2021
06.11

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その10 プリアンプのインピーダンス 2

音らかす

出カインピーダンス

インピーダンスのところでずい分時間がかかる、と思われる方があるかも知れぬ。インピーダンスというものはオーディオの音にとって、非常に大切な事なので、無駄ではないので、この事は充分頭に入れて欲しいと思うからである。書く方はもっと面倒なのだから。

第25図aのようなアンプがあると考える。その出力インピーダンスZはいくらかという疑間が出る。出ない方はこんな面倒な記事は読まないで、イカ銀先生のおつしゃる、音の『リヤリティー』について考えるのも良いかも知れぬ。そしてリヤリティーのあるコンポーネントを次から次へ買い換えて、泥沼でもがいていれば、そのうちに、オーディオの協会のようなところから表彰されるかも知れない。

第25図

第25図bのように外付された抵抗値を動かす事で、その出力信号電圧が半分になったところの抵抗値が、そのアンプの出カインピーダンスになる。

出カインピーダンスが高い程、外部誘導を受け易く、誘導ハムが入ったりクロストークが増えたりする。もちろん、この入、出カインピーダンスは、周波数によって変わるから、20~50kHzまでのいろいろな周波数により測定する必要があり、プリアンプの出カインピーダンスは、一般に低い方が良いと考えるのが妥当であろう。

インピーダンスマッチング

これは誠に複雑な理論である。この事を、電気についての予備知識を持たない人に解り易く、すべてにわたって説明することは不可能である。たとえ出来たとしても、これだけで一冊の本になるであろう。

しかし、解らないからほうって置くというわけにも行くまい。合理的にオーディオリスナー(マニアはこの際教室から出ていただいた方が良いかも知れぬ)として音をまとめて行くのに、インピーダンスマッチングという理屈が非常に大切な事なのだから……。

第26図を見てみる。aがプレートフォロワー(Plate follower)の管球式プリアンプに、ソリッドステートのパワーアンプをつないだときの、シールド線による結合の様子である。

第26図

プリアンプ側に深いNFBが掛けられていて、その出カインピーダンスが1,000Ω位に低くなっているとして、二つの回路をつなぐときに、その間に出力インピーダンスは低く、入カインピーダンスを高く、という原則から考えると、そのインピーダンスマッチングは、1kΩ:47k Ωであるから、一応問題はない。出力用カップリングコンデンサが0.05μFであるために、こんな結合では低音がさっぱり出ない。くどくどとこの事を書くのは、クリスキットP-35をテクニクス30AやラックスのC L35(H)につないだが、音が硬くてうまくないと言って来られる方が割り合い多いからである。

先日も瀬戸市のあるマニアの方から同じようなお便りをいただいた。クリスキットP-35を作って、手元にあるテクニクス30Aにつないだら、音がこもってうまくない。ということで、クリスキットパーツセットの広告が誇大宣伝である。と、まことに読むに耐えないような雑言罵詈を使って批難をして来た方がある。大いに頭に来たが、こんな手合いと喧嘩をするほど私はバカではない。事の道理を説明して、プリアンプの出力用カップリングコンデンサは、上記に述べたような理論のため、P-35の入カインピーダンス47kΩに合わせるためには、大きなものと取り換える必要がある旨を御説明申し上げたのだが、その事には全然耳をかさないで、30Aの出力段はSRPPになっているので、非常に出カインピーダンスが低いために、インピーダンスマッチングの問題は全然ないと言って来られた。そしてMQ60(わざわざキットでなく、メーカー製品であることを明記してこられた)の方がはるかに音がよろしいという御意見である。

前々から、こういう手合いに掛かわり合いたくないと考えている私のことであるから、理論も考えないでアンプを作り、これまた理論も考えないで、インピーダンスマッチングのあまりうまくないアンプどうしの結合をしておきながら、クリスキットの広告が誇大宣伝であるとお考えの方には、正直いってクリスキットを使ってほしくなかったので、お便りを差し上げて、あなたはアンプの自作をするのに相応しくないので、パーツセットにお使いになった代金をお返しするので、クリスキットをお返しいただきたい。そしてお気に召したMQ60をお使いになった方がよろしいとお答えしたら、今度は、出来るだけ安く、出来れば無料でその方のお作りになったアンプを測定し、左右チャンネル別々の入、出力特性、高調波ひずみ率、周波数特性、ダンピングファクター値、安定度(発振等)を測って欲しいという返事。これにほとほと参ったが、今でも、こんな方はにはクリスキットは使ってもらいたくないと思っている。

この原稿を仕上げる時点で、最後のお便りから10日あまり経つが、今だにアンプを送ってこない。理論をほったらかして、耳学問に頼っている方の立派な見本である。

MQ60の方がP-35より音が良かろうが、キットのKMQ60より、メーカー製のMQ60の方が良かろうが、私には掛かわり合いはない。しかし、インピーダンスマッチングを無視してのヒアリングテストは、ビフテキと、鯛の活けづくりとどっちが美味しいという事と同じで、こんなのに掛かわり合っているのが面倒だから、敢えて、お解かりにならない方に説明したままでである。ついでに言っとくが、どんなに良い材料を使っても、鯛の活けづくりに刺身醤油とわさびがなければ、味は、特殊な方には別として半減する。

また話が横道にそれた。

インピーダンスマッチングが、1kΩ:47kΩで、そのカップリングコンデンサの容量を大きくすれば一応問題はないのだが、ここで考えなければならないのは、プリアンプの終段のプレート抵抗である。もし、それが図のように100kΩが最適である場合には、大きな問題である。図で解るように、この100kΩと47kΩとは信号にパラレルに入るからその合成抵抗は32kΩに落ちてしまう。つまり終段のプレート抵抗に100kΩが入れてあったものが、32kΩに減ってしまったわけである。真空管の負荷抵抗が、100kΩであろうが32kΩであろうがおかまいなし、という理論がある筈はない。この事は雑誌の製作記事で良くみかけるロードラインの理屈を考えれば解る筈である。

この事は、第26図bのカソードフォロワー(Cathode follower)のプリアンプのときにでも同じように当てはめる事が出来る。この場合にも、終段のカソード負荷抵抗(この場合は、この球の負荷になるので)の47k Ωとパワーアンプの入力抵抗の47kΩがパラレルに入って、23.5kΩになる。そして、その負荷が23.5kΩになっても間題がなく、むしろ、その方が47kΩの時より歪率その他が良い場合であればかえって良いのだが、そうでない場合は、ここでひずみが増える事になる。

したがって、ソリッドステートパワーアンプに、管球式プリアンプをつなぐときは、充分その結合について考えなければならない。

多少コマーシャルじみてはいるが、クリスキットマークⅥカスタムは、始めからソリッドステートに向くように設計してあるので、全然問題はない。

インピーダンスマッチングの一例をあげた。この事は何も、プリアンプとパワーアンプとの結合のみではなく、プリアンプとテープテッキ(LINE INPUTは10kΩ~100kΩになっているようなので、カタログでよく調べておく必要がある)にも当てはめる事が出来る。簡単に述べたが、インピーダンスマッチングとは何かという概略でも解ってもらえば、この項を書いた意味がある。

次に、歪率について述べる事になるのだが、その原理も、測定に要する器具もかなり複雑で、その上、アマチュアが、年間一、二台のアンプを作るために、それ等の測定器をそろえる事にも多少疑間が残るので、パワーアンプの項で、プリアンプの歪率測定も合わせて詳述することにする。それから、歪率よりもっと大切な事に発振があるが、これもパワーアンプと共通するので、その折に述べる。

アマチュアの測定に関する件はこれ位にして、このあたりで、オーディオリスナーとして、ひとつプリアンプを見直して見る事にする。

モジュラー型やセパレートタイプの場合は、アンプのすべてが一つにまとめられているのだから、プリアンプの選定の余地はない。

一方コンポーネントとなると、それこそプリアンプはごまんとある。全くピンからキリまで、賑やかな話である。良くオーディオ雑誌で、ブラインドテストの類いの記事で、どのプリアンプはどんな音がして、コストパフォーマンスがどうの。戦前には、カメラ評論家なる職業があって、外国語が少し解って、機械に多少明るい連中が、輸入カメラをあれこれ評論してまわったものである。最近感光材料が抜群に良くなって、少々露出オーバーでも立派に写真が写り、E.E.機構が入って来るようになって来ると、誰にでもカラーで撮れる。その上、出来上がったプリントは誰が見ても、ビントが良いか、露出機構が正しく働いていたかどうかが判定出来るし、その証拠になる写真は、ひどい乱視でもないかぎり、ある程度正しい評価が出る。

ところが音となると、出たとたん消えてしまうものである。たとえそれを録音しておいたとしても、それを再生する折に、出た途端に零点何秒かの残響は残るとしても、消えて行くものなのである。音はすれども姿は見えぬ。文字通りつかみ所のない話なのである。その音をある評論家がどう評価しようと、私にはそう聴こえた、と言われてみれば、反論の余地はない。

どのプリアンプとどのパワーアンプで、カートリッジが何でスピーカが何処のもの。そんな組み合わせでウィーンフィルハーモニーの音が出て、それがクオリティーからリヤリティーに発展して、グレードアップ(Up grade)をするための、何とか作戦。

二、三度読み直して見ても、サッパリ解らない評論がかなり多い。二、三ケ月前にベタ褒めにしていたコンポーネントの事をそっちのけで、そのライバルとも言える機種の事をやたら賞めてあるのにぶつかる事もある。これではアマチュアが迷うのも無理のない話である。これは一方的に評論家を責めたり、メーカーの広告のせいにするわけに行かない問題である。これらの評論を聞きかじって、理論にそっぽを向いた耳年増のアマチュアというより、マニアも悪いのだ、と私は思う。

メーカーがA級の音はこうで、このアンプのスルーレートがどうだ、と書いたら、マニアはその理論は全然無視して、何がA級なのか、スルーレートがどういう事なのかも充分理解出来ないのに、A級だからこんな音がすると話に花が咲く。そしてこんな風に、マニアを耳年増にしてしまった手前、メーカーもカタログ的測定にあの手この手でマニアの御機嫌を取る。そこに高価だから高級品だという考えが生まれ20年近く前の舶来アンプにまぼろしのアンプという名前がついて、ひと桁まちがえたような値段がつく。音楽そっちのけのオーディオ道楽である。

高価なもの程良い、と思われる方々が道楽だとばかり、音楽をそっちのけで、金銭(かね)に糸目をつけないで、高級(とは私は思わないが)品を次から次へとお買いになるのも、まことに結構な事で、オーディオ産業から見れば、偉大な貢献者であるかも知れぬ。

ところが困った事に、コンポーネントが、その値段の点で急速にエスカレートしていくのはあまり有難くない現象である。先日、これからステレオを始めようという方が、オーディオ屋に行って、予算¥300,000と持ちかけたら、店員が困ったような顔をしたという話。生活必需品ではないので、公正取引委員会も手の出しようがない。

家庭電化製品売場で¥300,000も出せば、電気冷蔵庫、ジューサー、カラーテレビと買ってみてもその半分も要らないだろう。

最近、最高級品のプリアンプとパワーアンプが両方共同じ値段というのが広告でみた。これには開いた目がふさがらない。その構造が違って、主要部品がそれぞれ異なり、製造工程が別で外観もかわるプリアンプとパワーアンプが全く同じ売価になるのは一体どういう事なのであろう。全く原価計算書を見せてもらい度い位である。生活必需品ではないから、通産業省も手はつけられまい。

これもひとの事、私には何のかかわり合いのない話であるが、そのために妥当な値段と考えられる実用品が安物の部類に入ってしまって、悪く言えば手を抜くような事になったら、それこそ大変である。ひと事とも言っておられまい。

以上、電波技術 1974年9月号