2021
06.05

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その8 プリアンプ測定の実際 2

音らかす

最大許容入力の測定法

近頃プリアンプの最大許容入力が割合大きな問題点として採り上げられているようである。本稿を終りまで読んで行けば解るように、そんなに何百ミリボルトも必要はないものである。メーカーが、他社と競争するときのカタログデータを少しでも良くみせようとした事が原因であるかも知れぬ。なお悪い事に、この最大許容入力を大きく見せるために、イコライザ段のNFB量を大きくとり、結果としてこの段でのゲインが不足気味になっているのは、あまり賞めたわざではない。

ところで、この最大許容入力は、歪率計で出力側の歪率を測りながら、例えば歪率何パーセントの時の入力電圧値を読むのが一番適当なのだが、かなり大袈沙な装置が必要になるので、その入力信号電圧を読むのが一般の測定法になっているようである。

測定法はいたって簡単で、第19図のようにジェネレータの出力信号をプリアンプのPHONO入力に入れて、そのレコーディングアウトプットにオシロスコープをつないで、入力信号を大きくして行くと、オシロスコープに映ったサインウエーブが欠け始める。このように欠け始める寸前の、プリアンプヘの入力信号電圧が何ミリボルトかを読み取るわけである。

クリスキットマークⅥを持っておられる方は、次の実験をやって見ると面白い。今レコーディングアウトプットでの出力波形を観察したわけであるがジェネレータの出力をそのままにしてプリアンプのボリューム、バランスコントロールをほぼ中点(つまり普段音楽を聞いている状態)にして、今度はプリアンプのアウトプット側でオシロスコープに波形を描かせる。先程のレコーディングアウトプットの時と殆ど同じ位の大きさの最大許容入力がある事が分かる。これはクリスキットマークVI(カスタム)のフラットアンプ及びバッファー段にも充分余裕がある事を示している。試みにいろいろな市販アンプなどで測って見ると分かるように、この出力段でも同じような最大許容入力が測れるのは滅多にない。

そこで、経験のある読者にはお解りだと思うが、この状態での1,000Hzでの出力信号電圧は40V以上になっている筈である。もし、最大許容入力が本機のように、360~420m Vも必要だとすれば、その時のプリアンプ出力電圧が40Vを越えているわけであるからとてもパワーアンプがもたない事になる。一般にパワーアンプの入力感度は0.5~1Vでフルパワーになるものなので、そこえ(「へ」の間違い)は、 どんなにしても40Vなんて信号は入れられない事になる。

試みに、マークVIカスタムと、クリスキットP-35をつないで、パワーアンプの出力が、その最大出力である35Wになったところで、プリアンプのPHONOへの入力信号電圧を測って見たら32mVであった。私共家庭で、とても35Wフルパワーなどでは鳴らせないものだから、プリアンプの最大許容入力は、その約5倍、つまり150mV(ボリューム、バランス中点)時もあれば充分である筈である。

第一、平均出力が5mV位であるから、その10倍もの信号電圧が出るわけはない。誰が言い出したのか知らないが、最大許容入力なんてものは、よっぽどつまらない設計のプリアンプでないかぎり、ことさらに考える必要はない。

最大許容入力をオーバーした信号が入ったので、音がクリップしてつぶれたのが分かる耳の持主の心理分析をして見たいものである。

チャンネルセパレーション

RIAA特性よりも、最大許容入力よりも、プリアンプにとってもっとも大切なのが、このチャンネル・セパレーション(Channel Separation)である、と私は思う。あまり性能の良くないプリアンプでの音のにごりは、大半がこのチャンネル・セパレーションの悪さによるものである。

一つここで簡単な実験をして見る。カートリッジのシェルのところで、左または右側のいずれかのリード線を外す。聴きなれたレコードを演奏して見る。当然の事ながら、音は片側からだけ出て来る。そこでバランスコントロールを使って、今その音が出ている側をしぼり切ってしまう。今度は反対側だけの音が聴こえている筈である。ずい分きたない音である。

この実験をして見ると、チャンネル・セパレーション特性がアンプにとって、どんなに大切なものであるかが解る。

或る市販管球式プリメインアンプについてこんな事を聞いた。『うちのボリュームコントロールがおかしいんじゃないかな。何だか、或る点から更に右へまわすと急に音が大きくなるんです』とその人は言う。これが、そのアンプのチャンネル・セパレーションの悪さのいたずらなのである。音楽を聴いているとき、フォルテのところでえらくやかましい音になる。そこでボリュームを少し下げる。ピアニシモのところまで来ると何とも頼りない。そこま(「ま」は不要)でまたボリュームを上げる。オートマチックボリュームコントロールが要る位である。

カートリッジのチャンネル・セパレーションがせいぜい26dB(20:1)だから、プリアンプのそれは、26dB以上あれば良いと言う説がある。とんでもないあやまりである。カートリッジのセパレーションが26dBでプリアンプが同じく26dBだったら、結果として1:9で左右の音がまじり合う事になるからだ。つまり総合的に18dBしかセパレーションがとれていない事になる。

このチャンネルセパレーションのうち、低音は主に電源から漏れるもので、高音はその飛びつきによるものである。したがって、大抵の場合、400Hzにおけるセパレーションが最も優れている。

名前は避けるが、某社のプリアンプのもれ具合いを二現像シンクロスコープで写し出したものをお目にかける。100Hz、1000 Hz及び10,000 Hzの方形波によるもので、両チャンネルの波高をそろえるために、もれて来た方の波形はシンクロスコープのゲインを高くしてある。もとの波形と似ても似つかぬ波形である。こんなに汚ない信号が各周波数によって31dB、21dB及び39dB分も漏れて来ているのだから、音がにごるのは当然の事と言わねばなるまい。こんなアンプでは、周波数特性や歪率が少々良くたって、良い音がするわけはない。ましてそれ等の特性もあまり良くないとあれば、ハイファイとしては失格である。

したがって、手持ちのアンプのチャンネル・セパレーションを測定して見るのも、大いに有意義である。

ジェネレータとミリバル(出来れば2台)で測定する事が出来る。高音はあたりに飛び出しやすいものなので、信号を入れているピンジャックのところから飛び出して、向う三軒両隣へ飛びまわるので、信号の入っている反対側の入カピンジャックに、メクラピンを入れて蓋をする。

まず簡単なフラットアンプから説明する。低い方から始め、30Hz 順次高音へ、RIAAのときと同じ周波数を入れて行く。ついでに20kHz、25kHz、30kHzも測定しておくと参考になる。信号を入れた側の出口の波形がクリップするところから約10dB下がったところあたりの0dBの目盛りを指すようにジェネレータの出力を合わせる。そしてもう1台のミリバルを反対側の出口に当てる。クリスキットマークVIカスタムの30Hzにおけるチャンネル・セパレーションは約−62dBであるから、レンジスイッチを6段左へまわしたところで0dB付近を指す筈である。

ミリバルが1台しかない場合には第20図のように、切り換えスイッチを使って、両方の出口を交互に読み取ることも出来る。出て来た数値をグラフに書き取って行く。

第20図

イコライザ段も含む、プリアンプ全体のチャンネルセパレーションも同じようにして測定するわけであるが、周波数によってゲインが変わるので、その都度出力側のミリバルが0dBになるように、 ジェネレータの出力を加減するのは勿論である。

同一チャンネルでの信号の混ざり合い、つまリクロストーク(Cross talk)はチャンネルセパレーションよりもっと有害なのだから、簡単に測定する事は出来ない。対策としては、出来るだけ回路を簡単にし、部品配置を工夫する以外に方法はない。あまり使用しないスイッチやつまみの数が多くなればなる程、この点では不利なアンプになる。

前回までのステレオ装置の合理的なまとめ方

〔第1回〕73年11月号レコード・プレーヤの巻その1

〔第2回〕73年12月号レコード・ブレーヤの巻その2

〔第3回〕74年1月号テープデゾキの巻

〔第4回〕74年2月号ステレオ装置のグレートアップに必要な測定器

〔第5回〕74年3月号テープデッキの測定法

〔第6回〕74年5月号私が使用しているステレオ装置

〔第7回〕74年6月号デシベルの意味とイコライザの測定:法

以上、電波技術 1974年7月号