2021
06.18

ステレオ装置の合理的なまとめ方 その12 パワーアンプその1-3

音らかす

ダンピングファクタ

アマチュアの中には、アンプのダンピングファクタと、スピーカの制動などに使われるダンピングという言葉を混同しておられる方が多いようである。オイルダンパー、マグネットダンパー、ゴムなどの弾性体を使ったダンパーなどは、すべて動きを制動するための緩衝材の事であって、ここ(「で」が抜けている)言うアンプのダンピングファクタとは違ったものなのである。

話を解り易くするために、一番簡単な、ON—OFF法と呼ばれる方法でアンプのダンピングファクタの計り方について述べる。

第36図のように、被測定アンプに信号を入れて、スピーカ端子に負荷抵抗(RL)を入れないで交流信号電圧を計った時に1Vになるようにジェネレータの出力を加減する。次に、そのアンプの出力端子に負荷をかけると、1V(を)指していたミリバルの針が0.9Vまで下がったとする。これを次の式に入れると

(但し、E0 を無負荷のときの電圧、ERを負荷を入れたときの電圧とする)

になるから、そのアンプのダンピングファクタは9だったと解る。真空管の時にはそれで良かったのであるが、ソリッドステートになってから急にダンピングファクタが大きくなって、45~100なんでもあまり珍しくはなくなって来た。

第36図

上の方法でダンピングファクタを99になるようにするためには

の式で解るように、ミリバルの針が、1/100Vつまり0.01V下がるものでなければならない事が解る。ミリバルの1Vレンジで0.01Vを正確に読み取る事はかなりむずかしい。その上よっぽどしっかりした定電圧装置を使ってアンプを駆動しないかぎリミリバルの針は3%近くは絶えず動いているものである。1Vの2%は0.02Vでぁる事から見ても、 こんな計り方はあまり当てにならない事が解る。参考までに、針が、0.99、0.8、0.97……0.91、0.9と下がったときの、ダンピングファグタの計算値の表を第2表に示しておく。これで解るように、針が0.99に下がるか、0.98までしか下がらないかでダンピングファクタは49から99と大きく変わる事が解る。しかも、 これは誤差ゼロのミリバルで、完全に安定していて、針がビクとも動かないとしての話である。私共アマチュアが、完全に外部誘導のない部屋を持つわけにはゆかないし、よっぽどの大会社でも、完全鉛張りの部屋に、完全に安定化された電源を持ち、数百万円の測定器でこのダンピングファクタを測定する装置を持たないかぎり、ダンピングファクタ75なんてどんびしゃり計る事は出来ないものである。

第2表

興味のある方は、上記の

に当てはめたときに、そのD.F.が75になるようにするには、ER が EO=1Vに対して零点何ボルトであれば良いかを計算して見ると良い。計算出来たとしても、小数点5桁以上のERを普通のアナログ式ミリバルで読み取れるかどうかを考えて見ると良い。

こう考えると、もし何かの記事にダンピングファクタ75なんて数字があったら、それが一般に知られている大先生の記事であったとしても、これはおかしい、とお気付きになる筈である。

結論から考えると、データーの中にあるダンピングファクタとは、こんなものだと考えれば良い事になる。

そこでこのパワーアンプのダンピングファクタが、スピーカに、一体どんな影響を与えるものなのかという事について考えて見る。

手許に、スピーカユニットがあればこの原理を簡単に確かめる事が出来る。コーン紙のところを手でそっと押して見る。当然の事ながら、その、コーン紙はふかふかと動く筈である。今度はスピーカターミナル同志を電線でつないで、同じようにコーン紙を押して見る。今度は前のように簡単に動かないことに気が付く筈である。つまり、 ジヤンパー線を入れる事によって、スピーカコーンにダンピングが効いた事が解る。

通常音楽を聴く時は、このようにジャンパー線を入れたのでは、音が出ない。そこでアンプにつないで灯を入れた時に、同じような作用があれば、ダンピングが効いた事になる。真空管時代には、パワーアンプのダンピングファクタが10以下のものが殆どであったために、このダンピングファクタが比較的問題になっていたようで、しかも7であるか10であるかが、アマチュアにも、ソリッドステートアンプに比べて、割合簡単に測定出来たわけである。

もっと科学的にこの実験をする方法がある。クリスキットP-35のようにアウトプットトランスのついていないアンプにつないだスピーカの端子にオシロスコープをつないで、アンプに灯を入れないでおく。オシロスコープは1,000Hzのレンジにして置いて、感度をいっぱいに上げた方が、波形が見やすいと思う。

スピーカの前で手を叩く。ブラウン管に波形が現われるのが見える。コーン紙が拍手の音で波動し、それにつながっているボイスコィル(voice coil)が動いて、起電力が働いたからである。

今度はアンプのスイッチを入れて同じテストをやって見る。今度は波形は現われない。ダンピングが効いてコーン紙が動けなくなったからである。こういう具合に色々な実験を重ねて行くと、自然に、ものの理屈が解って行く。オーディオの楽しみの一つだと言えるかも知れない。

その上、ダンピングファクタは、使用スピーカのQOに対して

の計算でその作用が決まるものだから仮に或るスピーカのQOが0.6だとすれば、ダンピングファクタが(「5」が抜けている)のアンプでは

となり、ダンピングファクタが、9、50、100であるそれぞれのアンプに当

てはめると

といった数字が出る。

ここで気が付く事は、ダンピングファクタが5のものと、9のものとではかなりその効果が違って来るが、9を越すと、9でも50でも100でもあまり大きな違いがない事が解る。言いかえれば、50でも100でも結果は大して変わらない。もし、或るアンプのダンピングファクタが95あるから、45のものに比べて低音がしまっていると言う人があったら、その人は立派なマニアである。それこそ超自然的耳の持ち主で座頭市でもかなうまい。それこそ、その超自然的能力を発揮して、スプーンでも曲げて見せれば、世界的権威を得る事だって出来るに違いない。そんな人に限って、ダンピングファクタが5以下である2A3シングルの音が良いとおっしゃるものである。理屈が解ってものを言っているのかね。

[訂正] 74年10月号「クリスキットP-35Mパワーアンプ(73ページ)」中に誤りがありましたので訂正しお詫びいたします。

・第1図(P.74)の右下、フォーンジャックの配線要領の説明に3.4:各chのスピーカダーミナルヘと、とありますが、これは3.7の誤りです。またすぐ下のダイオードRD-16A×2は、RD-13A×2の誤りです。(従って、第1表部品一覧中、右下の小物類にあるツェナーダイオードも RD-13A(M)(2)です)

・実体図(P.83)電源部
ブロックコンデンサのプラス同志をつなぐべき線及びパワースイッチにハンダづけすべき0.01μFオイルチューブラーコンデンサが描かれていませんので御注意下さい。

〇ラグ端子にハンダ付けしてあるRM1/2Gは2kΩとなっていますが、これは1.8kΩの誤りです。

〇フォーンジャックからの配線は、23番ピン及び6(の左側の線)、7番ピンからの線の行き先がそれぞれ逆になっていますが、 この箇所の配線は第6図(P.79)のフォーンジャックの配線要領を御参照の上、配線を行なって下さい。

 

「前回までのステレオ装置の合理的なまとめ方」

〔第1回〕 73年11月号 レコードプレーャの巻(その1)

〔第2回〕 73年12月号 レコードプレーャの巻(その2)

〔第3回〕 74年1月号 テープデッキの巻

〔第4回〕 74年2月号 グレードアップに必要な測定器

〔第5回〕 74年3月号 テープデッキの測定法

〔第6回〕 74年5月号 私が使用しているステレオ装置

〔第7回〕 74年6月号 デシベルの意味とイコライザ測定法

〔第8回〕 74年7月号 プリアンプ測定の実際

〔第9回〕 74年8月号 プリアンプの残留ノイズと増幅率

〔第10回〕 74年9月号 プリアンプの入出カインピーダンス

〔第11回〕 74年10月号 プリアンプのアクセサリー

以上、電波技術 1974年12月号