2021
06.07

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その9 プリアンプの残留ノイズと増幅率 1

音らかす

残留ノイズについて

プリアンプに限らず、アンプ(増幅器)とは、入力信号を増幅するものであるから、その増幅作用によって、何がしかのノイズは必ず残るものである。殊に、プリアンプに於てカートリッジ等によって発生される非常に小さな信号を、パワーアンプをドライブするのに充分な交流信号に増幅するわけであるから、かなりゲインの高いものである事が分かる。

その上、プリアンプの出口へ出て来る残留雑音は、更にパワーアンプによって何十倍かに増幅されるものなのでたとえそれが、非常に少ないものであっても、スピーカからは、はっきりとノイズ音として耳に聴こえて来るものである。

このノイズを二つに分けて考えて見る。ごくわずかでも、ノイズとして耳障りであるが、あまり音質をそこねない高域ノイズ、ヒス音などがこれに属する。一方、それ程耳障りではないが大いに音質をそこねるもの、つまりハム音である。

まず高域(中域も含めて)ノイズであるが、初期のソリッドステートアンプには、このヒス音がかなり高かっだようである。このヒス音、良質のヘッドフォーンを使うと割り合いはっきりと分かるもので、こころみにテープデッキのモニター用フォーンジャックを通して聴いて見ると良く分かる。ローノイズテープの新品をひっかけて、(カセットでは、ノイズがかなりはげしいのでこのテストには不向き)再生ボタンを押して、ヘッドフォーンで聴いて見る。中音のレベルでもシーッという音がかなりはっきり分かる。これはヘッドフォーン用の内蔵アンプからも出ているので、テープのアウトプットにプリアンプ、パワーアンプとつないで、そのパワーアンプの出口のところからヘッドフォーンで聴くと、良質のテープだと、深夜でも、何も聴こえない筈である。聴こえたら、テープか、デッキか、それとも装置のアンプが落第である。中にはあまリトランジェントの良くないヘッドフォーンもあってこれからサーッとかシーッとか出るものもあるようである。

次にこのデッキで、入力を絞り切ったまま録音をして見る。今度はかなりはっきリヒス音が出るのが分かる。つまリバージンのテープに比べて消磁ヘッド—録音ヘッドを通したテープには、これだけヒス音(ノイズ)が増えた事が分かる。

ここで、アマチュアと言うより、マニアの中にデッキの消磁ヘッドでは、完全に消磁出来ない、と考えている人がある。だから、バルクイレーサーでテープを消さないと完全に消磁する事が出来ないと言うのである。これは大間違いで、バルクイレーサーで下手な消し方をするより、デッキについている消磁ヘッドで消した方がはるかにうまく行くし、大袈裟なバルタイレーサーを部屋にころがしておくわずらわしさもなく、腕時計を痛める事もないわけである。

上に書いた、バージンのテープを、録音状態にしたデッキを通す事によりヒス音が出るのは、録音ヘッドのイタズラなのである。録音アンプから出るノイズは勿論の事であるが、テープ独特のバイアスノイズがテープに移るからである。

私は何もここで、 もう一度、テープデッキの話をしようと言うのではない。プリアンプのノイズについて、より理解しやすいように、寄り道をしたまでである。

管球式、ソリッドステートの如何を問わず、ノイズゼロ、と言うプリアンプは存在しないものである。そこで、残留ノイズの大きさは、一体どうやれば判定出来るのかと言う事であるが、計器を使っての測定は後まわしにして実際に、プリアンプとして使用する時の、ノイズの大きさをどう判定するかについて考えて見る。

まず、プリアンプのボリュームを、通常音楽を聴く時のレベルに合わせる。そして、レコードに針をのせないで、いつも音楽を聴いている位置でノイズを聴いて見る。これを深夜にテストして見るとよく解る。良いアンプと良いスピーカだと、何も聴こえない。そこでスピーカに耳を近づけて見る。30cm、これでも、良い装置なら、何も聴こえない筈である。スコーカ、ツイータがあれば、それぞれに耳をつけて見る。これ等の方からサーツ、とかシーッとか言う音が聴こえると思う。そこで誰かに頼んで、 レコードの音の入っていないところ、例えば、小曲が八曲程入ったものの、音楽と音楽の間のところへ針をおろしてもらう。当然の事ながら、針音が出る。すぐに針を上げてもらう。音楽が夜半に出れば、近所迷惑になるからだ。

こうして、針音と同じ位のノイズが出ていたら、そのアンプもしくは、スコーカが落第である。

百人に一人位であるが『クリスキットマークⅥ・カスタムを作ったら、スコーカからサーッと言うノイズが出ますので』と言ってこられる方がある。クリスキットマークVIシリーズのプリアンプは、マッキントッシュC-22、マランツ♯7、JBL SG-520をはじめ国産品の一流と言われているプリアンプより、はるかにノイズが少ない事を、何度も立ち合って立証している。

どう言うものか、そのようにスコーカから、サーッと言うノイズが出ると言ってこられる方々のスピーカシステムがCS―R70と、同じくPAX―A20であるケースが多い。特定銘柄の批難はしたくないが、ノイズが出ると言われたのでは、黙っていられない。つまり正当防衛である。

しからば、 クリスキットを作るまでは、そんなにノイズが出なかった、と記憶しておられたとしたら、それは

(1)以前のアンプの残留ノイズが大きく、ハム、その他、低い周波数のものであったのが、 S/N比の良い、つまリハムがゼロになったプリアンプに変わったため、 よけいサーッと言う音が気になり出したため

(2)或るいは、それまで使っていたプリアンプの高域特性があまり良くなかったため、 このように過渡特性の良くないスピーカでも、ノイズも信号音も、そのあたりの周波数では出なかった(ハイカットフィルタを入れて、ノイズを減らすのと同じ理屈)事によるものである。

これ等の方々に、610Aで試してもらったら、サーッという音はみごと消えたと言う話。(ヨカッタネー)

一方ハム音は、上のような高域ノイズと違って、IMひずみの原因になり大いに音質をそこなうので、徹底的に退治しなければならない。

そこでちよっと寄り道をして、 IMひずみとは何かと言う事について考えて見る。混変調波歪率(Intermodulation Distortion)、Rudolf F. Graf氏のModern Dictionary of Electronicsによれば、一般に協和音以外の不要な周波数信号(ハムなど)によって、必要な信号が混変調されて、信号音がひずみっぼくなる事、と書いてある。

今ここに、4,000Hzの純粋音をアンプの入力に入れたとする。写真21Aが、その出力波形を、シンクロスコープで受けとめたものである。

写真21

この信号に120Hzの信号(写真21B)を重ねると写真21Cのような波形が’現れる。つまり4,000Hzが120Hzによって、混変調されたわけである。そしてこのように低域信号によって変調された信号から、その低域分だけをフィルタで取り除いて見ると、写真21Dのような波形が残る。写真21Aのものに比べて、蛇が何匹もの蛙をのみ込んだように、ところどころふくれている事が分かる。これが混変調波ひずみなのである。カタログに、IMひずみ何パーセントと書いてあれば、(一般にメーカーはその事をアマチュアに知らせたくないので、殆どメーカー製アンプのカタログには出ていないが、)写真21の点線からはみ出した部分の面積の全体に対するパーセンテージを示しものである。

このIMひずみは、高調波ひずみ(Harmonic Distortion)に比べて、はるかに音質をそこなうもので、音のにごりを作る最大の原因になっている。だから、ハムは、アンプの再生音の大敵なのである。

と、まあこんな風にして、そのアンプのノイズについて、耳で判定出来るのであるが、カタログでその性能を表わすのに、以上のようなテストの結果を、抽象的に書くわけには行かない。そこでS/N比という言葉が生まれる。アマチュアは一般に数学に弱い。マニアの度合いが進めば進む程、数学に弱くなるようである。そこがメーカーのつけ目である。

S/N比、入力換算−120dB。マニアはこれでコロリと参る。けれど、その数学がどんな計算によるものかについては考えようとしない。そこでそのからくりのタネ明かしをする。

今、非常にS/N比のすぐれたプリアンプと、パワーアンプをつないで、プリアンプのフォノ入力を閉じたままパワーアンプにダミーロードを入れる。スピーカターミナルの出力残留ノイズをミリバルで測りながら、プリアンプのボリュームを開けてゆく。そして、ボリューム最大のところで、 ミリバルが5mVを指したとする。

プリアンプの増幅率が128倍、パワーアンプのそれが33倍とすると、(128×33=)4,224倍の増幅率があるわけだから、5mVを4,224で割ると、(0.005÷4,224=)0.000001183という数字が出る。これをデシベルになおすと、−118dB、±2dBの許容量を入れて−-120dBという数字が出る。4,274倍に増幅しても、尚5mVしかし(不要)ノイズが出ないので、そのシグナル対ノイズ(S/N比)が0.000001183(約900,000分の1)だから、マイナス120デシベルと書いても、決してウソではないし、ちゃんとした計算上の事実なのである。

しかしながら、残留ノイズとは、先に述べたように、スピーカから、どの程度のノイズが出ているか、という事が大切なので、アメリカ製のパワーアンプのカタログなどには、こんな数値を入れないで、Inaudible(=聴こえない)と書いてあるものもある位である。

数字に弱い耳年増(みみどしま)のオーディオマニアに、スルーレートとかダンピングファクターのような数学的表現を使って、あやつろうというのがメーカーの魂胆である。ところが困った事に、一旦教育してしまったのだから、カタログには格好良い数字を並べておかないと、魅力がない。そして数字ばかり格好が良くて、音の硬いトランジスタアンプが市販されることになる。悪循環である。

JBLのスピーカには、国産のメーカーの発表するような周波数特性カーブがついていないが、 こんな考え方からすると、かえて合理的なのかも知れない。そして、オーディオ評論家が、摩詞不思議な表現を使うのに好都合なのかも知れない。

そんな抽象的な表現だと、と言われる向きには、測定器を使って、残留雑音電圧を測る事になるのだが、これにも他に問題がある。先程の5mVの雑音は、ミリバルで測ったら、あくまで5mVのところへ針が来るだけで、それがハムなのかヒス音なのかはさっぱり見当がつかない。そこでシンクロスコープが登場する。

シンクロスコープとは電圧を眼で見る装置であるから、残留雑音もあくまで交流信号電圧である事から見て、掃引時間(?=何のことか解りません)を変えて行くと、60Hzといった低い周波数から数メガヘルツまで、それぞれの波形を描き、その波形の高さが読み取れるようになっている。但し、2mV/m位感度の良いシンクロスコープでないと、役に立たない事は言うまでもない。

そんな風にしてその雑音成分を分析して、出来ればその対策を立てるのに大いに役立つ。

もっとも、自分の家で、スピーカから出る雑音には、カートリッジ、トーンアーム、 シールド線、プリアンプ、シールド線、パワーアンプ、スピーカと全体について検討しなければならないもので、 ノイズが出たからといってすぐに自作又は市販アンプのせいにするのは早計である。