりうるさい連中にもわからない程なので、実用上全然問題はない。

(2)テープデッキ:ティァックのA-2300SとA-5300の2台である。ティアックのものが最良品だとは決して思っていない。使いなれたメーカーのものというより、メーカーによって多少設計方針が違うので、2台つないで使用する折りに、レベルのセットなど同じメーカーのものの方が使い易いからである。

2台使っている理由は、チューナのところでも述べたが、私が良く録音する番組が朝の8:00~9:00にNHKから放送される。毎朝7時30分に起きて9時に事務所に出かけるまで、必らずといっていい位、毎日音楽を聴く習慣になってしまった。

A-5300のダイレクトドライブは、こんな時、薄手のテープを何度も何度もマスターテープとして使うときに、のびたり、いたんだりすることが少なくなるだろうと思ったからである。残念ながら、この項を書く時までに約1カ月しか使っていないので、その成果の程はいまだわからない。多分、今までのように取り換えたり、調整し直したりしなければならないだろう。

とにかく、現在、上記の目的以外にレコーデットテープの再生に、このA-5300を使っている。モータ音がほとんどでないのは有難い。

カセットは、本来語学の勉強などのために開発されたもので、残念ながら現在のところ、音楽鑑賞用には不向である。もしカセットでも良い音がすると思っておられる方がいれば、その方のプリアンプが悪いからである。プリアンプを音質の良いのにとり換えたら私のいっていることがおわかりになるはずである。ただし、カセットだと割り切っておられる方は別である。

(3)プリアンプ:もちろん、クリスキットマークⅥカスタムである。今までの経験上、毎日音楽を聴くくせがつくと少しでもにごったり、ひずんだりすると興味が半減するので、メーカー製アンプには、何年か前に見切りをつけたわけである。

プリメインアンプだと、クレードアップのときに、両方ともかえなければならないので、今だに、プリアンプとパワーアンプに分けている。

(4)パヮーアンプ:以前はクリスキットModel 9の名前で、電波技術1971年9月号に発表した6CA7pp(三結・ウルトラリニア)を使っていたのだが、アウトプット・トランス付きのアンプに疑間を持ち始め、その頃からすぐれたトランジスタおよびその回路技術に接するようになった機会に、きれいさっぱり、管球式パワーアンプに見切りをつけて、ソリッドステート式に変身したわけである。

写真では見られないが、現在でも手許に置いてあるが、Model 8はさっぱり使わなくなってしまった。ときどき灯を入れてみるのだが、やっぱりいただけない。歯切れの悪さ、ずしんとこない低音、にごりを感じる中高音、抜けの悪い高音、どれをとってもソリッドステートの方が良い。特に、石を厳選しNECの御協力をえて設計をしたP-35(電波技術1974年2月号)になってからは、200リットルの密閉箱に入れたJBL LE14Aも、特注のネットワーク、ラックスのアッテネータAS-6を通したLE175DHLも、私の希望通りに鳴ってくれるようになった。

写真

市販品のソリッドステート・パワーアンプの中にも、最近は良いものがあるのかも知れないが、0が一つ余計についているような値段は、どうしても納得できない。製作記事でいつも述べているように、メーカーといえども同じトランジスタを使い、同じというより、むしろコストから選ばれた抵抗、コンデンサを使用していることを考えれば、その何分の一かの出費で、満足できるものが自作できるとなると馬鹿馬鹿しくて、0ひとつ余計についた値段にすんなりと金銭(かね)をだす気になれない。

ピースの缶程の特注カバーをかぶせたコンデンサ、深しばり鉄板に立派な塗装仕上げをしたトランスがのせてあるアンプは、広告写真を見ていても魅力は感じる。だからといって、そのアンプの中に魔法でも封じ込めていないかぎり、二十数万円の価格は私にはうなずけない。あのコンデンサをデュボンのライターのように何ミリクロンかの金張りをかぶせ、パイロットランプに本物の宝石を入れたら、もっと魅力的になるだろうが、どの位の値段になるのだろう。