2021
06.03

断固、大坂なおみ選手を支持する!

らかす日誌

昨夜、久しぶりに町に出て酒を飲んだ。同行者は2人。ちょいとばかり話をしなければならい件があって、コロナでひっそりした居酒屋に行った。

群馬県も、コロナの「まんえん防止等重点措置」が発令され、飲食店は午後7時がラストオーダー、午後8時に閉店である。ために、飲み会の開始時間は午後5時半に設定した。まあ、2時間半もあればおおむねの話は出来る。そして午後7時になったら、大量に酒を注文しておけばよい。

「注文は今だけど、持って来るのはゆっくりでいいからね」

と注釈をつけてのラストオーダーである。そのあたりは生活の知恵といえよう。

昨夜のメインテーマではなかったが、酒の席でテニスの大阪なおみ選手の話題が出た。というか、私が出した。

「大坂なおみの件、どう思う!」

と。
大坂なおみ選手が全仏オープンでの記者会見を拒否して処罰を受けた。さて、この2人はこの騒ぎをどう見るのだろう?

意見は2つに分かれた。

「大坂の気持ちは分かる」

「プロだから、記者会見に応じるのは義務だ」

まあ、世の大勢もこの2つの意見に集約出来るだろう。

私は、大坂なおみ選手に拍手を送りたい側である。いいよ、記者会見なんて、やらなくてもいいよ。テニスプレーヤーのすべてはコートにある。そこで持てる力を存分に出し切ったのなら、記者会見なんてどうでもいいんじゃない?

記者会見には2種類ある。会見する側が求めて開くものと、取材する側が求めて開かせるものだ。
会見する側が記者会見を開くのは、何事かを広く国民に知らせたいときである。言ってみれば、宣伝、PRだ。大会の主催者が選手たちに記者会見を強要するのは、いくらきれい事を並べたところで、つまるところはファンを増やし、スポンサーを増やして実入りを増やすのが狙いだろう。選手は、CMに出てつまらない演技を繰り広げる芸人と同じ扱いである。
であれば、

「私、そんなの嫌だもん」

といって何が悪い?

無論、会見に応じるという選手がいてもいい。記者会見に参加する記者たちが、その一問一答で記事に深みを与えることが出来るのなら、それはそれで結構なことである。だが、スポーツの本質は競技にある。それを活字で、あるいは映像で伝えることが記者の仕事だとしたら、競技者のコメントがなくてもみごとに競技の魅力を伝える原稿、映像を紡ぎ出せばいい。それがプロではないか。

「ごっつぁんです!」

としかいわない相撲取りにどれほどインタビューしてもろくな記事や映像は出来ない(延々とこの手法をとり続けるのは、かのNHKである)。相撲に限らず、様々なスポーツで試合後のインタビューが行われるが、

「見て下さっている方々に勇気をあげたいと思ってがんばりました!」

なんて、毒にも薬にもならないコメントを記事なんかにせず、終わったゲームの魅力をゲームそのものからから引き出す筆力、企画力がなくて、なんでスポーツ記者が務まるわけ? と私なんぞは思ってしまう。

ご存知の方は少ないと思うが、記者会見に臨んで記者の質問に晒されるのは、かなりのストレスである。ずっと記者会見場では質問する立場にいた私だが、2回だけ質問を受ける立場になったことがある。この「らかす」執筆の切っ掛けとなったデジタル・キャスト・インターナショナルという、いまはなきデータ放送局に出向していたときのことである。

社長はテレビ朝日から来ていた。会社の組織が出来上がり、いよいよ企業として動き始めるとき、記者会見を開くのは常識である。なにより、このデータ放送局の存在を宣伝、PRしなければならない。
その記者会見の前日だったと思う。社長が私にこういった。

「大ちゃん、俺さあ、記者会見って苦手なんだわ。まあ、最初の挨拶だけは俺がしなくちゃいけないんだろうが、あとは、あんたがやってくれんか。この仕事につては、俺よりあんたの方がはるかに詳しいしね。じゃ、頼んだわ」

こうして私は、生まれて初めて記者会見に臨むことになった。

緊張した。こちらが設定した記者会見ではある。だが、どんな質問が飛んでくるか解ったものではない。真剣勝負の場である。企業とは、できればそっとしておいて欲しい部分をどこかに持つものだ。そこを突っ込まれたら、どう答えればいい?

そんな心配が脳裏を駆け巡るからだろう。表面はにこやかにしながら、内心はガチガチに緊張していたように思う。社長の冒頭の挨拶が数分で終わった。いよいよ、私が記者の質問をさばくときが来た。

様々な質問が出た。世界にも類例を見ない、デジタル放送を使ったデータ配信をするというメディアである以上、記者にも知りたいことは沢山あるはずだ。
そんな質問に、主観的には誰にでも解る言葉と論理を用い、丁寧に答えていった。言葉が震えなかったのは儲けものである。

3、4問さばいた頃だろうか。ふと心に浮かんだことがあった。

「おいおい、その程度の質問しか出来ないのかよ。こっちが聞かれたくないと思っているところに直球を投げ込んでくるような記者はいないのかね? 俺がそっちに座っていたら、こんな質問をして回答者(この場合は私)を困らせるんだが」

そう、10分か15分で、私は落ち着きを取り戻していた。このレベルの質問なら右から左にさばけるぜ!

緊張で始まり、ゆとりで幕を閉じた記者会見だったなあ、と会見場を出ながら思った私だったが、しばらくすると何故か突然の疲れに襲われた。全身がだるい。仕事しようという気力が湧かない。

そう、すれっからしの私でも、記者会見でかなり大きなプレッシャーを受けたらしいのである。

私のようなすれっからしでもそうである。ましてや、繊細な神経を持たねば上に行けないプロスポーツの世界にいて、世界中の一流スポーツ記者の質問に晒される大坂なおみ選手が感じていたプレッシャーは、私の比ではあるまい。

どこかの首相、前首相のように、記者会見とは記者を煙に巻く場、と割り切っている方々にとってはたいしたプレッシャーではあるまい(その分、質問する記者たちの力量が問われるわけだが、現実は……)。だが、これまでを見る限り、大坂なおみ選手は聞かれた質問には実に真摯に答えていた。それだけに、受け取るプレッシャーは相当に大きかったはずだ。

大坂なおみ選手とは、これから先10年は女子テニスを引張っていく逸材である。その大逸材を、たかが記者会見を拒否したというだけでテニス界はつぶしてしまうのか?
引退をもささやかれ始めた。大坂なおみとは、何とも気になる女性である。

がんばれ、なおみ!

とエールを送っておきたい。