2021
06.02

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その6 私のステレオ装置の説明 3

音らかす

オーディオマニアとは、実に困ったもので二、二人にこの話をすると、YL(「の」が抜けている)品物は高級だから値段が高くて、音が良いと決めてかかっている。

亡くなった母親が良く “上等舶来” と言う言葉を使っていた。上等がすべて舶来で、舶来のものは何んでも上等だと言う意味で使っていた。つまり、上等がすべて舶来で、舶来のものは何んでも上等だという考え方である。頭からそう決め込んでいるのだから、ちょっとやそっと説明した位では、てんで受けつけない。

YLのものが上等で、上等だから値段が高くて、値段が高いから音が良いのだという理屈になると、物理も理論もクソクラエである。こんな手合いを相手に説得して見たところで、馬の耳に念仏である。冗談じゃない。『俺のは3 Wayの特注ものだけれど、2.6mm線のコイルを使ってあるので、ネットワークー組で四万五千円だよ』と、一体スピーカに何ミリアンペア流すつもりなのだろう。

あるマニアが緑の下にもぐり込んでスピーカ・コードのかわりに、天丼配線などに使われる1.6mm線を張りめぐらしたら、ガラッと音が変ったと言っているのを聞いた事がある。おかげで風邪をひいて二日ばかり寝込んだそうだ。それで音がガラッと変ったのかも知れない。

ネットワークに使われている線は、そんなに太いものでなくても良いし、そんなに高価なものでなければ、音楽が聴けないものではない。むしろ、そのカットオフ周波数の選定の方が大切である。こればかりは、残念ながら耳で選び出すより他に手がない。高価な測定器を使ってデータをとってみてもそれはあくまでも物理的データで、ステピーカ・ユニット、リスニングルーム等によって音の出方は変わる。実際にヒアリングテストをしょうにも、2Wayで一万四千円だと、カットオフ周波数の違ったものを3組注文したら、八万四千円かけて数力月待たなければならない。マニアでなければ、とてもついて行けないわざである。そのうちに、ネットワーク自作のためのデータを作ってみたいと思っている。

写真2

(7)アッテネータ:ネットワークはこの位にして、アッテネータについて考えてみる。JBLに限らず、市販システムに使ってあるアッテネータは、ほとんどが巻線形ボリュームである。巻線形であるかぎりB形のもので、オーディオカーブになっていないから、つまみの回転角度と音量とは、全然比例しないものである。やっと丁度良いところに持って来てみても、ちょっとさわるだけで、かなり大きく変わるものである。従って、レベルセットがひと苦労。もうすこし上等になると、何万円もするが、切り換えスイッチで、音量が変わるようになっているものもある。どちらも、抵抗分割による減衰器である事は変わりない。電流抵抗値を下げるために、馬鹿でっかい線を使ったコイルを使っていながら、抵抗を入れて抵抗値を上げる理屈が、私にはどうしても理解出来ない。オーディオのくろうとにしか通じない理論があるのかも知れぬ。

その意味で、ラックスのコイル型アッテネータ(AS-6)は、良く出来たしろものである。何度もテストしてみたが、ネットワークを上等(高価なもののもの)と、そうでないものと取り換えてみても、そんなに大きく音質は変わるものではないが、アッテネータを抵抗型とラックス型と入れ変えてみると、大いに音質が変わる。コストの割にちょっとお値段が張るが、他のメーカーでは作っていないので、いたしかたない。1個ばらしてみたが、数個自作するとなると、余計高くつきそうだ。

(8)スピーカ切り換えスイッチ:家族のものと一緒に、ダイニングキッチンで朝食をとりながら音楽を聴く時のために、切り換えスイッチで三菱のA-610を2本一つのキャビネットに入れて、天丼にとりつけたのと切り換えるわけだが、モニタースピーカみたいなもので、かなりなライブなダイニングキッチングのせいか、低音の不足はあまり気にならないし、アラの少ないスピーカ・ユニットのせいか、非常に素直でクラシック向きには文句なし。

なお、切り換えスイッチは、ラックスのロータリースイッチで、4回路3接点のものからの自作品である。

ヘッドホン、その他

レコード評論家のT氏が “我が家の38cmホーン型ウーハに近い音がした” とか言われているスタックスのコンデンサ型に、一応は興味を持ってみた。行きつけのオーディオ屋に頼んで借り一晩使ってみた。なるほど、安価のヘッドホンに比べてかなり音は良い。いや、音が良いと思ったのである。シェリングのバイオリンでイセルシュテット指揮のロンドン交響楽団の演奏によるベートーベンのバリオン協奏曲。比較的長い曲であるせいもあって、第一楽章のカデンツァのあたりまできた時から、どうも頭のてっぺんから音が入って来るように感じられるようになった。つまリバイノーラル(Binaural)独特の音楽効果は、最高級の値段がつけられた製品でも同じように存在したのである。これでは、私のように、クラシック族にはどんなに良いヘッドホンも、ヘッドホンはやはリヘッドホンと割り切る他はないと言う結論になる。

割り切るには、どうも高価すぎる。その上、アダプタなるもののなかをあけてびっくりした。あんなにお粗末な部品によるトランスレス方式の整流回路が、どうして二万円近い値段になるのであろう。第一、スイッチを切り換えた時に、トランスレス方式であるからには、どちらかでハムが出来る。電源ソケットをつ込んだり、ひっくり返したり。

私には、マニアのように不自由をしてまで音楽を聴く根性はないので、あっさり返品。パイオニアからも同じようなのが出ている。こちらの方もテストしてみたが、音質が落ちる。

そんな時、そのオーディオ屋の店頭に少々棚ずれしたトリオのHS-1を見つけた。その店で鳴っていたアンプにつ込んで聴いてみたらなかなかいける。店長の話によると、割合値段がはるせいか、売れ残っているのだそうで棚ずれ承知で原価でわけてもらった。

ヘンドホンは、私にとって測定器のようなもので、テープの音飛び、録音オーバーによる音のひずみ、レコードの内周ひずみなどは、スピーカから出すとわかりにくいものであるが、ヘッドホンだと比較的簡単に、これらのアラがわかるものである。まれに、夜遅くFM放送から録音する時など、実に重宝なモニター用スピーカの代りになる。従って、今ではHS-1は手ばなすことの出来ないコンポーネントの一つである。

最後に、これは以前にも述べた事であるが、スピーカ・システム、アンプなどに必要以上の力こぶを入れる人々のなかには、シールド線入手には割合い無頼着な事が多い。悪いシールド線だと、音質をそこなうばかりでなく、ハムノイズの出るのが良くあるので、一度取り換えてみてテストをする事をすすめたい。私の設計したプリアンプからわずかだがハムが出る、と言ってこられた方の中に、その原因がシールド線によるものだったのが、二、三あったのでついでに述べておく。